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クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

性別
将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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シュガーキャッスル インザスカイ

15/07/24 コンテスト(テーマ):第八十八回 時空モノガタリ文学賞【 罠 】 コメント:14件 クナリ 閲覧数:2536

時空モノガタリからの選評

マイノリティーの心情を描くのがとてもうまいクナリさんらしい作品ですね。「空から落ちる砂糖の城のおとぎ話」が、夜の世界に安住する人生の危険を例えたものとして非常に的確で、この創話により作品のクオリティがぐっと上がっていると思います。「見せかけの安穏さを手に入れたつもりでも、その裏で取り返しのつかないことがまま積もって行く」と自覚しつつも、夜に生きるしかない、思春期の二人のザラザラとした葛藤が、暖かく描かれていて読み応えがありました。

時空モノガタリK

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 ノコノコと呼び出されて来た夏の校舎の屋上で、同級生のタカユキの唇が血の香りを残して、私のそれから離れた。
 私は思い切り、タカユキの頬を張る。
「悪いけど私、喧嘩する人嫌いだから」
 ごしごしと、制服の袖で口を拭う。
「彼氏でもないのにのぼせていきなりキスする奴も嫌い。彼女がいるのに簡単そうな女にキスする奴も嫌い。私を簡単そうな女だとみなす奴も嫌い。じゃあね」
 高校三年にして初めてのキスは、鉄サビの味だったよ畜生。
 校舎の中へ降りて教室へ向かう途中、同じクラスのムツミが、廊下の先から私を見つめていた。
 二年生の時、女子グループからいじめられていた彼女を助けてやったことがあった。ムツミは私よりも小柄で痩せている。自分より弱い生き物は守っておこうと思ってやったことだけど、それ以降私の方が、見事にクラスで孤立した。

 学校が嫌いだ。
 隠れ場所もなく明るく照らされ、居場所の無さを思い知らされる教室は最悪だ。
 ムツミの件以降、私の生活はみるみる夜型になり、教室はほぼ私の寝床と化した。
 学校の外の夜の世界は、私に優しかった。好きなだけ一人になれたし、寂しくなったら光の集まる場所へ行けば良かった。
 こんなにも生き易い場所があるのなら、学校なんて実に馬鹿馬鹿しい所だと思えた。けれどそうやって甘え出せば、私という人間の伸び代は縮まるのだろうということも、何となく感じていた。私は、夜を制御出来るタイプの人間ではない。
 昔、空から落ちる砂糖の城のおとぎ話を読んだことがある。真っ白できれいで、舐めれば甘くて、とても素敵。けれど変わり映えしない空の風景に飽きた頃、城は海へ落ちて砕け、溶けて消える。
 私の人生も、同じようなものかも知れなかった。見せかけの安穏さを手に入れたつもりでも、その裏で取り返しのつかないことがまま積もって行く。
 緩やかな迷路のような罠に、そうと分かっていて自分から嵌まり込む。
 永遠に続くように思える十代も、間もなく終わる。

 先月、自宅の団地に帰ると、今は独り身の母親が、中年男を一人連れ込んでいた。
 夕方からビールをあおっている二人に挨拶もせずに、私は自分の部屋に閉じこもった。
 夜が更けかけた頃だった。
 母と男が口論になった。意気込む男を、母が諫めているようだった。
「あれは、まだ子供だよ!」
 母の声を聞いて、全身に鳥肌が立った。男の気配が、私の部屋に迫って来る。
 部屋のドアが開いた瞬間、私は渾身の体当たりで男を突き飛ばし、暗い街へ飛び出した。
 夜の中へ逃げ込めば、決して捕まったりしない自信があった。暗闇は私の味方のはずだ。その甘さこそが、夜の罠だったとしても。
 一晩中ほっつき歩いて、家に帰ったのは朝方だった。
 そして私は母の口から、突き飛ばされた男が頭を打って病院へ運ばれたことを知った。
 軽傷で済んだその男がムツミの父親だったことは、街の噂で数日後に聞いた。
 ムツミは私に何もしていない。私だってムツミを助けこそすれ、悪いことなどしていない。それなのに、二人して家にも学校にも、何となく居場所を失くしている。

 夏休みに入る間際のある夜、私はいつものように、特に宛ても無く団地を出て歩き出した。
 すると目の前に、制服姿のムツミが泣きそうな顔で突っ立っていた。
 かと思ったら、ムツミはやおら私にしがみつき、唇を重ねて来た。
 吐息に、煙草の匂いがした。大人しそうな顔してなかなかやるな。私は中学で卒業したけどな。しかし人生二度目のキスはヤ二の味だこん畜生。
 いや、そうじゃなく。
 どういう感情のこんがらがりでこんな真似に及んだのか、聞こうとした時にはムツミは逃げ出していた。
 つい、追いかける。運動音痴のムツミの腕を、私は十数秒であっさり捕まえた。
 ムツミは顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
 問いただすのは簡単だ。けれど、何も聞かないというのも不可能ではない。
 目の前でぼとぼとと落ちる涙を見ていたら、私の疑問は今すぐに追求しなくても良いような気がして来た。
 今のムツミが、言葉で答らしいものを口にしても、それはきっと充分ではなく、正確でもない。なら、今は答えてくれなくて良い。
 私を包んでいた夜の罠が解かれて行くとしたら、それは例えば、こんなおかしな夜なのだろう。
 棒立ちになっていたムツミの手を静かに引いて、私は暗い歩道を歩き出した。
 私には、この静かで寂しい闇の中で、こいつを拒絶しない自由がある。
 だから少し、一緒に歩こう。
 砂糖の城に翼は生えない。
 でも、落ちる海くらいは選べるよ。

 お前は泣いてるし、私はだいぶ混乱してる。
 ちょっと落ち着くために、良かったら、煙草を一本分けてくれ。
 黒い空へ、一緒に、白くて甘い煙を吹き出そう。
 まだ、泣いていて良いよ。


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このストーリーに関するコメント

15/07/24 クナリ

砂糖のお城のおとぎ話は作中の創作であり、実在しません。
仮に似たようなお話があったとしても偶然であり、筆者に引用の意図はありません。

15/08/02 つつい つつ

 行き場のない感情や焦燥感、本人にさえ理解できない衝動、いろいろなものが渦巻いてる中にも、優しさに包まれていて心にひっかかる作品でした。

15/08/02 クナリ

つつい つつさん>
思春期を描く、というのは自分の中の大事なテーマのひとつです。
自分のコントロールというのはその際にとても重要なファクタなのですが最終的には救われる形で終わるのが理想でもあります。
お言葉、とても嬉しいです。
ありがとうございました。

15/08/06 滝沢朱音

この書き出しの一文、最高ですね!
「唇が血の香りを残して、私のそれから離れた。」めちゃかっこいい。いきなりヤられました。
クナリさんの作品には、思春期を思い出して、いつも胸がちくちくする感じがします。
最後の四行は、このままブルースになりそうですね。

15/08/07 クナリ

滝沢朱音さん>
実は毎回、書き出しの一文には気を配っているのです。
小説はイラストや漫画に比べて、良さ(面白さ)がわかるのに時間のかかる媒体だと思うので、一番最初に面白そうっぽく始めようとしているのです。
同じくらい、終わり方も考えて終わらせているので、こちらもお褒めの言葉大変うれしいです。
コメント、ありがとうございました!

15/08/11 光石七

居場所を失くし、負の影響をもたらすと薄々気付いていながら仮初の安寧に身を置き、突っ張って、不安定で、でも優しくて……
登場人物の息遣いまで聞こえてくるような描写に圧倒されました。
クナリさんは思春期の少年少女を描くのが本当に上手いですよね。主人公の性格や感情がとてもリアルと言いますか。くどくど説明的に書いてしまう癖がある私としては、最小限の言葉で人格や心情を的確に表現する技量が羨ましい限りです。
仄かに希望の光が見えるラストもいいですね。
素敵なお話をありがとうございます!

15/08/14 クナリ

光石七さん>
思春期の、特にドロップアウトしかけの少年少女を書くのは、自分のひとつの目標でもあります(だからクナリの書く主人公ってこの年代ばっかしッ)。
ヤンキー、オタク、はぐれもの…さまざまな名前をつけて分かったような気になられていく子供たちの、檻を破る過程が描きたくて仕方なかったりします。
夜という逃げ場所は場合によってはとても優しいのですが、とどまり方や触れ合う相手によっては容易に危険なステージになってしまう、なかなか悩ましいものですよね。
この主人公は、自分が簡単に後者に悪影響を受けてしまうことを自覚しているので助かった部分もあるのですが、そうでない人は…。
最小限の言葉で表現しようという試みは、完全にこのサイトで鍛えられたものですね(^^;)。
コメント、ありがとうございました!

15/09/02 海見みみみ

拝読させていただきました。
作中に出てくる砂糖のお城のおとぎ話がいいアクセントになっていますね。
キスの味について語る主人公の言葉にユーモアがあって良かったです。
最後の展開もいいですね。
とても素敵な作品でした。

15/09/02 6丁目の女

これは!すごい!

緊張感があり、高揚しつつ、最後まで期待を裏切らない、どころか!

技術を上げたりキレイにまとめるその前に、「血を流せ」という声が聞こえてきたような・・・誰の?小説の神様の??

という具合にいたく感激しております!素晴らしい!!

15/09/05 クナリ

海見みみみさん>
絵本が好きなので、できればこの砂糖の城のお話を自分で描いてみたいなあ…などとも思うのですが、そっとしとくのがいいかなとも(^^;)。
主人公のキスのくだりは、当初ちょっと殺伐とした話になりそうだったので少々コミカルな書き味にしてみよう…などと思っておりましたッ。
コメント、ありがとうございました!

6丁目の女さん>
掌編とはいえ、文章を最後まで読んでいただくことの難しさを踏まえながら、毎回書いております。
ですので、緊張感その他、最後まで苦なく読んでいただけれたのであれば、大変光栄ですッ。
終わり方含めいろいろ悩んだのですが、この登場人物たちの感情の決着は書き手の都合できれいにまとめるのではなく納得いくまで本人たちに突き詰めてほしかったので、この後に続いていく前途は明るいものですよ、ということを匂わせるラストにしました。
たいてい、きれいにまとめようとすると失敗するので(^^;)。
コメント、ありがとうございました!

15/10/02 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

砂糖の城はもろくはかなく、けれど甘いのだなあと思いました。
ひとりの涙はしょっぱいけれど、もしかしたら誰かと一緒ならば甘いのかもしれません。
わたしの中に在る砂の城と、どこか似ていてやはりそこが決定的に違うのかも、とか、
個人的なことに勝手に思いを馳せたりしております。

パピルス掲載決定、おめでとうございます!

15/10/03 クナリ

そらの珊瑚さん>
お恥ずかしながら、掲載していただけることとなりました…。
ありがとうございます。
砂糖の城のお話は、たとえ話というものに対してあまり肯定的ではないクナリとしては、そんな自分への挑戦状のような意味合いもあって盛り込んでみました。
結局、受け取り方というのは、受信者の人格や解釈によるのだろーなあ…という当たり前のことに、いまさら思いをはせてみたり。
コメント、ありがとうございました!

15/10/07 草愛やし美

クナリさん、パピルス掲載おめでとうございます。

クナリさんは独特の世界を持っておられていつも感心して読ませていただいています。
初めこちらに来られた時は、ホラー好きな方なので、ホラーを主に書かれるのだと思っていましたが、ホラーも素晴らしいですが、社会問題を提起されるような深い内容の作品の数々も書かれていて、本当に素晴らしいと思っています。  今後も作品楽しみにしています。

15/10/10 クナリ

草藍やし美さん>
当初は、ホラー中心になるのだろうと自分でも思っていたのですが、ラブコメ(?)だの歴史ものだのを通り、たまにはミステリなんかもやり、やっぱりホラーも書いたりして、好きに書いております(^^;)。
その中で、どうも自分は仲間外れ的な少年少女があがいたりもがいたりへし折れたりしながら再生する、という方向性を好むらしいことが分かって来ました。
これって、昔好きだった(今もですが)乙一さんという小説家様がおられ、あんまり本とか読まなかった時期に気まぐれに読んでかなりの衝撃を受けたので、どうもその影響のようなのですが。
きっとこれが、クナリという人が一番やりたいことなのでしょう。
ご期待に添える作品を提供できるよう、精進して参ります。

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