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たっつみー2さん

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タイムレター

15/07/18 コンテスト(テーマ):第八十七回 時空モノガタリ文学賞 【 私は美女 】 コメント:0件 たっつみー2 閲覧数:833

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 〈手紙〉河合直人 美貴子様
この手紙を二人が手にしているということは、私は負けてしまったんだよね。心配させたよね。苦労させたよね。迷惑かけたよね。いっぱい私のためにがんばってくれたのに、たくさんの愛情をくれたのに、何も返せなかったよね。本当に親不孝な娘でごめんなさい。いっぱい伝えたいことがあるのに書こうとすると、今にも心が折れてしまいそうです。
なんか変だね。もう私は終わってしまっているのに、こんなことを書くのはおかしいよね。だから、一番伝えたかったいことを書きます。
大好きだよパパ。大好きだよママ。                      真貴より
〜追伸〜
中にあるもう一通の封筒は読まずに捨ててください。
                            
〈手紙〉山本海人様
愛しき君へ
中学三年の二学期の終わり、入院するために学校を去った女の子は、君のことが大好きでした。二学期になって席が隣になって本当に嬉しかった。授業の合間のおしゃべりが楽しかった。授業中までおしゃべりして、先生に「そこの二人」って注意されると、怒られているのに胸が高鳴っていました。
一緒にいればいるだけ、君への想いは重なっていきます。昨日より今日、今日よりも、きっと明日。会えなくても、雪のように舞い落ちてくる想いが、溶けることなく胸いっぱいに降り積もっていきます。
この間、お見舞いにきてくれた先生から、二十歳の自分への手紙をタイプカプセルに入れるという話しを聞きました。 
私は自分と賭けをします。五年後、こんな恥ずかしい手紙を受け取るのは自分だと信じて、この手紙もカプセルに入れてもらいます。私は必死にがんばります。辛いし、苦しいし、恐いけど、君への思いを胸に精一杯闘います。だから、もう一度書きます。
君のことが好きです。大好きです。                      河合真貴

 病院のベッドの上で手鏡を顔へと向けた。
 ある友達は「真貴ちゃんの笑顔って最高だね」といってくれた。隣の席の彼は「河合ってこっちも楽しくなるような、いい笑顔するよな」といってくれた。「私って、けっこう美女でしょ」おどけた調子でいうと、彼は「笑顔だけはなっ」とだけ≠強調して笑っていた。私は「だけってなによ」と返し笑っていた。
 笑顔を作り、鏡の中の私に問いかける。
「私は美女ですか?」
 青白い顔とやつれた頬はただ歪んでいるようにしかみえない。
 込み上げてくる思いで視界が曇っていく。
 卒業式の翌日、先生は車で3時間もかけて、またお見舞いにきてくれた。でも、会えなかった。会いたくなかった。こんな姿を誰にも見られたくなかった。
 だけど、ほんとは……みんなに会いたいよ。君と一緒に笑い合いたいよ。
 手鏡を床へと投げつけた。音を立てて砕け散る。
 吐き気がまた襲い掛かってきた。強い薬の影響で幾度となく襲ってくる苦しみと恐怖が、体力を奪っていく。必死に持ち続けてきた気力さえも。
   ★
 中学校の校庭の片隅には若き男女の姿がある。スーツや紋付袴、振袖と着飾った姿でおしゃべりに華を咲かせている。その輪から一歩離れたところに美貴子の姿がある。目の前の光景を眩しげに眺める瞳には涙が浮かんでいる。

 娘と同い年の彼らの晴れ姿に思わず涙ぐんでしまった。突然、娘の名が呼ばれ、慌てて前へと歩みでた。
 掘り起こされた土の横に、汗と土で顔を汚した中年男性の姿がある。美貴子は、「先生」と声をかけ、頭を下げた。そして、少し話しをし、封筒を受け取ると後ろへと下がった。
 封筒に目を向けると、宛名には夫と自分の名がある。確か五年後の自分へという手紙を埋めると聞いていたのだが……自分宛てではなく、私たち宛てにしていた手紙。そこにある思いに、つい涙がこぼれ落ちてしまった。
 ふと携帯電話が鳴っていることに気付き、耳にすると飛び出しそうなほどの元気な声が聞えてきた。
「手術、成功したよ」
 病院で知り合った友達の手術結果を、呼吸を忘れているかの勢いで、娘の真貴が伝えてくる。
 美貴子は、うんうん、と聞きながら、また涙を浮かべた。娘の病気があってから、すっかり涙もろくなった。特に嬉しいことがあると、すぐ思いが込み上げてしまう。今も、手術の成功は勿論、今日という彼女にとって大切な日を、友達のことを思い、過ごせる我が子が誇らしかった。
 ひと通り話しが終えた真貴が、「そうだ、ママ。私のタイムレターちゃんとあった?」
受け取ったことを説明すると、真貴は、「今日はありがとうね。あっ、それと、くれぐれも封筒は開けないでよ」と念を押してきた。 そして、「よっし、何とか同窓会には間に合いそうだし、すぐにそっちに行くから」といって電話が切れた。
 携帯電話の向こうに、あの子の輝く笑顔が浮かんでみえる。


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