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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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やさしいわな

15/07/17 コンテスト(テーマ):第八十八回 時空モノガタリ文学賞【 罠 】 コメント:4件 浅月庵 閲覧数:1015

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 私の家はお金持ちで、なおかつ私は箱入り娘で世間知らずなので、散々他人に騙されてきました。

 歳をとるにつれ、さすがにこのままではいけないといった感情が高まります。
 それなので、私を騙そうとする人間を注意深く観察するよう心がけると、一つ特徴を見つけました。それは私を騙そうとするとき、相手の顔が狐のお面みたいにちょっとだけ歪むのです。今にも化かしてやろうと企む醜悪な表情。私はそれに気づくと、前より犠牲を伴うことが少なくなりました。

 ですが相手も大人なので、頭を使い、私に罠を仕掛けてきます。親が事故に遭って治療費が足りないという話を周囲の人間に吹聴し、その上で私に助けを請う。私が手を差し伸べなければ、血も涙もない女だと周りから烙印を押されるでしょう。そういった大人特有の狡猾さが憎らしいです。

 ーーそんな人生のなかでも一人、私を心から愛し、結婚したいと申し出る男性が現れました。私は懲りず、その人を信じることにします。
 そして、息子もできました。私たち家族は幸せです。
 ......ですが心の奥底で、結局彼も最終的には私を罠に嵌めるのじゃないかと心配な気持ちもあります。
 
 そう思っていた矢先、なにかと都合をつけて彼と息子が二人きりで外出するようになったのです。
 私は不安で仕方がありません。きっと二人は、私をどん底へ突き落とす計画を立てているのでしょう。


 そして、とうとうその日が訪れました。夕方頃に夫は「これから出かけようか」と私の目にアイマスクを被せます。
 「レッツゴー!」息子に手を引かれ、私はそのまま車に乗せられたようです。どこ行くの?と聞いても、二人は内緒としかいいません。心臓がバクバクいいます。

 ーーどのくらい時間が経ったでしょう。目的地に着いたようなので、私は車を降ります。
 息子に、ゆっくりねと言われるのでその通りにします。私は基本、言われるがままです。


「......よーし、アイマスク外していいよ」夫の口調が喜びを孕んでいて、恐怖を感じます。これから私はどんな目に遭うのでしょう。

 ......目を開くとそこは屋形船内のようで、乗組員さん数名以外、お客さんは乗っていません。

「ママ、お誕生日おめでとう!」夫と息子は口を揃えます。
「僕からのプレゼント」息子に手渡されたのは、家族三人が並ぶ似顔絵。
「これはパパから。安物だけどね」夫はそう言って、私の首にネックレスをつけてくれます。

 そうでした、今日は私の誕生日なのです。すっかり忘れていました。
 もしかして、この計画を練るために二人きりでコソコソしてたのでしょうか。
 私は驚きと嬉しさで泣いてしまいます。
 

 ーー家族三人水入らず、船上でご飯を食べます。
 私の幸せは今この時なのだと喜びを噛み締めます。
 この時間がずっと続けばいいな、と胸の内が温かくなります。


 しかし、そんな幸せも束の間、途端に二人の顔が曇り、狐の面に変わります。


「ママ、あのさ」夫が神妙な面持ちで口を開きます。
 私はすぐ異変を察知し、思わず吐き気を催します。やはりすべては罠で、結局最後に私を騙すのですか。

「言いづらいんだけど......」
「なに?」震える声をなんとか絞り出します。
「......車を買い換えたいんだ! もちろん、お小遣い減らしたっていいし、頭金はパパの貯金で出すから」「僕もいーっぱいお手伝いするから、新しいゲームほしいな」二人が罰の悪そうな表情を浮かべるので、思わず私は固まってしまいます。

 このサプライズもご機嫌取りのために張り切っていたのかと思うと少し腹立たしいですが、私はきちんと嬉しかったですし、なんだか拍子抜けしました。
 新車代もパパのお給料で払うのだし、車に寿命もきています。息子に至っては、ゲームなんて可愛いものです。
「わかりました。ただし、約束はちゃんと守ってください」私が笑みを浮かべると、息子と夫はハイタッチをします。改めて私は、この二人の前ではなにも考えず、心の底から笑っていいのだと思いました。
 愛する者だけを信じていればそれで道は真っ直ぐなのです。

  ◇
「休みなのに飲み歩いてて大丈夫?」
「大丈夫! 今日は嫁さんと太一、二人でデートだから」
「太一くん、前の奥さんの子どもでしょ? それにしては今の奥さんと本物の親子みたいだよな」
「嫁さんの実家お金持ちでさ、それにつけ込まれて、今までいっぱい騙されてきたんだと」
「それは可哀想だな」
「気づいたら子ども作れない年齢になって、だから余計に太一のこと本当の息子のように可愛がってくれてるよ。太一もよく懐いてるし。だからそんな嫁さんには幸せになってもらわんと困る」
「はは! 本当いい男だよ、お前と太一くんは。それだもん奥さん、二人にやさしいわな〜」


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このストーリーに関するコメント

15/08/07 滝沢朱音

わああ、何が起こるのか、殺人か、それとも…と身構えていて、
最後の最後でやられました。。。なるほど!

15/08/11 光石七

拝読しました。
夫には裏があるのでは……と疑いながら読み進めていましたが、二転三転の展開に予想外のラスト、心地よく騙された感じです(笑)
まさしく“やさしいわな”、面白かったです。

15/08/20 浅月庵

滝沢朱音さま

どうにかして予想を裏切りたかったので、
結構、強引なオチになってしまいました(笑)

15/08/20 浅月庵

光石七さま

2000字だと、なかなか展開の描写やスピード感が
難しかったのですが、騙せて良かったです(笑)

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