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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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掃除機は人に向けてはいけません

15/07/13 コンテスト(テーマ):第八十六回 時空モノガタリ文学賞 【 掃除 】 コメント:10件 光石七 閲覧数:1351

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 隣でマニキュアを塗る女。その様子を横目で見ながら、そっとため息を吐く。このバンには空気清浄機能が付いてるから臭いは抑えられてるけど……普通、家でやるものでしょ? 大体なんで今なの? 私たち、清掃の仕事に向かってるんですけど。まったく最近の若い人は……。
「イラさん、この仕事初めてよね? 何か不安なこととか聞きたいこととか無い?」
心中を隠して笑顔を作り、新人を気遣う優しい先輩を演じてみる。
「別に」
素っ気ない返事。私のほうを見ようともしない。実際に現場に行かないと疑問も出てこなかったりするから、質問が無いこと自体は構わないけど、まるでやる気が感じられない。初仕事なのに緊張感すら皆無。たかが清掃と舐めているのか。
「ねえ、それ乾くのに時間かからない?」
遠回しに皮肉を言ってみた。この仕事に爪のおしゃれは不要だ。
「超速乾なんで」
あっさり答えられる。やはりこっちを見ない。
「でも、仕事に差し支えない?」
「別に。掃除機かけるだけだし」
やっと顔を上げたと思ったら、手をかざして塗り具合を確認しただけだった。
「いやいや、他の道具も後ろに積んでるでしょ? 掃除機も業務用だし注意して扱わないと。特に、人には絶対向けないよう……」
「ちょっと黙っててくれます?」
ラメの配置に集中したいらしい。まったく……。叱りつけたいが、辞められては困るので我慢する。上司から「今度若い人を辞めさせたらクビ」と言われているのだ。ちょっと強く言っただけで逃げ出すほうに問題があると思うけど、私にも生活がある。この歳で再就職先を探すのはかなり厳しい。
 今日担当するエリアはガラクシソルエ。根強いファンが多い観光エリアだ。むやみに自然に手を加えてはならない決まりだが、近年エリア内のアスボルに生息するヒュメヌたちの暴走が懸念されている。今後の状況次第では駆除も検討するらしい。ま、私たちには関係ない話だけど。
 ほどなくガラクシソルエに入った。少し進んだところでバンを止めた。
「着いたよ」
声を掛けたが、イラはまだ爪にラメを塗っている。
「あ、いい感じじゃん」
悪びれる様子など無い。主客転倒もいいところだ。仕事が優先でしょうが。怒鳴りつけたいのをぐっと堪えてしばし待つ。
「出来た、っと。――じゃ、とっとと済ませますか。私、この後デートなんで」
バンの後部から掃除機のケースを運び出すイラの素早いこと。私のほうが中に置いてけぼりだ。そっちが時間をロスしたくせに。
「リモコンってこれ?」
勝手にスイッチを入れるイラ。掃除機がケースから飛び出し、ものすごい勢いで蛇行しながら周囲の浮遊物を吸い込んでいく。
「待って、まだ使い方を……」
バンを降りようとしたが、ドアが開かない。――あの子、さっき強制ロックボタンに触れちゃった? 解除に手間取っている間にも、イラは掃除機を好き勝手に走らせている。
「え、それ『超パワフルモード』じゃない? ちょっと、そっちに吸い込み口を向けたら……」
ゴミと共に、アスボルの隣のルノボルが掃除機に吸い寄せられる。

「所長、大変です! 月が消えました!」
「ん? 今日、月食が起こる予定なんかあったか?」
「違います! 吸い込まれました!」
「……どういうことだ?」
「ブラックホールのようです! 突然月の近くに出現して、どんどん地球に近づ……」

 なんとか宇宙空間移動機《バン》から降りた私は、イラが持つリモコンを上から無理矢理操作して《掃除機》のスイッチをOFFにした。
「なんで切るんですか」
「馬鹿! 何したかわかってる? ルノボルとアスボルを吸い込じゃったのよ!? 人の話を聞いてから動かしなさいよ!」
叱ったせいでイラが辞めたら私も……なんて心配してる場合じゃない。それ以上の大問題だ。
「大袈裟。後で取り出せば済む話じゃん」
イラは平然としている。
「出来ないの! 私、言ったよね。《掃除機》は扱いに注意が要るって。これに吸い込まれたらすごい力で引き伸ばされて、素粒子まで粉々になる。取り出しも復元も不可能よ。人気スポットを消した責任、どう取るつもり?」
イラは仏頂面になった。
「……消えるタイミングが早まっただけじゃん。ヒュメヌのせいでアスボルはもうボロボロだったし」
「そういう問題じゃない! ……とにかく上に報告する。多分アンタはクビ、私も処罰を受けると思う」
私は通信機を手に取った。
「は? 私、悪くないし」
「どの口が言うのよ!? そういう態度も含めて報告するからね」
「じゃ、こうしよっと」
イラが私の手を蹴り上げた。通信機が飛んでいってしまう。
「もう、無駄な抵抗はやめなさい!」
通信機を拾いに行く。……《掃除機》が戻ってきた? 吸い込み口がこっち向き? ――まさか。
「先輩がやったって報告しとくんで」
最後までは聞き取れなかった。


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このストーリーに関するコメント

15/07/16 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

こういう態度の悪い後輩ってリアルにいそうです。

それにしても怖ろしい掃除機があったもんだ。
この後、先輩の運命や如何に? 結構、怖い話でした。

15/07/17 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

ガラクシソルエ、アスボル、という単語が出てきたあたりから
舞台は日本ではない?と思いましたがSFだったのですね。
意外な展開、面白かったです。

15/07/17 光石七

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます、
イラッとくる新人なのでイラという名前にしました(笑)
《掃除機》の正体というか構造原理というか、伝わったでしょうか?
怖さを感じていただけてうれしいです。最後のオチもですが、その前に《掃除機》が吸い込んだものも…… このあたりの書き方の加減も難しく、わかりづらいのではと危惧しておりました。
楽しんでいただけたなら幸いです。

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
最初は車で移動中の日本の清掃員のおばちゃんと新人のギャルをイメージしていただき、徐々にそうではないらしいと匂わせ、実は……という展開を狙っていました。加減が難しく、わかりづらいかもしれないと懸念していました。
「ガラクシソルエ」、「アスボル」、「ヒュメヌ」、「ルノボル」がそれぞれ何を指しているか、最終的に気付いていただけるかということも不安でした。一応全部外国語をもじったネーミング(ギャラクシー+ソル、ルナ+ボール、など)にしましたが…… 変なところにこだわりすぎかもしれません(苦笑)
面白かったとのお言葉に救われます。

15/07/19 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

えっ、このオチですか、えー! どうしましょう。この後が滅茶苦茶怖い……。しかし、凄いパワーの掃除機ですね、ダイ○ンも真っ青の吸引力じゃないですか。ネーミングの意味がわからず、「何? 何だ?」って、途中気になりながら読んでいました。苦笑

大規模な舞台背景のSFで面白かったです

15/07/19 冬垣ひなた

光石七さん、拝読しました

掃除機をかけるという、とても身近なお掃除なのに、
読んでいくうちに「ええっ!」となりました、壮大なスケールですね。
やだこの掃除機怖い……でも、きっと一番怖いのは使う人(?)。
自分も人類消滅エンドはありますが、こうさらっといかなくてやめました。
七さん上手いなあと思います、面白かったです。

15/07/19 光石七

>草藍さん
コメントありがとうございます。
元々は“宇宙空間クリーンアップ大作戦! 掃除道具のブラックホールで地球も吸い込んじゃった”的な話でしたが、それだけでは展開しきれず、いろいろ付け足す中で今の形になりました。
変なネーミングをいきなり出してすみません(苦笑) 引っ掛かりを覚えて当然だと思います。最後に全貌を知って驚いてほしい、でも途中でピンとくる方もいてほしい。匙加減がわからず、皆さんがどのような読み方をされるのか不安もあり…… 草藍さんのコメントに「こういうふうに読まれたのか」と教えて頂きました。
いろいろ足りませんが、楽しんでいただけてよかったです。

>冬垣ひなたさん
コメントありがとうございます。
《掃除機》(=ブラックホール)で地球を吸い込む、元々はそれだけのシンプルな話で、メインのオチもこっちのはずだったのですが…… なんだかイラのキャラに持っていかれたようです(苦笑) 確かに一番怖いのは彼女かも。
過分なお褒めの言葉、恐縮です。変なところにこだわり過ぎてわかりづらくなっているのでは、と懸念していました。読んでいただいて初めて気付くことも多いです。
少しでも楽しんでいただけたなら、幸いです。

15/07/19 つつい つつ

宇宙規模なスケールの中、どの時代にも、どこにでもいる厄介な新人と、新人とうまくいかない先輩との掛け合いがおもしろかったです。
厄介な人は世の中たくさんいるので、掃除されないよう気をつけないと(笑)

15/07/20 光石七

>つつい つつさん
コメントありがとうございます。
イラのような新人ばかりだと困りますね。自己中心的な思いつきから掃除されてはたまりません。
楽しんでいただけたようで、うれしいです。

15/08/05 滝沢朱音

沢○エ○カさんのようなふてくされた女の子を想像していたら、たいへんなことに…!
宇宙の大掃除?ガ━━(;゚Д゚)━━ン!!
冒頭からは思いもよらない大規模SF、楽しかったです。

15/08/06 光石七

>朱音さん
コメントありがとうございます。
イラは正にそういうイメージになるよう書きたかったので、朱音さんのコメントに小さくガッツポーズしました(笑)
変なところにこだわり狙い過ぎてしまった感がありますが、素直に驚いていただけたようで救われます。
楽しかったとのお言葉、うれしく思います。

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