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つつい つつさん

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凸と凹

15/07/05 コンテスト(テーマ):第八十六回 時空モノガタリ文学賞 【 掃除 】 コメント:3件 つつい つつ 閲覧数:1628

時空モノガタリからの選評

真面目で理路整然としたキャラの主人公と、天然だけれども妙に几帳面なところもあったりする彼女、それぞれのキャラクターがとてもしっかりと描かれていて、その対比がなんともおかしいです。二人はまさに凸と凹、きっと相性は悪くないのかもしれないですね。主人公の当惑振りにクスッと笑わせられました。

時空モノガタリK

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 初めて彼女の部屋に入った。マンションの入り口のドアを開け、一歩足を踏み入れたとたん固まった。たぶん、僕の顔はひきつっていただろう。「入って、入って」と彼女は笑顔で招き入れるけど、僕はただ呆然としながらその部屋を見渡していた。でも、驚くのは早かった。その先に広がる世界はさらに衝撃的だった。
 大学に入って半年、地味で冴えなくて、いい人ってことぐらいしか取り柄のない僕に彼女が出来た。それも、僕にお似合いの目立たない子じゃなくて、誰もが羨むような可愛くて元気な子だった。同じサークルだったけど、入部したとたん注目の的になっていた彼女と居るか居ないかわからないような僕が付き合うようになるなんてとても信じられなかった。
 へたっと無造作に寝かされているブーツ、履き散らかした何足かの運動靴、好き勝手な方向に向いた揃っていないヒールを隅にどかし、なんとか自分の靴を脱ぎ、リビングまで進もうとすると、廊下にはショップやコンビニの袋、よくわからない大小の箱、色とりどりのファッション雑誌なんかが障害物となり僕の行く手を塞いだ。「踏んじゃってもいいから」なんて言われて、恐る恐る進むけど、歩くたびに何かを蹴飛ばし、雑誌や箱が雪崩を起こした。なんとかリビングまで辿り着き、服やタオルが溢れたソファに座ると、彼女は照れたように「ちょっと散らかってるけど、ごめんね」って言った。ぼくは、一生懸愛想笑いを作るけど、頭の中では、ちょっと? この、そこらじゅうのものが散らばり、すっちゃかめっちゃかにひっかき回されたような状態をちょっとって言うんだろうか。というか、これは散らかってるレベルじゃない。そもそも散らかっているというのは、正常に整理整頓されたところから、ところどころ整理されていないものがあることを言うのではないのか。これでは正常な部分がもはや見つからない。散らかっていることが正常で、こころなしか綺麗になっているので「ちょっと片づけてごめんね」とでも表現すればいいじゃないだろうかと、取り留めのないことを考えながら混乱していた。でも、ここまでは僕もなんとか平静を保っていられた。確かにこれだけものが散乱してあると、必要なものがどこにあるかわからないし、埃だって貯まるだろうけど、かろうじて命には関わらないような気がした。可愛い彼女にこんな一面があるなんてすごくショックだけど、それは僕が女の子は勝手に綺麗好きで掃除なんて誰でもするなんて思いこんでただけで、いい社会勉強になったなんて無理くり考えてみた。でも、キッチンをみたとたん、流石に、「これは駄目だっ!」って叫んでしまった。きょとんと、不思議そうな顔で僕を見ている彼女に、必死で懇願した。
「食べ物はちゃんと捨てないと。こんなんじゃ病気になっちゃうよ」
「へへっ」
 はにかみながらペロッと舌を出す彼女に見とれて、なんて可愛いんだなんて思いながらもゴミ袋を出してもらった僕は無我夢中で片づけ始めた。まず山積みにされているスーパーの総菜売場の透明なパックに入ったコロッケやポテト、マカロニサラダなんかの様々な食べ残しを全部捨てた。なんでこんなにきっちり三分の一くらい残すんだろう、案外彼女は几帳面なのかなんてつっこみを心の中でしながら、次にいったん、たくさんのグラスやお皿を空いたスペースに移した。キッチンのシンクの中を見るとすでにいろいろな食べ残しや飲み残しで深緑というか群青色というか、なんとも言えない色になり、スポンジで洗おうとするけど、既にジェル状になっていて、思わず体に寒気が走った。それでもめげずにシンクを綺麗にしてから、やっと、グラスやお皿を洗った。案の定汚れがこびりついていて、水に浸けても何回洗っても汚れが取れないものは彼女に了承してもらって捨てることにした。それだけでも何時間掛かったかわからない。ようやく綺麗になったキッチンを見て、ひと息ついた僕に感心するように彼女が言った。
「ありがとう。前にバーベキュー行った時も思ったけど、ほんと、なんでも出来るよね。それに、てきぱきしてるし、羨ましいなぁ」
 そういえば、一ヶ月くらい前にサークルでバーベキューに行ったことを思い出した。僕はみんなの役にたたなきゃって、必死で料理の下ごしらえやら、火おこしやら、片づけやら率先して頑張った。どうやら彼女はずっとそれを見ていたみたいだ。
「部屋の掃除はまた今度ね」って僕が言うと彼女は颯爽と敬礼し「らじゃー!」って笑った。
 全然掃除が出来ない彼女だけど、掃除が出来る僕が居れば、二人は完璧なんだ、そんなこと、僕たちにとってなんの問題にもならないだなんて思いながら、一仕事終えた僕がソファに腰掛けると、彼女はとびっきりの笑顔で夕食をテーブルに置いた。
「おかわりもあるからね」
 僕は苦笑しながら夕食を眺める。
 カップラーメンか……。


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このストーリーに関するコメント

15/07/06 タック

拝読しました。

いやあ、美人は得だなあと思った次第です。
彼が全てを許して支えることが出来るなら、二人は幸せに続いていくのでしょうね。面白かったです。ありがとうございました。

15/07/06 つつい つつ

志水孝敏 様感想ありがとうございます。
世話好きな彼と世話を焼きたくなる彼女、凸凹な二人のニュアンスが伝わって良かったです。

タック 様感想ありがとうございます。
なんだかんだ言って彼はすごく幸せなんだろうと思います。
まだまだ彼女は支えなければならないことが多そうですが(笑)

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