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たっつみー2さん

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幼馴染

15/07/01 コンテスト(テーマ):第八十六回 時空モノガタリ文学賞 【 掃除 】 コメント:2件 たっつみー2 閲覧数:934

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 一週間前、強い風がうす紅色の花びらを枝から掃き去っていった。だから、ボクらはその風をこう呼んでいる――掃除風。
 ボクがいる家の庭から道を挟んで田んぼが広がっている。その先で仲間たちは小高い山を背負うように並んで立っている。春の大掃除が終わり、今は寒々しい姿になっている。ボクらは掃除を済ませ、次の緑の季節に進まなくてならない。だけど、ボクはまだ進むわけにはいかない。
 玄関からガラガラと音が聞えてきた。引き戸から出てきたジイちゃんは道の真ん中で立ち止まった。落ち着かない様子で一本道の先を見つめている。
「遅いのう、まだかいな」
 居ても立っても居られないといった感じだ。
 ふと、ジイちゃんの頭が動き、顔がボクのほうに向いた。
「ありがとうな。ワシの願いを聞いてくれて」
 そんな言葉が聞えてきた。
 ジイちゃんの願い――それは、いつもの年と変わらず、春を迎えることだ。うす紅色の花をまとったボクの前で、家族みんなで写真を撮ることだ。
 11年前、この家にかわいい女の子が生まれた。その子は、サクラの木のように大きく美しくなれ、という思いで『さくら』と名付けられた。
 ボクは、さくらが生まれた記念に、この庭にやってきた。ジイちゃんが大切に育てくれて、小さな苗木だったボクも少しずつ大きくなれた。
 そんなボクとさくらの成長が、ジイちゃんが撮ってくれた写真に残っている。
 おしゃぶりをくわえて、ママさんに抱かれているさくら。花は咲かすことができなかったボク。
 ブカブカの制服で、パパさんとママさんと手をつないでいる、入園式前のさくら。まだ少ないけれど精一杯花を咲かせているボク。
 真っ赤なランドセルを背負って、誇らしげなさくら。まだまだ仲間たちに比べると小さいけど、体いっぱいに花を咲かせるボク。
 少しずつ、きれいな少女へと変わっていくさくら。年々大きくなり花を咲き誇らせていくボク。
 そこには、いつも、さくらがいた。パパさんとママさん、ジイちゃんがいた。三脚写真機の前で、みんなが微笑んでいた。
 今年だって、そうでありたい。だから、ボクは咲き誇る。この花を一輪たりとも散らすわけにはいかない。
 一週間前、ボクにも雨とともに掃除風が襲いかかってきた。
 庭に飛び出してきたジイちゃんはボクを見上げて叫んだ。
「頑張っておくれ! あの子が帰ってくるまで!」
 びしょ濡れの体が風でよろめいていた。それでも何度も叫んでいた。
 ジイちゃんの、そして、家族みんなの願いを叶えるため、ボクは必死に雨風に耐えた。掃除風が去った後も、花びらを散らすことなく、今日まで頑張ってきた。
 でも、まだ終わりじゃない。大切な幼馴染の笑顔を見るまでは、一輪の花びらだって、散らすわけにはいかない。
 風に乗って微かな音が聞えてきた。道の先に白い車――パパさんの車だ。
 車が家の前に止まると、すぐにジイちゃんが駆け寄った。後ろのドアが開き、長い髪を後ろで結んだ少女が降りてきた。
 まっすぐな視線がジイちゃんに向かい、「おじいちゃん、ただいま」
 半年ぶりに聞くさくらの元気な声だ。突然、病気で入院してしまった彼女が、やっと帰ってきた。
「おかえり」と答えたジイちゃんの顔にパッと笑みが広がった。
 前のドアも開いて、パパさんとママさんも降りてきた。二人とも微笑んでいる。さくらが笑顔だと、みんなが笑顔になれる。
 ふと、彼女の頭が動き、顔がボクに向いた。
「きれい」
 柔らかな笑みが言葉とともに広がった。
「さくらに満開の姿を見せようと、こいつは嵐にも負けずに頑張ってくれたのだぞ」
 ジイちゃんの言葉に、さくらは頷きで答えた。
 さくらは手を大きく上に広げると、ボクを包みこむようにして、「ありがとう。すごく嬉しい」
 彼女の潤んだ瞳が、太陽の光でキラリと輝いた。その目が細くなっていき、幼き頃から何度も見てきたニッコリ笑顔があらわれた。
 大好きな彼女に、大好きなニッコリ笑顔が広がっている。あつい思いが込み上げてくる。
 ひらりと、うす紅色の花びらが一枚、舞い落ちた。ひと粒の涙のように、枝の先からこぼれ落ちた。
「おじいちゃん。写真撮ろう」
 彼女の弾んだ声に、ジイちゃんは「おうっ!」と威勢のいい声をあげて、家の中へと飛び込んでいった。

 三脚写真機をのぞいていたジイちゃんが、「よしゃ!」と言いながらシャッターを押し、ボクらのほうに駆け戻ってきた。
 ジーッとタイマーが動きだす。
 ボクの前にみんなが並んでいる。今年も笑顔のみんなと一緒に写真が撮れる。
 嬉しい。本当に嬉しい。次々と嬉し涙がこぼれてしまう。
 微かに吹く風に乗って、舞い散る花びらが彼女たちを包んでいく。サクラ吹雪の中に最高の笑顔が輝いている。
 カシャッ。

 新しい季節を迎えるための掃除が始まっている。


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このストーリーに関するコメント

15/07/15 光石七

拝読しました。
とても優しいお話に、心が洗われたような、素直な気持ちになりました。
風に散る花びらは、桜の涙なのかもしれませんね。
ラストシーンが美しく温かいです。
素敵なお話をありがとうございます!

15/07/18 たっつみー2

光石七さん

ご感想ありがとうございます。

童話のような話しが書きたくて挑戦してみました。
最後のシーンのイメージがまず浮かび、話しを広げていったので、そこに目を向けてくださったこと、嬉しく思います。

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