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平塚ライジングバードさん

今生の私の実力では無理ですが、 来世かその次の来世においては、 物語で世界を変えたいと強く思っています! 制作者の皆さんが「こんな発想もあるのか…」と 目から鱗が落ちるような作品作りに努めます!!

性別 男性
将来の夢 将来の夢を堂々と語れるようになること
座右の銘 圧倒的物量は質を遥かに凌駕する

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Hello, again my old dear place

15/06/29 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:6件 平塚ライジングバード 閲覧数:1559

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「Σ」シグマ。よくかみつく。
「刀vインテグラル。中央の核からびぃむ光線を出す。
「Ω」オーム。怒るとふくらむ。
「π」パイ。すばやい。
「μ」ミクロン。雨水をためこむ。
「φ」ファイ。おっとり。
「Å」オングストローム。すみっこが好き。



“動物園”の中のシグマはかわいい。
全体的に角ばっていないし、何より人を噛まない。嬉しいとぴょんぴょん跳ねる仕草は、本当に愛らしいと思う。
ここを訪れると、いの一番に私の元に跳ね寄ってくるシグマに、どれだけ癒されただろうか。

“動物園”は、いつも平和だった。
狡猾なインテグラルも、ここでは1日の大半をひなたぼっこに費やしている。背の高いインテグラルが丸まって寝転んでいる姿は、とても牧歌的だ。
たまに野生を思い出したかのようにびぃむを出すけど、重力に勝てずにぼとりと地面に落ちる。足下で弱々しく発光するびぃむを見ながら、何で真っ直ぐ飛ばないんだろうと不思議そうに首をかしげる姿は、もう堪らなく愛おしい。

“動物園”内の大草原は、膨張したオームであふれている。元気よく駆け回るパイが、ときおりオームを蹴飛ばして怒らせているからだ。
オームは膨らむだけだからいいけれど、ミクロンは本当にかわいそう。
だって、雨水をたっぷり溜め込んだときのミクロンの表情は、本当に幸せそうだから。
猛スピードで突進してくるパイに衝突して、ミクロンが雨水をこぼしたときなんて、正直見ていられない。そんな時、決まって私は水の入ったジョウロを持って駆け寄ってしまう。水をかけたミクロンは、また元気を取り戻して、嬉しそうに私に甘えてくる。
パイはと言えば、ひっくり返ってこっちを見ている。でも、それが「ごめんなさい」を意味していると知っているから、私はパイのことが嫌いになれない。

つらい時は、いつも“動物園”を訪れた。
のんびり屋のファイは、私の愚痴や悩み相談に何時間でも付き合ってくれた。
誰にも会いたくないときに、隅の方で座り込んでいると、オングストロームが慰めてくれた。オングストロームは、無口で臆病だけれど、誰よりも優しい。中学時代に好きだった国語の先生に少し似ていた。

“動物園”は、とても大事な場所であり、私の私による私のための大切な物語だった。



――結婚が決まり、実家を離れることになった。
彼と住む新しい家はそんなに広くないから、必要最低限のものだけ持って行こう、「断捨離、断捨離」なんて呟きながら整理を始めたけれど、一冊のノートを見つけて、何一つだんしゃれないまま動きが止まってしまった。

表紙に“動物園”と書かれたノートを握りしめ、私は懐かしさで胸がいっぱいになる。学生時代、勉強でつまずくたびに紡いだとてもシュールな物語。
苦手だった数学も、古典も、化学も、歴史も、このノートの中では驚くほど愛らしかった。私なりに嫌いな教科と向き合おうとした成果だったけれど、改めて読んでみると本当にヘンテコな内容だ。

数学のページでは、個性豊かな記号たちが自由気ままにはしゃいでいるし、
古典・漢文のページでは、増えすぎたレ点が光源氏に群がっているし、
化学のページでは、元素たちが周期表を離れて飛び回りながら奇声を発しているし、
歴史のページでは、「ルイは友を呼ぶ」という謎の言葉の下に、ルイ14世を筆頭にした世界史の偉人が羅列されていた。

どのページも意味不明で支離滅裂。
でも、とても愛おしい。

大学に入ってからは、ノートに何か書き込むことはなくなったけれど、辛いことがあるとよく眺めていた。
失恋したとか、バイト先で嫌なことがあったとか、そんな時には決まって“動物園”ノートを開いた。
そこでは、ぴょんぴょん跳ねるシグマがいつも出迎えてくれて、しばらく滞在しているうちに、私の泣き顔は笑顔へと変わっていた。

社会人になって、あまりの忙しさに読まなくなってしまったけれど、改めてノートを開くと、ページをめくるたびに、学生時代のつらかったこと、悲しかったことが蘇ってくる。
学業の成績が上がることはなかったし、嫌いな教科に向き合えることは全くなかったけれど、自分自身と向き合った記憶が、確かにそこに刻まれていた。



「片付けの調子はどう」
「ええと」
「今週末には引越業者来るから、それまでにまとめておかなきゃだめだよ」
彼からの電話は、私を現実に引き戻した。ベッドの上で寝返りをすると、積み重ねられた空のダンボールの山が見え、私は心の底からうんざりする。
「がんばる」
気のない返事をして、私は電話を切った。その瞬間、妙案が閃く。
私は、机の引き出しからとびきりカラフルなペンを取り出す。そして、“動物園”ノートを開いた。
疲れ切った私の顔が、一瞬で笑顔に変わる。

――本当に久しぶりだけれど、シグマは喜んで出迎えてくれるかしら。


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このストーリーに関するコメント

15/06/30 泡沫恋歌

平塚ライジングバード 様、拝読しました。

上記の記号の内で名前を知ってるのはシグマとオームだけという、無知な私ですが、
そこから溢れるイメージには共感できました。

しかし、そういう記号をみてると私の頭に浮かぶのは顔文字ですね。
ハンゲーム出身者なので顔文字は重要スキルでした、今も1000以上は辞書登録してます(`・ω・´)ハイ!

ヘ(・ω・。ヘ)ヘ(・ω・。ヘ)ヨイヨイ(ノ。・ω・)ノ(ノ。・ω・)ノヨイヤサット♪ ← こんなクダラナイのまである。

15/07/02 平塚ライジングバード

泡沫恋歌さま

コメントありがとうございます。
シグマって何か噛み付いてきそうだなという気づきから、
一気に書き上げた作品です。

顔文字もそうですが、その記号の意味ではなく、見た目のイメージ
で妄想するのは面白いなあと思います。
学生時代の自由に書いてたノートは黒歴史認定されがちですが、
改めて読んでみると本当に懐かしい気分になります。
そして、恥ずかしさで死にたくなります笑。

15/07/04 光石七

拝読しました。
学生時代のノートの中の“動物園”、記号を動物に見立てる発想がすごいですね。
私はノートに書いたりはしませんでしたが、現実逃避の妄想はいつも決まったキャラが主役でした。……ただ逃げただけの私を、苦手な教科と向き合った結果“動物園”を作った主人公と一緒にしてはいけないのか(苦笑)
久しぶりでも、きっとみんな喜んで主人公を迎えてくれることでしょう。
面白かったです。

15/07/04 凪野裕介

はじめまして
読了しました。



記憶の中でずっと二人は生きて行ける
君の声が今も胸に響くよそれは愛が彷徨う影!!
♪( ´θ`)ノ


懐かしいですね・・・・

って何の話しでしたっけ?

(笑)

15/07/09 平塚ライジングバード

光石様
コメントありがとうございます。
返信が遅くなってごめんなさい。

記号を動物に見立てる×学生時代の妄想
をテーマにして着想しましたが、正直
もう1つ2つひねりを加えたかったなぁ
というところです。

自分も学生時代に1人のキャラを主人公と
した妄想を繰り返しときましたが、思い返すと
思春期過ぎて恥ずかしい限りです笑

15/07/09 平塚ライジングバード

凪野様
はじめまして。
コメントが遅くなってごめんなさい。

そうなんですよねー。
前のコメントにも書きましたが、もう1つ2つ
ひねりたいと思うあまり、名曲の歌詞をタイトル
にしてみました。
場合によっては、読者の想像力で歌詞と物語世界を
リンクさせて深く読んでくれるかも…と思ってましたが、
なかなかうまくは書けないですね(-。-;

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