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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

性別 女性
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幸か不幸か

15/06/29 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:8件 光石七 閲覧数:1658

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 バイトを終え、俺は一人夜道を歩き出した。俺の給仕が下手で服にソースが付いたと客に文句を言われ、対応が大変だった。
(クリーニング代、結局俺の給料から引かれるのかよ。マジきついって)
うちは代々医者の家系で、両親も共に現役の医師だ。兄貴は国立大医学部在学中。俺は二浪の末医学部を諦め、理工学部に進んだ。元々家族から落ちこぼれだと見下されていた俺だが、留年が決定したことで完全に愛想を尽かされたようで、仕送りを止められた。俺は仕方なくバイトを始めた。
 両親も兄貴も嫌いだ。会いたくないし声も聞きたくない。道端の石を蹴飛ばしてやった。ふと空に奇妙に動く光があるのに気付いた。
(UFOか?)
スマホで撮影しようとしたが、その光はふっと消えた。代わりに真上から筒状の光が垂直に降りてきた。見上げると、光は巨大な円盤の穴から出ている。俺はすっぽり光に包まれた。次の瞬間、俺はものすごい勢いで円盤の穴に吸い上げられた。
 上昇が止まったと思ったら、体に何かが絡みついた。その先にはクラゲが巨大化したような生物が三匹。触手で俺を拘束しているのだ。俺より体は小さいくせに力がすごい。不気味な光沢を放つ台の上に寝かされた。どんな原理なのか、触手が離れても体を動かせない。変な器具を体のあちこちに装着させられる。叫んでも懇願してもやめてもらえない。肉体的な痛みは無いが、恐怖で狂いそうだ。
 やがて円盤の壁の一部が開き、俺は台ごと降ろされた。建物の中らしく、俺を載せた台はクラゲ星人と共に広い通路を進んでいく。長く曲がりくねった通路の両壁には所々ガラス板のように広く透明になっている個所があり、その向こうでは見たことのない奇妙な動物たちが蠢く。ブースごとに動物は違っていた。
 一行は空のブースの前で立ち止まった。ガラス板がすっと消え、俺を載せた台だけが中に入った。すぐガラス板が再生する。やっと体が自由になり、俺は台から降りた。悪い夢でも見てるのかと頬をつねってみたが、リアルに痛かった。逃げようにも出入り口の仕組みがわからない。クラゲ星人たちはガラス越しに俺を見ている。――とにかくこの現実から逃れたい。俺は横になって目を閉じた。
 いつのまにか本当に眠ってしまい、目覚めたら一匹のクラゲ星人が傍らにいた。触手を一本俺の頭に当てる。あの台は消えていた。他の奴らも見当たらない。触手を離すとクラゲ星人は出て行き、しばらくしてコップのような容器を持ってきた。俺の前に置く。中には水らしき液体。飲めってことか? 喉は渇いているが、これは本当に水なのか? 躊躇してたら、クラゲ星人がコップを持ち上げ俺の口元に差し出した。俺は恐る恐る飲んだ。――普通の水だ。
 その後、クラゲ星人たちは俺に触れてはブース内にトイレや洗面所、ベッドなどを整えていった。ドアも仕切りも透明だが俺のアパートの間取りに近い。用意される食事も俺が普段食べていたものと大差はない。どうやら触手を通じて俺の欲求や生活環境などを読み取っているようだ。言葉を発することは無いが、クラゲ星人同士も互いに触手で触れ合うのを見るし、これがこいつらのコミュニケーションなのだろう。
 ほどなく、大勢のクラゲ星人がガラス越しに俺を見物するようになった。ここは動物園のような場所らしい。排泄の様子まで見られることに初めは抵抗があったが、そのうち慣れた。自分が展示動物になるなど思いもよらなかったが、考えようによっては地球の暮らしよりもはるかに楽だ。あくせく働く必要は無く、飯の心配もいらない。危害を加えられることも無いし、好きな時に寝て好きな時に起きて。ぐうたら至上主義の俺にはもってこいの生活じゃないか。俺を蔑む家族とも完璧におさらばだし。
 唯一の難点は娯楽が無いことだが、クラゲ星人から見れば俺は飼育している動物だ。文化も地球とは違うようだし、ゲームや漫画など無理な注文かもしれない。
(せめて話し相手が欲しいよな……)
できれば地球人で、日本語が通じる相手がいい。それも若い女性なら万々歳だ。
(一緒に過ごすうちに親密になって、夫婦になって……)
つい妄想してしまった。いや、種の保存・繁殖は動物園の使命の一つじゃないか。俺の欲求は叶えられて然るべきだ。俺はクラゲ星人に触手で触れられてるたびに、黒髪とスカートを風になびかせる美しい日本女性を懸命にイメージした。
 それが功を奏したのか、俺のブースに新たな地球人がやってきた。黒髪にワンピースは俺のイメージ通りだったが……。
「ねェ、ここって何なのォ? 教えてくれるゥ?」
野太い声に髭の剃り跡が目立つゴツイ顔。やたら俺にボディタッチしてくるのが気持ち悪い。俺はノーマルだ。クラゲにはこいつがメスに見えたのか?
 このままじゃ俺の貞操が危ない。どこへ逃げればいい? ……なんだか実家に帰りたくなってきた。


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このストーリーに関するコメント

15/07/01 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

宇宙人からみれば地球人の我々も一匹の動物ってことなんでしょうか。

しかし透明の部屋でプライバシーがないっていうのもツライですよね。
しかもトンデモナイ奴と同居させられて、主人公の俺くんの運命や如何に!? 貞操が危ないよぉー。

これじゃあ絶対に地球へ還りたくなると思うわ。

15/07/02 メラ

光石七さん、拝読しました。

面白いオチでした(笑)。でも彼は災難ですね。心底同情します。そして勝手に創造するに、彼の貞操は守られないでしょう・・・。南無・・・。

15/07/02 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

人間だって動物だから、人間を見せる動物園も成り立つわけで…。
案外適応能力があるから、それなりに楽しく暮らせるのかなと思ったら
そううまくはいかないみたいですね(笑い)

15/07/03 冬垣ひなた

光石七さん、拝読しました。

宇宙人の動物園、描写がリアルでこういうこともありそう。
慣れれば快適な暮らしなのかもしれないけれど、オチが(苦笑)。
宇宙人が早く間違いに気付くといいですね。

15/07/05 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

クラゲですから、そりゃわからないでしょうね、こちらは人間。異星人の性別基準は本人の希望する事柄だけだったとか……。

オチで笑ってしまいました、たぶん、貞操守るのは、悲しいことですが無理かもです、でも、進んでみれば案外、適応できるのではないかと思うんですが。(無責任ですいません)

15/07/05 光石七

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
人間が展示動物になるとしたら客は誰だろうとあれこれ考えた結果、異星人に落ち着きました。はるかに優れた文明・科学力を持っていたら、地球人を下等動物と見下すんじゃないかと。
透明な部屋って大変でしょうね……(自分で書いたくせに、他人事のように言う奴)
オチに関しましては、実は私の勘違いが影響してまして。クラゲには性別が無いと思い込んでいたんですね。実際は雌雄同体の種とオス・メスが別れている種があり、オス・メス別れてる種でも成体になる前は無性生殖という…… うーん、なんとも不思議な生物。例によって書いたのが〆切ギリギリなので(苦笑)、このオチで通しちゃいました。
果たして主人公の運命は? 想像して楽しんでいただけたらうれしいです。

>メラさん
コメントありがとうございます。
面白いと言っていただけて救われた思いです。酷評が来るか何の反応も来ないか、どちらかだと思っていたので。
新たな同居人はグイグイくるイメージで書いたので(全然書き込みが足りませんが)、そう想像されたのはうれしい限りです。
楽しんでいただけたなら幸いです。

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
人間を展示動物にする案は早くに浮かんでいたのですが、過去に人間動物園が実在した歴史を知り、書いていいものかどうかしばらく躊躇してました。悩んだ末、人間が人間を展示するのは人権・人格を貶めるものだけれど、人間と立場が逆転した動物やロボット、宇宙人などが人間を観賞するならブラックユーモアとして許される範囲ではないかと結論付け、書いてみた次第です。
作中の環境に適応できるかは個人差があると思いますが、主人公にとっては悪くないものだったようで。ただ、新たにやってきた同居人がね……(笑)
楽しんでいただけたのでしたら、うれしいです。

>冬垣ひなたさん
コメントありがとうございます。
宇宙人のイメージが偏っている気がしますし、細部までしっかり思い浮かべて書き込むこともできませんでしたが、「ありそう」と思っていただけてよかったです。
やってきた同居人はかなり積極的なので、主人公はかないヤバい状況です(苦笑) 貞操を奪われる前に、宇宙人に気付いてもらえますかねえ……
楽しんでいただけたのでしたら、幸いです。

>草藍さん
コメントありがとうございます。
クラゲの性別に関して勘違いしたまま書き進めてたので(性別が無いと思い込んでいました)、クラゲとオチの繋がりがイマイチになってしまいました(苦笑) しかし、クラゲの生態ってすごいですね。
笑っていただけてうれしいです。ええ、結構グイグイくる同居人なので……。主人公、いっそのことそこも適応しちゃいます? 新たな世界開拓? そこまでは考えていませんでしたが、あり得なくもないかも……

15/08/05 滝沢朱音

ごついオネエ?にとっては、ものすごく幸せな環境だったりして?!
動物園にいる動物たちも、こんなふうに意に沿わない相手とつがいにさせられてるのかと思うと、切なくなりますね。
面白かったです〜♪

15/08/06 光石七

>朱音さん
コメントありがとうございます。
確かに、新たな同居人にとっては幸せな環境かもしれませんね。主人公が好みのタイプに近かったのでしょうし。
動物園の動物たちのつがいに関することまで思いを馳せられる朱音さんの感性に、頭が下がります。
楽しんでいただけたならうれしいです。

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