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恋と魔法と宣戦布告

15/06/29 コンテスト(テーマ):第八十七回 時空モノガタリ文学賞 【 私は美女 】 コメント:2件 るうね 閲覧数:949

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「ふーむ」
 痩せぎすのその魔法使いは、とんぼのような眼鏡の奥からこちらを見つめてきた。
「この写真のように、顔を変えてしてほしい、と?」
「はい」
 また「ふーむ」と言って、魔法使いは手元の写真に視線を落とした。
 そこには一人の女性の顔が写っていた。不細工、というほどではないが、決して器量は良くない。
 再び、魔法使いがこちらに視線を移す。
「正直に申しまして、この写真の女性よりも、貴女の方が美しいと思うのですが」
「ありがとうございます」
 いちおう、礼を言う。
 だが、虚しい。
 愛しい人に愛されなければ、顔貌の美しさなど、なんの意味があるだろう。
「理由をお聞かせ願えますか」
「……話さないといけませんか」
「最近は、私の噂を聞いて、犯罪者が顔を変えに来ることもあるので」
「……分かりました」
 わたしは事情を説明した。
 そこに写っているのは、わたしの友人であること。
 その友人が先日、病気で亡くなったこと。
 そして。
 そして、その友人には恋人がいたこと。
「その恋人に対し、あなたは横恋慕していたわけですか」
 話を聞き終えた魔法使いが、無遠慮に言った。
 わたしはうなずく。
「渡川悟という人です。わたしの友人、つまり恋人が亡くなってから、塞ぎ込んでアパートの部屋から一歩も出てきません」
「なるほど。で、あなたは顔を友人のものに変え、彼の新しい恋人になるつもりだ、と」
「ちょっと違います」
 わたしは否定した。
「わたしは友人そのものになりたいのです。新しい恋人ではなく、恋人だった友人そのものに。だから、魔法使いのあなたのもとへ来たのです」
 しばらく、魔法使いは無言で考え込んでいた。
「可能でしょうか」
 そう問うと、
「可能は可能です。ですが、一度顔を変えたら、二度と元の顔には戻れませんよ。魔法で顔を変えるというのは、そういうことです」
「覚悟しています」
 わたしが言い切ると、魔法使いは小さくため息をついた。
「分かりました。魔法というのは人を幸せにするためのものですからな。それで貴女が幸せだと言うなら、いいでしょう」
 そう言って、魔法使いは右手をわたしの前にかざし、なにやら細い声でつぶやいた。
 一瞬だけ、気が遠くなる。
「終わりましたよ」
 魔法使いの声に、意識が戻った。
 もう終わり?
 なんだか拍子抜けしていると、魔法使いが手鏡を差し出してきた。そこには友人の顔が、いや友人のものになったわたしの顔があった。


 その足で、わたしは悟のアパートを訪れた。
 こんこん、とドアをノックすると、中から返事があった。
「どちら様ですか」
「わたしよ、まどか」
 わたしは自分の名でなく、友人の名を名乗る。
 一瞬の間。
 やがて。
「あかりか」
 悟が呼んだのは、わたしの名前だった。


「どういうことですか!」
 わたしの詰問にも、魔法使いの表情は動かなかった。
 あの後、すぐに魔法使いのところへ取って返したのである。
「なんで、わたしがここに来たことを彼に伝えたんです? いえ、それよりどうやって彼の連絡先を」
「まあ、私は魔法使いですから」
 漂々と魔法使いは言う。
「それぐらいは容易いことです」
 なら、とわたしは自分の顔に手を当て、
「なぜわたしの顔を変えてくれなかった≠ですか」
 言ったでしょう、と、魔法使いは肩をすくめる。
「魔法というのは人を幸せにするためのものだと。貴女の顔を変えても、不幸になるだけです。貴女も。そして、彼も」
 そんなことはない。
 そう言おうとして、けれど言葉は出なかった。
「考えてごらんなさい」
 諭すように、魔法使いは言う。
「もし私が魔法で全然別の人の顔を、貴女が好きな人の顔そっくりに変えたとして……貴女はそれを愛せますか?」
 わたしが無言のままでいると、魔法使いは大きくうなずいた。
「そういうことです。もし彼に本当に愛されたいと願うなら、友人の顔を借りるなんて卑怯な真似はせず、貴女のその顔で勝負しなさい」


 外に出て、わたしは空を見上げた。ビルの谷間から窮屈そうに入道雲が立ち昇っている。近くに公園でもあるのだろうか。セミの声が、かまびすしかった。
 やおら、わたしはパァン! と両手で自分の頬を張った。
 やってやろうじゃないか。
 わたしは美女になってやる。彼にとっての一番の美女に。
 負けないからね。
 空を見上げて、わたしは宣戦布告した。


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このストーリーに関するコメント

15/07/26 霜月秋介

るうね様、拝読しました。
女は顔じゃないとは言いますが、やはり顔は重要ですよね。第一印象はまず顔からですからね。もちろん中身も重要ですが。
でも好きな人に好かれなければ確かに意味ないですね。同感です。

15/07/26 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

容貌が美しい、というのは女性としての幸せの一要素でしかない、というテーマで書かせていただきました。
やはり好きな人に好かれてこそ、ですからね。好きな人の一番であれば、その他大勢の一番でなくとも幸せで、逆に好きな人の一番でなければ、その他大勢の一番でも虚しいだけではないかな、と。
お読みいただき、ありがとうございました。

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