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泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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家族になる日

15/06/26 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:7件 泡沫恋歌 閲覧数:1257

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 動物園なんか大嫌い!
 屋外だから夏は暑いし、冬は寒い。草食動物は臭いし、肉食動物は寝てばかり。野生をなくした動物の空虚な目と、動物園で生まれた動物の媚びを売る目――。
 何が面白くて動物園なんかに行くんだろう。

 七歳の時に両親が離婚した。
 家族で最後に行ったのが動物園だった。今でも覚えてる、父はひと言も口を利かないし、母はトイレでこっそり泣いていた。重苦しい空気の中、私だけが動物を見てはしゃいでた。その日を境に父は家に帰って来なくなった。
 そして母の実家で暮らすことになり、私の学用品に書いた名前が“星野遥(ほしの はるか)”から“田中遥”に変わった。新しい学校では、田中遥ちゃんって呼ばれるけど、違う! それ私じゃないと心の中で叫んでいた。
 そんな時、祖母から両親が離婚した原因を聞かされた。父が浮気して、相手が妊娠したので、私と母を捨ててそっちへいっちゃった……と。父のことが大好きで、いつか戻ってくると信じてたからショックだった。私、父とその女と赤ん坊まで恨んだ。

 今日、動物園で父と十年振りの再会だ。
 私は会いたくないと言ったのに、母に無理やり連れて来られた。離婚の原因を知ってから、父が会いに来てもずっと拒否していた。養育費もくれてたし、運動会もそっと見に来ていたらしいけど、私は許さない!
 最近、父の再婚相手が病気で亡くなったと聞いた。私は内心、天罰だと思って気の毒だとは思わなかったが、小学生の弟が残されたと知って、ちょっと複雑な心境だ。見たこともない異母兄弟に今日会うことになる。

「遥、久しぶりだな……」
 そういうと父は絶句して目頭を押さえた。私は知らんぷりして遠くを見てた。そんな二人を母がハラハラしながら見ている。
 父の後ろに小さな男の子が隠れてた。これが私の弟? 色が白くて女の子みたいな可愛い顔をしてる。
「ほら、お姉さんに挨拶しないか」
「初めまして。僕、涼太(りょうた)です」
 恥かしそうに私を見てる。可愛い子だけど……私たちから父を奪った憎い女が生んだ子なんか弟とは認めない。怖い顔で睨みつけたら、涼太は泣きそうな顔になった。
「遥! 涼くんが挨拶してるのに、あんたも挨拶しなさい」
 母が怒って私の背中を叩いた。
 何よ、涼くんとか……私の知らない所で三人で会ってたわけ? あんな仕打ちを受けたのに、どうして父やその子どもを簡単に許せるの?
「私、帰る!」
 小走りで動物園の出口へ向っていたら、後ろから誰かが追いかけてきた。
「何よ! 戻らないわよ」
「お姉ちゃん……」
 涼太が私のセーターの裾を掴んでいた。
「アタシ、あんたのお姉ちゃんじゃないから……」
「うん。分かってる……僕らがひどいことしたから怒ってるんだ」
 なにっ? この子、大人の事情を聞かされていたの?
「あのね、象の赤ちゃんがいるんだ。すぐそこの檻だから一緒に見に行かない?」
 象の赤ちゃん? そんなニュースを聞いたような。
「ねぇ、行こうよ、行こうよ」
 
 小さいくせに涼太は強引だ、引っ張られるまま象の檻の前にきてしまった。親子の象は寄り添って昼寝をしていた。小象の名前募集のポスターが貼ってある。

『アフリカ象のマサコが赤ちゃん(雄)を生みました。只今、子象の名前募集中』

「僕、赤ちゃんの名前考えたんだ。マサコの子だからマサヤ!」
「マサヤ? う〜ん、なんか象らしくないよ」
「そうかなあー、じゃあポットは?」
「なんで?」
「象印だから」
 この子、案外ユーモアがあるわ。
「そうね、翔太ってどう? カッコよくない」
「僕と一文字違いだね。それにしよう!」
 涼太がまだ習ってない漢字なので、私が書いて募集箱に投函した。
「おーい、小象、お前はショウタだよ」
 涼太が大声で呼びかけると、小像がもそもそ動き出したが、母像が長い鼻で小象を自分の側に引き寄せた。やっぱり親子は温かい。
「ママ……」
 突然、涼太の瞳から大粒の涙がぽろりと零れた。
 死んだ母親を思い出したのだろうか。肩を震わせ泣くのを我慢している。母親を亡くして日が浅いのだから仕方ない。
「僕、お姉ちゃんがいるって聞いて嬉しかった。会えるの楽しみだった」
「そうなの」
「僕のこと嫌い?」
「えっ?」
「ママは死ぬまで……ずっと、おばさんとお姉ちゃんに謝ってたんだ。僕が謝るから……どうか天国のママを許して下さい」
 そんなの涼太が謝らなくても……。
「僕が生まれたせいで、ごめんなさい」
「生まれたらダメな命なんてない。涼太は生まれてきてもいいの」
 小さな弟の手をギュッ握ったら、嬉しそうに笑った。弟って可愛いなあーと思った瞬間、憎しみが消えて、全てを許せると思った。

「涼太! 今日からアタシがお姉ちゃんだよ」

 本日、動物園の象の檻の前で私たち家族になりました。


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このストーリーに関するコメント

15/06/26 泡沫恋歌

象の写真はフリー画像素材 Free Images 3.0 by:Jeriff Cheng 様よりお借りしました。http://free-images.gatag.net/

15/07/02 草愛やし美

泡沫恋歌さん、拝読しました。

離婚したけど大人の事情があったのでしょう……でも許せない彼女の気持ちはよくわかります。いいお母さんに育てられた彼女、お父さんは感謝していたことでしょう。

こんな大きな心の持ち主の娘さんだもの、きっと弟ともうまくやっていくことでしょう。ハッピーエンドで良かったです。拍手

15/07/02 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、拝読しました。

大人の事情に振り回される子ども、誰かを憎んだまま生きていくのは
やっぱり辛いですね。
腹違いの姉弟だけど、これから仲良くなれそうな最後でほっとしました。
忘れられない動物園の一日になりそうですね♪

15/07/03 光石七

拝読しました。
つらい記憶の残る嫌な場所だった動物園が、新たな家族の出発の場になりましたね。読後、自然と笑顔になりました。
主人公の父親を許せない気持ちも弟を受け入れる過程も説得力があり、私のすぐそばで主人公たちが泣いたり笑ったりしているような錯覚に囚われました。
素敵なお話をありがとうございます!

15/07/12 鮎風 遊

象が取り持つ姉/弟の縁。
動物園にはこんな役目があったのですね。
それにしても、こんな父はライオンの檻の中へと。
こんな不幸動物園もあるかなと思ったりもしました。

15/07/20 泡沫恋歌

草藍やし美 様、コメントありがとうございます。

離婚の内情なんて子どもには分からないと思う。
この元夫婦はお互いを憎み合わないで、離婚したようなので、また元の鞘に
収まりそうです。
可愛い弟付きで、新しい家族になりそうな予感がします。


そらの珊瑚 様、コメントありがとうございます。

離婚したお父さんと動物園で会うのって、普通に多いパターンのような気がします。
好きだった分、お父さんを憎んだのだと思いますが、弟の出現で主人公の気持ちも変っていくことでしょう。


光石七 様、コメントありがとうございます。

文字数の関係で、少し強引なストーリー展開だったのではと心配してましたが、
『主人公の父親を許せない気持ちも弟を受け入れる過程も説得力があり』と、
光石七さんに言っていただき、とても嬉しいです。

本当はもっともっと書きたいエピソードがあったのですが、2000文字の壁に阻まれました(笑)

15/07/20 泡沫恋歌

鮎風 遊 様、コメントありがとうございます。

まあ、お父さんにもいろいろ事情はあったのでしょう。

これがアラブ圏だったら、三人まで嫁さん持てるんで問題なかったんだけど、
何しろ日本だと妻は一人しか持てませんからね。

こうやって家族も増えたことだし、良かった、良かった(笑)

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