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メラさん

 主に純文学系を書いていますが、特にジャンルにこだわっているわけではありません。気ままに、マイペースに小説を書いてます。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 知足。悠々自適。日々新た

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オニオン

15/06/24 コンテスト(テーマ):第五十八回 【 自由投稿スペース 】 コメント:2件 メラ 閲覧数:952

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 玉ねぎを切る。一心不乱に。
 刻むきざむキザム。
 涙が出る。
 ちょうどいい。だって泣きたい気分だったんだもの。
 私は特に料理上手とはとても呼べないけど、玉ねぎを刻むことに関してはプロ顔負けだと自負している。修練の結果。いや、修練なんてしようと思ってたわけじゃない。ただの慣れだ。つまり、それほど私は過去に玉ねぎを刻んできた。
 ちなみに何を作るかは考えていない。いつもの事。ただ、大量の玉ねぎを刻む。
こうして泣きながら無心になって玉ねぎを刻むうちに、嫌な事は影を薄めていく。胸から怒りとか悔しさとか悲しさがすうっと消えていく。いつからこんな事するようになったのか、はっきり覚えていないけど、ここ数年、嫌な事があるたびに、玉ねぎを刻むようになった。そして、ここ数ヶ月の間、玉ねぎの消費量は増える一方だった。
 玉ねぎを切って、嫌な事を忘れるなんて女、他にいるだろうか?多分、そんなにいないだろう。友達とお喋りしたり、甘いもの食べたり、お酒飲んだりする方がストレス発散になるって、女友達はそう言う。
 それは私の頭が悪いのか、ただ単純に立ち直りが早いのか。多分、頭が悪いのだろう。自分でも分かっているし、夫にもよく言われる。
「バカだな、考えれば分かるだろ」と。
 考えるべきところで考えないで行動するから、小さな失敗を繰り返すのだ。それを考えれば分かるだろとか言われても元も子もない。
 包丁を置き、ティッシュで鼻をかんだ。玉ねぎの汁が付いた手を顔に近づけたせいで、余計にツンとなってくしゃみが二つ出た。ほら、こういう時だ。考えれば分かるだろって。自分にそうツッコむと、また先ほどの怒りや腹立たしさがこみ上げた。だからまた、玉ねぎを刻む。ちょうど新玉ねぎの季節だったので、まな板にもりもりと乗った玉ねぎのみじん切りは、真っ白い雪のような美しさだった。
 それにしても、こんな大量の玉ねぎ。これはまたカレーにするしかない。確かに夫はカレー好きだが、先週も作ったばかりだ。それも大量に。まだ残りが冷凍庫に入っている。
 夫婦二人。子供はいない。結婚して十年。私は今年四十になり、夫は二つ年下だから三十八。
 夫婦喧嘩は犬も食わぬ。つまり、そのほとんどが他愛のない諍い。つまらない言い争い。
 でも、心が深くえぐられるような言葉を浴びせられると、犬にもでも食わせたくなる。そして食あたりして死んだ犬をひそかに思う。
 大きな鍋で、玉ねぎをいためる。飴色になるまで、根気良く炒める。これが美味しいカレーを作るコツだ。後はスパイスを入れて煮込むだけ。今日はチキンカレーにする。
 女友達はよく言う。
「どうしてあんな男を選んじゃったのかしら」と。
 私はそういう愚痴を漏らす友人が嫌だし、私はそうならないようにしようって、愚痴は言わない。いつも聞くだけ。
「アンタは幸せでいいわね」と言われると、引きつりそうな笑顔を作って笑う。
「ほんと、天然なんだから」
 これもよく言われる。昔から。結婚する前の夫からもよくからかわれた。
 自分に何ができるのだろう。
 自分の価値はどこにあるのだろう。
 夫は言った。今の収入だけで十分だから、お前は仕事はしなくていいって。だからその分、掃除とか料理とか、もっとちゃんとしろって。料理教室とか行ったら?教養の身に付くようなことしたら?
 私の価値。私の在り方。私の意味。
 もしも今、私がこの世からいなくなったら、誰が困るだろう?誰が心から悲しむだろう。
 私はよく、私のお葬式を想像する。両親は悲しむだろう。お母さんなんてわんわん泣くだろう。でも、しばらくしたらケロッとするだろう。きっと、友達もそう。大げさに泣いて、悲しんで、はいサヨナラ。
 夫は生活の便宜的な事、物質的なことで最初は困るだろう。でも、要領のいいあの人の事だから、すぐに上手くやるだろう。
 スパイスの香りが、部屋中に充満している。
「お、いい匂いだな」
 昔は、仕事から帰ってきた夫は、よくそう言った。最近はカレーの匂いがしても何も言わない。カレーは料理べたな私の唯一の得意料理なのに。
 このマンションが、私の家。なのに最近、私の家って感じが薄れている。私の居場所は、ここにないような気がする。
 それって病気?
「そんな事よくあるよ。子供なんていてごらん?もっと考えることたくさんあるよ」
 近所の主婦仲間の一人が、私にそんな事を言った。
「あーあ、私の子供がいなかったら、好きなようにできるのになぁ。お金ももっと余裕あるし、つまらない事でイライラしないと思うし」
 私は笑いながら「そうですねぇ」って、ぼんやりした声で答える。皆が思う、私らしい『私のキャラクター』で笑う。
 玉ねぎが足りないかもしれない。とりあえず千切りにして、オニオンサラダでも作ろうかしら。
 カレーの匂い。シンクに溢れた玉ねぎの茶色い皮。私はぼんやりと木ベラを使って玉ねぎを炒める。


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このストーリーに関するコメント

15/06/25 泡沫恋歌

メラ 様、拝読しました。

玉葱刻んでそれで、ストレス解消できるなら誰も傷つけないし良い方法だと思う。

私の場合、旦那に八つ当たりするという、最低の妻のパターンです(笑)

15/06/26 メラ

恋歌さん、コメントありがとうございます。
ちなみに私は目が強いのか、あまり玉ねぎが目にしみません。そして夫の身であるものとして、妻からの八つ当たりは過酷なものにございます(笑)

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