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左足の小指さん

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自転車泥棒

12/07/25 コンテスト(テーマ):第十回 時空モノガタリ文学賞【 自転車 】 コメント:0件 左足の小指 閲覧数:1575

時空モノガタリからの選評

最終選考

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夕日が美しい・・久しぶりに時計屋は思った。
修理専門の店をしているのだが、1900年代の大仕掛けのからくり時計の依頼がフランスから来てから中々落ち着かなかった。

ねじは無いわ、錆びてるわ、無くなっている部品が当然、現在存在してないわ、仕掛けで出てくる女性の服は手には負えないわで、あっちこっちの職人や企業の知恵を借りて、なんとか仕上げの段階に来て、散歩をするという心の余裕が出てきた。

{ドールハウスの店}時計屋の散歩コースに新しい店がオープンしていた。
ドールハウスって何だろう?店に入ってみて、驚いた。
色々な物が小さくなって、飾られているのだ。
ああ・・もっと早く散歩をすれば良かった。からくり時計の中から色々な物が出てくるのだが、この店の存在をもっと早く知っていたならば修理の期間が大幅に短縮できたのではなかろうか?
その店の小さな品物達に時計屋は心をひかれた。

一番気になったのは、時計とは関係ないのだが、自転車である。
「さわっていいですよ」
ありがたい!本物の12分の1という小さな自転車を指でそっと押してみる・・タイヤが動いた・・もしや、両手を使ってハンドルの下にあるレバーを引く、ブレーキが掛かる!
「・・・・・・・・」
「これを使いますか?」
僕の考えている事が分かったらしく、店員が爪楊枝をくれた。

僕は、自転車のライトのボタンを爪楊枝でゆっくり押した。
それにあわせて、店員が店内をライトダウン、自転車のライトが明るい
「LEDを使っております」
と説明してくれた。ここには沢山のドールハウスが置いてあり、その中の車庫やデッキやリビングの壁などに12台の自転車が飾ってある。

僕は、自転車に乗れないから、家には一台の自転車も無いが、小さな部品と金属と電気は大好きだ。それがすべて揃っているのだから、これらの自転車が欲しい・・しかし、随分みな形が違うのだ・・考えあぐねていると店員がサービスだと言ってベルギーチョコとコーヒーを出してきた。

そして、チョコを置いたテーブルに12台の自転車を並べ、説明を始めた。
ロードにクロス、TT、BMX、12台全部種類が違うとは分からなかった・・

チョコが恐ろしくおいしかったせいだろうか?仕事が一区切りついた開放感からだろうか?ただ単に接客態度が良かったとういうことなのだろうか?衝動買いというものを初めてしてしまった。12台全部は、買いすぎだとは思ったが、物作りの楽しさを思い出させてくれたし、ツアラーという自転車は、旅行用で荷台の両サイドにバックが付いていた。一台一台魅力的だったので仕方が無い・・かな。

店に戻ると作業台の上に今日買った小さな自転車を一列に並べた。その時、丁度、あのからくり時計からオルゴールの音が流れてきた。
ボーンボーンという音ではなく、この時計はオルゴールの音が流れる。
僕は、腕時計を見ながら{よし!}と正確に動いている事を喜んだ。

しばらくすると時計の下の扉が開き、左手にフラスコ、右手にペンを持った女性が現れる。フラスコから視線を隣にある机の上のノートに移すとペンで何やら書いている仕草をした。
きしみもなくなったぞ!動きもスムーズだ・・あれ?あーあ・・戻らない、いつまでも流れるオルゴールの音、戻って行かない人形、今まで戻らない事は無かったのに・・

冷蔵庫からビールを持ってくる・・おいしいじゃないか・・そうさ、なにも変わらないさ。
僕は、キズミを目に当て内部のチェックを始める。その時、僕の視界にフラスコを持つ女性の顔が入り、僕は、なんとなく声を掛けた。
「君は、頭がいいんだろうね、自転車も乗りこなしそうだ」
彼女は無言なのだが、当たり前じゃないの・・と笑っている様にも見えた。
オルゴールの音は止まったが、彼女は中に戻らず、当然、扉は閉まらない。

やっぱり自転車は飾るもんじゃない!こんな時、乗れたら、頭がスッキリするだろうな・・ビールなんて眠くなるだけだ・・僕は、ズルズル・・と眠りの沼に沈んでいった。

「親方、おはようございます」
時計の修理の修行に通って来ている青年の声に起こされ、時計を見ると扉は閉まっている。
「扉にこれ、挟まってました。取ったら、閉まりましたよ」
扉を眺めている僕に青年が渡したのは、あのフラスコを持っていた人形の髪飾りだった。

仕掛け時計からオルゴールの音が流れてきた。
僕は、腕時計を見る。やはり正確に動いている。
扉が開く、中からパンを持ったコックと紅茶を入れてるメイドが出てくるハズなのだが、いない・・パンもあるし茶器もあるが、コックとメイドがいない・・

慌てて調べてみると踊り子や道化師、フラスコを持った女性、総勢12名が行方不明になっていた。自転車に乗れないのは僕だけだったんだ。みんな納期までに戻って来てくれる
だろうか?


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