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ポテトチップスさん

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押入れの閻魔さま

15/06/23 コンテスト(テーマ):第八十六回 時空モノガタリ文学賞 【 掃除 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:915

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「本日は、ハウスクリーニングをご利用頂きまして誠にありがとうございました。以上で作業の方は終わらせて頂きます」
富樫裕二は、笑顔で客にお辞儀をした。
「キッチン周りが驚くほどキレイになって、本当にハウスクリーニングを頼んで良かったわ。また次回も頼みますね」
「ぜひ、またご依頼を頂けますと助かります。それでは、本日はありがとうございました」
裕二はもう一度、客に笑顔でお辞儀をしながら、右手で隣に立つ兄の祐一の尻をつねった。
祐一は面倒くさそうに首をコクンと前にたおした。
コインパーキングに駐車していた作業車に乗り込むと、祐一は作業服のポケットから無造作に一万円札をわしづかみで抜き取り、枚数を数え始めた。
舌打ちを車内で鳴らし「8万円しか稼ぎがねぇよ」と言った。
「見るからに金の無さそうなババアだったからな、8万円盗めただけでも、まだマシだろ」
裕二はタバコに火をつけ、煙を胸いっぱいに吸い込んだ。
ハウスクリーニングの仕事を裕二が自営業でやり始めたのは、今から1年前のことだった。当初は一人でマジメにハウスクリーニングの仕事をやっていたのだが、当時無職だった兄の祐一を雇うようになってから、泥棒の世界に足を踏み入れていった。きっかけは、ある独り暮らしの老婆の家を、兄とハウスクリーニングに行ったとき、裕二が老婆とキッチンで会話している最中に、祐一が出来心で別の部屋の箪笥を物色しお金を抜き取ったことがきっかけだった。
こんなに簡単にお金が手に入ることに味をしめた2人は、以後、泥棒稼業にドップリと浸かっていった。役割分担は決まっていて、裕二が客とキッチンで会話をしている最中に、祐一が金がありそうな部屋を物色する役割だった。こうして盗んだ金は、夜な夜な繁華街で馬鹿騒ぎして使い切る。金は天下の回り物で、盗んだ金も金は金だ。
車内でタバコを吸い終えた裕二は、兄に言った。「本日、2件目の客は、田園調布に家がある客だ。金ありそうだから、気合入れて行こうぜ」
「裕二、金盗んで今晩も馬鹿騒ぎしようぜ!」
「兄貴、ドジルなよ」
昼過ぎ、田園調布に家がある客の玄関前に立った。敷地面積300坪はありそうな豪奢な造りの一戸建てだ。
インターホンを鳴らすと、60代と思われる女性が玄関外に現れた。
「こんにちは。富樫ハウスクリーニングです。本日は、ハウスクリーニングのご依頼、ありがとうございます」
「どうぞ、中に入ってください」
「お邪魔します」
兄と弟は清掃用具を手に持って、玄関から中に入った。室内の調度品はどれも高価な値打ちのしそうな物ばかりで、裕二はシメたと思った。
まずは客に怪しまれないように、兄と弟はキッチン周りの清掃を始めた。輸入物の換気扇は油がこびりついていて、油を除去するのに手間がかかった。換気扇が綺麗になると、裕二と祐一は目を合わせて頷きあった。裕二が居間でくつろいでいる女性主人をキッチンに呼び、綺麗になった換気扇を見せた。女性主人は「まあ〜、綺麗になりましたわね」と驚いた。裕二はさらに話を続け、女性主人と裕二が会話をしている間、祐一は部屋を物色し始めた。
じばらくして、青ざめた顔で兄がキッチンに戻ってきた。
裕二は一瞬、どうしたんだろうと思ったが、きっと大金を手に入れて青ざめているのだろうと思い、心躍りながら残りの作業を終わらせた。
「本日は、ハウスクリーニングをご利用頂きまして誠にありがとうございます。以上で作業の方はすべて終わらせてもらいます」
「本当に綺麗になって良かったわ。なかなか、自分では換気扇の掃除が出来なかったので、困っていたんです。頼んで良かったわ」
「そう言って頂けると、働いたかいがあります。本日は誠にありがとうございました」裕二は笑顔でお辞儀をした。隣に立つ祐一は青ざめた顔のまま、棒立ちでいた。裕二は右手で兄の尻をつねったが、いつもと違ってお辞儀すらしなかった。
コインパーキングに戻り、作業車に乗り込むと、裕二は目を輝かせながら言った。
「いくら盗めた?」
祐一は青ざめた顔を左右に力なく振った。
「はあ? まったく金盗めなかったの?」
「ミイラがいた」
「ミイラ? なんだよそれ」
「老人のミイラが押入れの中にいた。きっとあの女主人の旦那だよ」
「マジかよ……」
「なんだか、おのミイラの顔みたら、閻魔さまに思えてきて、俺たち、ものすごい罰があたりそうで怖いんだ」
「じゃあ、どうすんだよこれから」
「警察に今までの事を話して自首したい。それと、あのミイラのことも警察に話したいんだ」
裕二はため息を吐いた。「俺は嫌だね、警察に自首するなんて。逮捕されちゃうよ」
「なあ、裕二。自首しよう。そして刑期を全うしたら真っ当な人生を再スタートさせよう」
裕二はタバコに火をつけ、ため息混じりに「分かった」と言った。

おわり


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