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水谷健吾さん

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動物園評論家

15/06/23 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:0件 水谷健吾 閲覧数:830

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動物園の嗜み方というのは実に奥が深い。無数にも思える組み合わせの中に、間違いなくルールというものが存在する。
そもそも動物園という概念が日本に持ち込まれたのは1866年、福沢諭吉著書「西洋事情・初編」の中。そして1882年の上野動物園が記念すべき日本初の動物園であることはさすがにご存知であろう。
それからというもの多くの人間が動物園を訪れ、多くの嗜み方が生まれた。時に奇天烈な手法が注目を集めることもあったが、歴史の選定の中で廃れていった。
私の動物園評論家としてのキャリアは長い。その過程で気付いたのは”動物を見る”ことの重要さだ。何をわざわざと思われるかもしれないが意外にこれができていない者が多い。例えばカップルや家族連れがそうだ。あくまで会話を盛り上げるため、思い出を作るための一つのツールだと考えている。動物園とは動物を見るための「園」である。それがわからない無粋なやつはテレビでアニマル浜口でもさかなくんでも見ていれば良い。ここで誤解を与えぬよう説明しておくが私は一人で来ているわけではない。パートナーのミキと一緒だ。無口な女であるが器量は悪くない。半歩下がってが似合う日本美女だ。一緒に動物園を回るにふさわしいと言えるだろう。

もう一つ。動物園を嗜むポイントとして欠かせないのが「いつ行くか」ということ。もちろん答えは一つ。平日しかありえない。土日、祝日は当然ながら人が多い。長期休みなど最悪だ。人、人、人。動物を見に来たはずなのに人間ばかりを見ることになる。先ほども言ったが我々は動物を見るために動物園に来ているのである。だとしたら来るのは平日しかありない。
また初心者には少しハードルが高いかもしれないが、近隣の学校の創立記念日や遠足の日程も調べておくと良い。平日を選んだにも関わらず子供でごった返すことを避けられる。

さて、まずは入り口付近の動物たちを見ていく。なるほど、キジ、鳩など鳥類を中心に構成され、シカ、リスで飽きがこないようにしている。ちなみに私たちが入ったのは表門であるが園によっては他に出入り口があるケースもある。それを知らず「どうせ、あとから戻ってくるからその時じっくり見よう」などと考えていると全ての動物を見ずに終わってしまうので要注意だ。動物たちとの出会いは一期一会。視界に入ったら考えるよりもまず見る、が定石である。

最初のエリアの目玉はジャイアントパンダだ。かってパンダといえば動物園の人気者。園の奥に居座り多くの人間の園内回遊率を上げることに貢献していたが、この動物園では早い段階で見せるようだ。ウーパールーパー、アザラシ、レッサーパンダなど人々の嗜好は移り変わる。その時代の流れに対応している動物園と言えるだろう。つまりそれは常に顧客のニーズに目を向けていることになる。かなり期待できる。
その後、ふくろう、カワウソと相次ぎ、ライオン、トラと男の憧れとも言える動物を目の当たりにした。テナガザル、ゴリラを見たところで園の中心部分にゾウがいた。その巨大さに圧倒されながらホッキョクグマ、ペンギンとを見る。さらに、カンガルー、キリン、サイ、カバ、カピバラ、アイアイ、ワニ、カメ。そのどれもが素晴らしく、我々が忘れていた野生を十分に感じることができる。

そして一番奥にはレッサーパンダがいた。なるほど。ここはレッサーパンダを目玉として据えているのだ。ありきたりすぎて少し拍子抜けしたが嘆くほどのことではない。
ん?いや、違う。私は前言を撤回した。レッサーパンダの奥。そこに出入り口があるのだ。どうやらここから入る客も多いようである。つまり彼らにとってこのレッサーパンダは最初の動物。彼らの心をまずは鷲掴みにする生き物だ。そして彼らにとってこの園の奥とは私が入ってきた場所。つまりそこにはジャイアントパンダがいる。2種類のパンダを軸にどちらの出入り口からきた客にも「つかみ」と「オチ」を用意する。なんと計算し尽くされた動物園だろうか。素晴らしい。私は感動を禁じ得なかった。

非常に満足のいく動物園だった。と、そこで近くに小屋があることに気づく。「ポメラニアンとのふれあい広場」と書いてあった。
「フッ」
私は思わず失笑した。ふれあい広場。はっきり言って邪道だ。何度も言うが動物園とは見るものである。つまり一種のショーと行っても良いであろう。どんな舞台でもベタベタとキャストに触れることはない。さっさと帰ろう。

そんな私の目に一匹のポメラニアンが入り込んだ。何と言う愛らしさだ。つぶらな瞳は私の心を捉え離さない。
触れたい。
触れ合ってしまいたい。
いっそのこと、触れてほしい。

私の中に強い衝動が沸き起こる。
だめだ。耐えられない。私は両足で地面を蹴り尻尾を振りながら走り出した。ミキが慌てた様子で後ろから追っかけてくる。


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