1. トップページ
  2. サバンナ

佐々々木さん

性別 男性
将来の夢 何も決まってません。
座右の銘 Whats the worst that can happen?

投稿済みの作品

1

サバンナ

15/06/19 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:1件 佐々々木 閲覧数:938

この作品を評価する

 動物にも心はあるのか。
 動物園を訪れるたびに、そんな疑問が頭をよぎる。柵に頬杖を突きながら5メートルほど下を見下ろすと、一匹の雄ライオンが今にもあくびをしそうな顔でごつごつとした岩の上に横たわっていた。そのライオンの他にもこの柵の内側には、一匹の雄ライオンと二匹の雌ライオンがいる。どのライオンも、岩、または多少茂っている草の上で寝転んでいた。
置かれた岩、生やされた草、植えられた木、小さな池。人工的に造られたサバンナ、のようなもの。このサバンナの周囲は、これもまた人工的に造られた、岩のような壁、そしてその上に設置された柵によって囲まれている。
 心。そもそも心とはなんだろう。フロイト的に言えば、イド、自我、超自我で心は形成されている。イドは本能、自我は意識、超自我は社会・文化的な倫理、ルール、マナーといったところだろうか。一般にはこの自我が心として認識されているように思える。
「なあ、教えてくれよ」
 小さな声で呟く。何にも届かないか細い音。
「お前たちには」
 心はあるのか、という質問は何となく馬鹿らしく感じ、言い直す。
「お前たちは、幸せか」
 もし仮に自分がここにいるライオンなら、幸せだと言い切ることはできない気がする。
 毎日同じ場所で、同じ餌を与えられ、人から見下ろされる。
 ずっと。
 ずっと。
 ずっと。
 俺なら耐えられないだろうな、と思う。退屈で、退屈で、寝るか、食べるかしかすることがない。楽しそうに笑っている家族に、見下すな、と飛び掛かろうとしても高い壁がそびえ立ち、低く唸ることしかできない。
 想像でしかない。想像することでしか考えることはできない。
 逆に、生まれた時からここにいれば、特に気にならないのだろうか。
 幸せなんて相対的なものだ。今まで生きてきて経験したものを基準として、今が幸せかどうか、位置付けが行われる。今までの人生が辛いことばかりであれば、小さなことでも幸せを感じることができるし、逆に今までの人生で成功ばかりしてきたなら、小さな失敗で挫折したりする。
 動物園に生まれ、飼育員または親ライオンに育てられ、生きていく。当たり前に、動物園で生きていく。
「ああ、そうか」
 何かとても大切なことに気付けた気がした。
 このライオンたちにとってはここがサバンナなのだ。
 人と同じだ。人も会社や家族、学校、地域、金などに縛られ、小さな世界だけで生きている。自由に世界を飛び回っている人間もいるだろうが、それはごく一部だ。ほとんどの人間は、見えない柵の中にいる。世界は広いが、各々が持っている世界は、ひどく狭い。動物園も人間社会も変わらない。柵で囲まれている。
「なあ」
 かすれた声を絞り出す。
「俺は、幸せだったのか」
 教えてくれよ、と誰にともなく問いかける。自分以外にはわかるはずがないのに、聞いて回りたくてたまらない。
「お前たちは、幸せか」
 もう一度、問いかける。この狭いサバンナでずっと、何をするわけでもなく生きて、いつか死ぬ。幸せか。
 俺なら。
 俺は。
「ごめんだ」
 声は風に乗りどこか遠くへと飛んで行った。
 俺の目の前にある柵は、俺の世界を取り囲む柵。関係ない。こんなものは、覚悟さえあれば越えられる。
 柵を両手で掴み、体重をかける。体が持ち上がった。
 懐かしい。昔、小学校のころ、こうして鉄棒で遊んでいた。逆上がりはいつまで経ってもできなかった。
 重心を少しずつ前に傾ける。上半身が柵から前に乗り出した。体を折り曲げる。
 前回りだ。
 一気に重心を前方に放り出し、真っ逆さまに、落ちた。
 俺は、サバンナの外に行く。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/07/02 光石七

拝読しました。
動物園の動物を不幸と見るか幸せと見るか、様々な考え方があると思いますが、人間も見えない柵の中にいるという視点にハッとさせられました。
主人公がこの決断に至る経緯は書かれていませんが、何となくわかる部分、共感できる部分がありますね。実際にサバンナの外に出る勇気はないけれど、逃げ出したくなる時があると言いますか。
哲学的なものも織り込まれていて、惹きつけられるお話でした。

ログイン