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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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【点と点、ふたたびつながる】ケイジロウの過去

15/06/17 コンテスト(テーマ):リレー小説 【 相談屋ケイジロウ 〜新宿編 A】 コメント:5件 そらの珊瑚 閲覧数:1784

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「あらら、派手にやったわね、義兄さん」
「いてて……もっと優しく出来ねえのかよ、ヨリちゃん」
「ふん、男に優しくしたら、つけあがるだけでしょ」
 ホテルの地下駐車場に停めた車の中、ケイジロウからの電話でかけつけた助手の依子がその顔の傷の手当てをしている。依子の愛車、緑のミラ・ジーノ。イギリスのミニ・クーパーを模したデザインがウケて発売して15年だが意外と愛好者がいる。大柄なケイジロウには少々窮屈な軽自動車だが、都内を走るには小回りが利き便利だった。
「内出血しているから、案外腫れるかも」
 ケイジロウの妻咲乃と助手の依子は一卵性双生児の姉妹だ。顔はよく似ているのだが、性格は真反対。咲乃は物静かで大人しい。依子は男勝りでがさつ。それがいけないのか、三十五歳になっても独身だ。「モテないわけじゃない、男に見る目がないのよ」と酒が入るたび言うので、ケイジロウはいつも苦笑した。だったらその口を直せよ、と思う。男の前で「キン〇マついてんのか」「マザコン野郎は引っ込んでろ」とか、口の汚さはケイジロウに引けを取らないものがある。理想の男はブルースリーで、流行りの草食男子には虫唾が走るそうだ。ヌンチャクの腕前は女だてらに一級品だった。

 ――もう五年経つのか。ケイジロウはあの日の事をまるで昨日の事のように思い出す。
 妻の咲乃がひき逃げされ、捜査を投げ出して病院に駆けつけた真夜中の事を。
「姉さん、大丈夫かしら」
「医者の話じゃ、今晩が山だと」
 依子が一瞬息を飲み、目をむく。
「ひどい。許せないわ。ひき逃げなんて」
「犯人は?」
「まだ捕まってない」
「でも、なんで? 夜に一人で新宿に行くなんて、慎重な姉さんらしくない」
「咲乃は俺の名を騙ったにせメールに呼び出されたらしい。『困ったことが起きた。新宿の現場に来てくれ』と咲乃の携帯電話に残されていた」
 そして出かけていった裏通りで咲乃は車にひかれる。そのあとすぐ通りかかったタクシー運転手によって119番されたのは不幸中の幸いだった。
「俺のせいかもしれない」
「どういうこと?」
「俺が追ってる事件が上層部からストップがかかったんだが、俺は密かに捜査していた。再三、捜査を止めろと脅しのメールが来たにもかかわらず」
「誰から?」
「新宿バッハ」
「何者?」
「知らん。発信源は海外のサーバーをいくつも経由していて、結局その正体にいきつくことが出来なかったんだ」
「姉さんのひき逃げとその新宿バッハがつながっていると?」
「ああ、点と点がつながった。根拠はないが。刑事のカンだ」
「そんな……」
 咲乃と依子の両親は二人が幼い頃に共に飛行機事故で失くした。姉妹は母方の祖父母に愛情を持って育てられた。が、両親のいないさみしさは、祖父母には埋められない。姉妹は互いのさみしさを共有しながら成長した。依子にしてみれば咲乃は替えのきかない無二の存在。それはまた依子にとっても同じだった。
「ヨリちゃん、すまない。俺の、俺のつまんない刑事の意地で、咲乃を……」
 ケイジロウは嗚咽した。
「ばか! ばかやろう」
 依子は泣きながらケイジロウの胸を打った。許さない、と言いながら、それが誰に向けてものなのか、当の依子にも分からない。義兄に向けたものか、姉をひいた犯人か、それとも得体の知れない新宿バッハという悪に向けてのものか。
 咲乃は一命は取り留めたものの植物状態になった。病院のベッドで眠ったまま五年の月日は流れ、今、再び点がつながろうとしている。

「誕生日、おめでとう、ヨリちゃん」
 ケイジロウはスーツの上着のポケットからくしゃくしゃになった紙包みをさし出した。
「わぁ、KIMURA屋のアンパンじゃん。お姉ちゃんの大好物だ」
 つぶれたアンパンにかぶりつく依子。このアンパンは隠し味に塩が入っているらしいが、いつもよりしょっぱいのは気のせいだろうか。
 アンパンを食べられない姉。自分の誕生日を義兄が覚えているのは、姉のついでなのだ、と考えたら、妙に胸の中がざわつく。まさか、ね。こんなおっさんのこと、好きとかありえんし。刑事を辞め落ち込んでいたケイジロウに相談屋稼業をやってみないかと持ちかけたのは依子だった。助手になったのは、もののはずみであったが、義兄の事が心配で放っておけなかったのだ。
「あちょー!」
「な、なに? どした?」
 簡易ヌンチャクを突然振り回す依子。依子のポケットはアナログかつ奥深い。そこに隠してあるものはヌンチャクを筆頭に手裏剣、忍者が逃げる時に使ったというまき菱なるものまで入っているらしい。
「ただの景気づけ。さあ義兄さん、お仕事よ」
 依子はホテルのエグゼクティブルームのある33階のエレベーターのボタンを押した。そこは今夜のパーティーの主役、依頼人の令嬢の控え室になっている。


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このストーリーに関するコメント

15/06/19 メラ

珊瑚さん、拝読しました。
なるほど、こういう展開も面白いですね。ヌンチャクってのが妙にはまってます(笑)。
新宿バッハ。自分で作っておいて、こうして広がっていくのが楽しいです。

15/06/25 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

ケイジロウと助手の依子のキャラづくりに重点を置いたストーリー展開で、
この二人の今後の活躍と、ケイジロウの妻咲乃をひき逃げした犯人が
どう繋がっていくのか、興味深々です。

ヌンチャクと聞くと・・・とある人を思い出します(笑)

15/07/02 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

面白いですねえ、ケイジロウの過去が何か関係していそうですね、助手の依子は義理の妹。しかも、姉であるケイジロウの妻の咲乃はひき逃げされている、犯人は新宿バッハに係っている?

続きが気になりますねえ。連載でも人それぞれの物語の展開があって大変勉強になります。

15/07/04 光石七

拝読しました。
ケイジロウにこんな過去が……
ケイジロウと依子との関係や依子のケイジロウへの思いなど、人物設定をはっきり方向づけられたことにも感嘆しました。リレー小説がどれくらい続くのかはわかりませんが、長編の場合はキャラクターが定まっていないと書きづらいと思います。
ケイジロウも依子も魅力的なキャラに感じますし、この二人がどんな展開に巻き込まれていくのか、非常に楽しみな第二話ですね。

15/07/17 そらの珊瑚

メラさん、ありがとうございます。
しばらく長く続くのかな、ということを想定して書いてみました。
メラさんの書かれたカラーを壊さないように気をつけたつもりです。
難しいけれど楽しかったです。

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
単なる謎解きだけでは面白くないので、キャラをこんなふうに設定してみました。
ヌンチャクさん、いらっしゃいましたね!

草藍やし美さん、ありがとうございます。
ちょっとした恋愛模様の予感も入れつつ、ミステリーなかんじで書いてみました。
続き、どうなるんでしょう?(笑い)

光石七さん、ありがとうございます。
是非長編を望みます!!
だけど続けば続くほどハードルが高くなりそうな…(笑い)
魅力的なキャラといっていただけて嬉しかったです。


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