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三文享楽さん

私、三文享楽でございます。

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人間だね

15/06/14 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:0件 三文享楽 閲覧数:730

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 入園ゲートを抜けると、檻に入った動物が見えてきた。
「この生き物はなあに?」
 小さい子どもを連れてくると、この時点でこうした質問を受けることになる。
「これはね、怠け者という生き物だよ。自分では生産性のあることもしないのに、人のやることにはケチをつけて欲望のままに生きている動物なんだ」
 聞かれたならば説明をしなければならない。
「へえ。よく見ると人間の一種なんだね。人間って生産性があることをしないと、怠け者になっちゃうの?」
「うーん。そういうわけでもないかな。パッと見で生産性がなくても、何かを創造しようと暗中模索していれば怠け者になることはないんだよ。自らは何を産み出すでもなく人の批判ばかりをして、欲望に溺れている人間がこうした生き物になってしまうんだ」
 檻の中の怠け者は自分の股間を擦っている。
 そうかと思えば、別の怠け者は飼育員から酒を奪い取り鞭で叩かれていた。
「あの怠け者は元気に反抗しているけど」
「ああ、そうさ。反抗すること自体はエネルギーを使う活動的なことだけど、偉そうに反抗しているだけでは結局こうした生き物になってしまうことも数多くあるんだ。大事なのは反抗すべき時を見極めることだね」
「ふーん」
 怠けの限りを尽くしている怠け者たちの脇を通過すると、また違う生き物が出てきた。
「これはなーに? なんだかさっきのと似ているけど、なんか違う。抜け殻みたい」
 次の動物が登場した途端に質問が来るのは面倒なことだったが、先ほどまで見ていた動物と見比べて、違いを考えられることは頼もしかった。丁寧に教えたくなるものだ。
「これはね、世の中にあるタブーの極地で葛藤に耐えきれず全てを投げ出してしまった人間のなれの果ての姿だよ」
「タブーって?」
「宗教、人種、国家権力と国際関係。世の中にはデリケートな論点が混在しているんだ。その中で何をネタにしていくか。信念と制約がぶつかりあった時に人は全てが流出し、抜け殻になることがあるんだ。元は政治家やアーティスト、マスコミ関係者だったのかな」
「へえ」
「信念があったのに抗いきれずに諦めてしまう。悲しい結末だけど、こうした人間たちはこういう抜け殻になってしまうことが多いんだよね。絶望的な壁に押し潰された時、中身が全部流出するんだ」
 しばらく抜け殻が続いた。
 職種別の抜け殻なのだろうか。微妙に違う抜け殻が次々と出てきて、世の中に存在する抜け殻の種類を見せつけられる。
「これはなあに?」
 抜け殻が終わるとすかさず質問がきた。よく見ている証拠であり、連れてきた方としては張り合いがある。
「それはね、オブジェだよ」
「オブジェ?」
「そう。いや、生きているんだから正確な意味での造形物ではないよ。でも、通称オブジェと呼ばれている動物なんだ」
「動物なの? これが?」
「ああ、部品みたいだがね。立派に生きている」
 よっぽど驚いたのか、目を皿のようにして檻の中を見ている。
「ああ、本当だ。よく見ると人間だね。でも、これ生きている感じがまるでないよ」
「ふふ。でもね、このオブジェはね、セイチョウしているんだよ」
「ええ?」
「人間という生き物はね、真の自我を失い、組織にとって使い勝手のいい自我を見つけたときにセイチョウしたって言うんだよ」
「うーん、よく分からないなあ」
「そうだな。これは管理社会と言われる見えない小箱の中で育ってしまった生き物なんだよ。その中で大きな物を形成する。いわば、部品みたいなものなんだ」
「へえ、部品なんだ。それでこれ全体がオブジェかあ。生きてて面白いのかな?」
「虫という生き物がいるだろ? 彼らは子孫を残したらさっさと死んでしまう。子孫を残すために生きているようなものさ。たぶん、それと同じようなものだよ。こうして生きるっていうことだけが遺伝子に組み込まれているんだろうね」
「ふーん」
 動物園探索は続いた。
 しかし歩いている途中である重要なことに気付いたようである。
「ところで、この動物園はどうして人間という生き物ばかりなの?」
「それはね、我々が繁栄するまで最も栄えていたと言われている生き物だからだよ」
「ええ? こんな変なのが?」
「そうだよ。いまや、絶滅危惧種となったこれらの生き物は地球の物質を作り替える力をもっていたんだよ。最終的には自ら地殻変動を起こして消滅していったけど、そのカガクリョクと言われたものには尊敬に値する技術があったんだ」
「さっきのオブジェって言われる人間がいたから?」
「まあ、それも大きいがね。最初の怠け者だって抜け殻だって重要さ。その後に見たゴミカスや排除人って言われる人間などもいてみんな調和してカガクリョクは成し得たんだ」
「へえ。人間ってバカらしいけど、頑張れる生き物なんだね」
 物分かりが良く、今後の成長が楽しみである。


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