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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 図書館にある子どもの本を全て読むこと。 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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君の幸せを希(こいねが)う

15/06/02 コンテスト(テーマ):第八十五回 時空モノガタリ文学賞 【 動物園 】 コメント:6件 ちほ 閲覧数:1757

時空モノガタリからの選評

象とねずみの友情が素敵な物語ですね。象を勇気づけようと「旅の果てには幸せがきっとある」と励まし続けるねずみの優しさが、とても心に響きます。語り口も優しく淡々としていて、静かな感動を呼ぶ物語ですね。

時空モノガタリK

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 大きな運搬船の檻の中で、子象がひとりぽっちでぽろぽろ泣いているのをねずみは見つけた。
「どうして泣いているんだい?」
 ねずみの優しい言葉に安心して、子象は泣くのを止めて答えた。
「ぼく、両親から引き離されて、知らない処へ連れて行かれているところなの」
 ねずみは、よいしょと子象の背に乗って楽しげに話した。
「そう嘆くものではないよ。旅の果てには幸せがきっとあるさ」

 子象は、動物園で暮らすことになった。ここでの規則正しい生活を楽しむようになった彼の傍らには、いつもねずみがいた。
 子象が成長した時には、ねずみはそのお嫁さん探しも買って出て、動物園中を走り回った。ゴリラ、鹿、カワウソ、ライオン、虎、鶴、チンパンジー、クマ、キリン……。親友の象に相応しいお嫁さんはどこにいるのだろう。この方はどうだろうと思っても身体の大きさや食べ物が一致しないなど、どうもしっくりこない。ねずみはしょんぼりして象の宿舎に戻った。落ち込んでいるねずみを、象は申し訳なさそうに鼻先でつついた。
 その五日後に、ねずみは象のお嫁さんが他の動物園で見つかったという噂を耳にした。
象と共に大喜びして、今度は動物園中の動物たちに、喜びに溢れた言葉で興奮気味に話してきかせた。ねずみは、大きな声でこう言ったものだ。
「おいらの親友に、それは素敵なお嫁さんがやってくるんだよ。なんて嬉しいことだろう!」
 お嫁さんは少し内気だったけれど、象が長い鼻を伸ばすと、恥ずかしそうにその鼻に自分の鼻を絡ませて愛情を示した。お互いに一目ぼれだった。ねずみは、その優しいお嫁さんを見て、思わず呟いた。
「まるでお姫様のようじゃないか。なんて遠慮深く優しい方だろう」
 ねずみは上機嫌だった。もちろん、この喜びをまた動物たちに大きな声で言いふらした。
 
 幸せは長くは続かなかった。象のお嫁さんを迎える条件で、初めての赤ちゃんはまずはお嫁さんの故郷に渡される約束が、人間同士の話し合いによって決められていたのだ。赤ちゃんを奪われたショックで、お嫁さんは寝込んでしまった。そして、「あぁ、わたしの赤ちゃん……」と呟いて、それっきり動かなくなった。象は泣かなかった。哀しすぎて、泣き方を忘れてしまった。
 象はねずみに静かに問いかけた。
「ここは、まだ旅の果てではないんだよね?」
「……そっ、そうさ、旅の果てには幸せがきっとあるさ」
 ねずみは言葉に詰まりながら、そう言い放った。
 象とねずみは、いつも一緒にいた。春も夏も秋も冬も。
 どのくらいの年月が経っただろう。象は四頭目のお嫁さん候補も蹴っていた。
 それから数年後、象は雪降る中に体を横たえていた。ちらちら舞い散る雪の中、穏やかに微笑む愛しい奥さんのことを想い浮かべていた。
「もう部屋に入った方がいいよ。君の体が心配だよ」
 今や象より早く年老いてしまったねずみが話しかけた。ねずみはもう昔のように動物園中を走り回ることはない。彼は動こうとしない象の体によじ登って、その親友の大きな耳の内側に入り込み、静かに語り始めた。
「さぁ、一つ話をしようか。それは一匹のねずみの話だ。彼には兄弟が六匹もいて、その末っ子でね。頭はいい方ではなかったけれど、お喋りが大好きだった。このお喋りで誰かを救うほどのことができたら幸せだろうなと思い、運搬船に乗ったんだ。そこで、一頭の子象に出会った。泣いてばかりの子象が、自分のお喋りで泣き止んだのを見て、ねずみは一生この子象を守り続けようと決めた。……きこえているかい? まだ旅の果てではないよ」
 ねずみは話し続けた。象の体が冷たくなっていても、「まだ旅の果てではないよ」と繰り返し、例年にない大雪の中で一晩中話し続けた。

──きこえているかい? じゃあ、もう一つ面白い話をしよう……

 翌朝、雪に埋もれて息絶えた象が見つかった。そして、その大きな耳の内側で、身を丸くしたねずみが死んでいるのを飼育員が見つけた。象は丁寧に埋葬され、ねずみも飼育員によって清潔な白い布に包まれ、象の隣に埋葬された。
 動物園の象が死んだというニュースは人々を哀しませ、ねずみが死んだというニュースは動物園の全ての動物が哀しんだという。


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このストーリーに関するコメント

15/06/02 クナリ

大きな耳の中へ入り込むというシチュエーションがそれぞれの動物の特徴を現すシーンとして魅力的ですし、
何より最後の一文がいいですね。
面白かったです。

15/06/02 ちほ

クナリ様
コメントをありがとうございました。
小さなねずみが、大きな象にしてあげられることは何だろうか?
と考えました。”大きな耳の中へ〜”のシーンは、大きさの”対比”を、
最後の一文で象とねずみの”立場”を表しました。
読んでくださって、ありがとうございました。

15/06/03 草愛やし美

ちほさん、初めまして、拝読しました。

とても素敵なお話ですね、絵本にして読んでみたいです。子供達にも読み聞かせてあげたいものです。

ねずみの温かさに心洗われる思いです。語り口調も馴染みやすく話に入り込みやすいと思います、最後の一文は秀逸ですね。文学的にも童話としても良作だと感心しました。

15/06/03 ちほ

草藍 様

コメントをありがとうございました。
象はねずみの温かさに支えられ、奥さんがいなくなった後も
気丈に生きていけたのでしょう。
きっと、天国で奥さんも含めて、三頭一匹で幸せに暮らしていることと
思います。

草藍様から嬉しいコメントをいただけましたことを、大変光栄に思って
います。
ありがとうございました。

15/06/30 光石七

拝読しました。
とても優しくて心が洗われるお話ですね。
象と鼠の友情、象の一途な愛、他の動物たちとの関係。日々の生活に埋もれて忘れかけてた大切なものを思い出させてくれます。
子供にもいいお話だと思います。
素敵なお話をありがとうございます。

15/07/01 ちほ

光石七様
コメントをありがとうございました。
ねずみは象を泣き止ますことが出来たことで十分満足したのでした。
ねずみは見返りを求めない愛情を象に注ぎ、
そのことに喜びを感じていました。
それは、一生かけて象を守るほどのことでした。

天国では、みんな一緒に楽しく幸せに暮らしていることと思います。

光石七様から嬉しいコメントをいただき、ありがとうございました。

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