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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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未だ消えぬ影

15/06/01 コンテスト(テーマ):第八十三回 時空モノガタリ文学賞 【 時間ぎれ 】 コメント:11件 光石七 閲覧数:1818

時空モノガタリからの選評

「私は何も悪いことはしていない」のに、なおまとわりつく罪悪感……。その当たりの複雑な感情をうまく表現されているなと思います。また自販機の時間切れという仕掛けも効果的に使われていると思います。時間切れとなって、「私」は心の重荷を下ろすことができなくなってしまったのでしょうね。「時間切れ」というテーマをうまく生かした作品だと思います。

時空モノガタリK

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 中途採用者の歓迎会はそこそこ盛り上がった。あまり飲めない私もノリで二次会まで参加し、楽しく過ごせた。でも同僚たちと別れて一人になると、一気に心細さや不安が押し寄せてくる。仕事や歓迎会の間は忘れていられたけど、今日は……。さっき駅で見た時計は午後十一時前だった。あと一時間……。ついカウントダウンしてしまい、余計に心がざわつく。
(コーヒーでも飲んで落ち着こう)
帰り道の途中にある自販機に立ち寄った。小銭を入れ、点灯したボタンの中から缶コーヒーを選んで押す。ピピピピ……。
(え、当たり?)
投入金額の表示欄に並んだ数字は「8888」。ガコンと缶コーヒーが取出口に落ち、再び全ボタンに光が灯る。三十二年生きてきて貧乏くじ以外の当たりは初めてだ。
(何かの暗示? 時効直前の劇的逮捕とか? それとも志穂の意識が戻るの?)
私の心に暗い影を落とし続けている十五年前の出来事。……ああ、せっかく当たったんだから、もう一本選ばなくちゃ。自販機のラインナップに目を移す。でも、これというものは無い。何でもいいといえば何でもいいんだけど……。迷っていたら、ボタンの光は消えてしまった。
(時間切れ……)
なんだか無性に笑いたくなった。

 あの日のことはよく覚えている。放課後、私は同じクラスの泉君に校舎裏に呼び出された。泉君は私の友達の志穂と付き合っていた。
「志穂のことで何か相談でも?」
私は平静を装って泉君に尋ねた。
「俺、志穂と別れようと思う」
ここ数日の志穂の様子から、そんな気はしていた。
「なんで? 志穂はいい子じゃん。泉君のこと本気で好きだし、泉君だって志穂の気持ちわかってるでしょ?」
友人としての言い分。
「わかってるけど、志穂とはもう無理だ。自分が本当に好きなのは誰か、気付いたから……」
泉君はまっすぐ私を見た。思わず目を逸らしたけど頬が火照る。泉君が私の手をぎゅっと握った。
「柚本、好きだ」
思いがけない告白。俯きながら体が震えた。本当は私もずっと好きだった。でも志穂の恋を応援して……。
「困らせてゴメン。だけど、これが俺の本当の気持ちだから」
どう答えたらいいのかわからなかった。
「志穂とは別れる。返事はすぐじゃなくていいから、考えておいてくれる?」
泉君が私の手を離した。泉君の顔が見られない。
「じゃ」
泉君がくるりと体の向きを変えたのはわかった。でも動く気配が無い。私は顔を上げた。泉君の前に、青ざめた顔の志穂がいた。
「……聞いてたのか?」
泉君の問いに答えず、志穂は走り去ってしまった。
 その一時間後だった。志穂が路上で何者かに鈍器で頭を殴られて意識不明の重体に陥ったのは。
 泉君と私は気まずくなり、そのうち顔を合わせても話さなくなった。志穂は昏睡状態から目覚めず、犯人は不明のまま。一度志穂の見舞いに行ったけれど、悲しさと罪悪感が入り混じってつらかった。私は事件前の学校でのことは誰にも話さなかった。泉君もそうだったのだろう。私たちが非難されたり責められたりすることはなかった。
 泉君は県外の大学に進んだのを機に志穂の見舞いをやめたらしい。そのまま向こうで就職したと聞いた。昨年向こうで家庭を持ったとか。私は大学も就職も県内だったけれど、やはり見舞いには行きづらかった。新たな友人や仕事を得てそれなりに日々を楽しめるようになったけれど、恋愛はどうしてもできなかったし、ふとした時に志穂のことを思い出して息苦しくなる。時折風の便りで志穂やご家族の様子を聞いたりもした。
 あの日から十五年が経とうとしている。時効が近いということで最近あの事件が地元テレビに取り上げられた。やはり犯人はわからないままで、志穂は眠ったままらしい。そして今日が時効成立前の最後の一日だ。

 私は自販機の取出口に手を入れ、缶コーヒーを掴み出した。プルタブを開け、コーヒーを口に含む。飲み干して空き缶をゴミ箱に入れ、アパートに帰った。
 シャワーから上がると午前零時を回っていた。テレビでもネットでも犯人逮捕のニュースは無い。まだ確実とは言えないけれど、おそらく時効は成立したのだろう。もう犯人がみつかっても刑事責任は問えないのだ。悔しさや憤りを感じる人も多いだろう。
(逃げ得……)
そんな言葉が浮かぶ。この言葉は事件直前の校舎裏でのことを言わない私にも当てはまるのだろうか? 私は何も悪いことはしていない、そう思い込もうとしてもあの日の記憶は影のようにまとわりついて、ふとした拍子に顔を出す。
 今からでも告白して懺悔すれば、少しは楽になるのだろうか? 今更遅いだろうか? あの自販機の当たりのように、早いうちにその選択を決断すべきだったのだろうか?
 志穂は私を恨んでるだろうか? 志穂の目覚めを願いながらも、その日が来るのが怖い。
 ああ、明日も仕事だから早く休まなくては。


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このストーリーに関するコメント

15/06/02 夏日 純希

のめり込んで読めました。面白かったです。
時間がきれて何も変わらないとしても、
Life goes on……をうまく描いてらっしゃると思いました。

15/06/02 夏日 純希

のめり込んで読めました。面白かったです。
時間がきれて何も変わらないとしても、
Life goes on……をうまく描いてらっしゃると思いました。

15/06/03 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

こうなると始末が悪いですね、運が悪かったとしか言いようがないけれど……。人を好きになるのは自由なのだけれど難しいですね。
友人同士での3画関係はよく聞く話ですが、相手がこういう事態になる設定で読みごたえありました。
断ち切ることができない苦しさが良く伝わってきて納得できる話でした。いろいろと考えさせられました、面白かったです。

15/06/03 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。
法律で時効は成立しても、人の心のなかはそう簡単にはいかないですね。
不幸な事件だとしても、このまま過去をずっとひきずって生きるのは辛いだろうなあと思いました。

15/06/06 光石七

>夏日 純希さん
コメントありがとうございます。
時間が経てば心の傷や苦い記憶も四六時中というわけではないだろう、と(自分の経験上)。日常生活に埋もれる中で薄れる部分もあるし、あえて目の前のことに集中してそこから逃れようという心の作用もあるし、それでもふとした拍子にフラッシュバックして心が不安定になったり。そういう感じを出せたらと思いながら書いたので、夏日さんのお言葉はうれしいです。
しかし、自販機の当たりの時間切れを使いたくて「何かつながりと広がりを」と書いたのに、あまりうまくリンクしてませんね(苦笑)

>草藍さん
コメントありがとうございます。
主人公自身が悪いことをしたわけではないのですが、どうしても後ろめたさは残るでしょうね。
当初主人公は殺人事件の被害者家族のつもりでしたが、先年時効が改正されたためもう殺人に時効は無いことに気付きまして。こねくり回すうちにこんな形になりました(苦笑)
“断ち切ることのできない苦しさが伝わってきた”、“面白かった”とのお言葉に救われます。

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
人の心に時効は無い、私もそう思います。
直接は何も悪いことをしていない主人公ですが、おそらくずっと引きずったままでしょう。
もうちょっと『時間切れ』の焦点を絞って書けたらよかったのですが。

15/06/09 光石七

>志水孝敏さん
コメントありがとうございます。
時効自体は「時間切れ」というテーマから連想しやすい気がして当初は避けていたアイデアでしたが、ジュースの自販機の当たりでもう一本選ぶ際に制限時間があることを知り、ここに事件の時効を絡ませてはどうかと思い立って書いた次第です。
じょ、叙述トリックですか? ……(どこだろうと読み返して)あ、もしかして冒頭部分のことでしょうか? 確かに主人公が犯人のような印象を与えますね。でも……すみません、意識してませんでした(苦笑) 事件に(直接的ではないにせよ)関わった者としてやはり主人公も時効は気になるだろうという考えでしかなく、ミスリードになっていることに全く気付いていませんでした。やはり書く際の客観性が足りないと痛感します。
お褒めの言葉の数々、恐縮です。
志水さんこそ素敵な作品ばかりで、いつも勉強させていただいてます。

15/06/10 冬垣ひなた

光石七さん、拝読しました

一人だけ幸せになれない、後ろめたい気分というのが
よくあらわされていて、冒頭から引き込まれました。
志穂を不幸にしたのは自分のせいじゃないのだろうけど、辛い状況ですね。
一つの話の中に様々な時間切れを内包していて、凄いなと思いました。

15/06/10 光石七

>冬垣ひなたさん
コメントありがとうございます。
主人公が抱える心苦しさを汲み取ってくださり、うれしいです。日常生活の中で紛らわせたり薄らいだりする部分はあっても、やはり引きずったままですので。
複数の時間切れを入れ込んだものの、取ってつけた感がありありというか、無理やり押し込んだというか……(苦笑) もうちょっと上手く絡ませたかったのですが、力不足でした。

15/08/04 滝沢朱音

こんにちは。入賞おめでとうございました!
遅ればせながら読ませていただきましたが、自販機と時効をからませたところがめっちゃドラマティックで、ドキドキしました。
もしかして、志穂を殴ったのは…とか、いろいろ考えてしまいました。
面白かったです。

15/08/05 光石七

>朱音さん
ありがとうございます。
時効成立直前に自販機でコーヒーを買って飲む主人公のイメージから出来た話ですが、主人公の複雑な心をどう表現すればいいのか悩みながら書き、これで伝わるだろうかと投稿後も不安でした。
もうちょっとスマートに的確な表現で書けたら良かったのですが、皆様に汲み取っていただき、感謝しています。
志穂を襲った犯人に関しては、「むしゃくしゃしてた、誰でもよかった」的な通り魔の犯行と思っていただければ。
楽しんでいただけたなら何よりです。

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