奇都 つきさん

主にホラーを書いております。 他ジャンルだと、コメディ、ファンタジーをよく書きます。 よろしくお願いします。

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15/05/31 コンテスト(テーマ):第八十三回 時空モノガタリ文学賞 【 時間ぎれ 】 コメント:0件 奇都 つき 閲覧数:780

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 例えば誰かが、そう、例えば恋人や家族。そういう大切な存在が、変わってしまったら、どうなのだろう。僕が今言った「変わる」というのは、環境やら加齢やらでなる、「自分」というベースを残したままの変化ではない。そういうことは誰しも少なからずあるんじゃないか。
僕が言いたいのは、「外見がそのままで、中身が全くの別人になってしまったら」という事例だ。
 外見は一緒で、やることも一緒。だけど、その根底が別人だとしたら?
 それが、全く自分の知らない誰かが、その人のふりをしていたとしたら?
 その時、僕は、いや、人は、その存在が自分の愛した人ではないと、気付けるのだろうか。
 考えすぎたのか、頭痛がする。まるで、頭を割ってなにかが出てこようとするかのようだ。そして痛みに耐えられなくなっていつも、答えは導き出せず、眠ってしまうのだ。

 僕が長年悩んでいたことを、目の前の彼女にすべて話した。自分一人では、到底たどり着けない怪盗だと悟ったのだ。
 日の当たる窓際の席に座っているせいか、僕の緊張のせいか、手にはびっしょりと汗をかいていた。
 彼女は僕の方を見ずに、目の前で湯気を立てる紅茶の水面を覗いていた。その姿はまるで、水晶をのぞき込んで僕の悩みを占う、占い師のようだ。
「それは、難しい質問だね」
 顔を上げて、僕の目を見据えた。彼女は一度見つめると、大きな目を決してそらそうとしないから、僕は、ちょっと怖い。見透かされている気になってしまう。
 手近にあったおしぼりでさらにかいた手汗をぬぐった。彼女は目を再び紅茶に向けた。
「物語だと、よくわかる人がいるよね。恋人とか、母親とか」
 細い指が、ミルクの入った小さな陶器を捉えた。それを紅茶に注ぎながら、独り言のように僕の考えをなぞる。
「知らないうちに、見た目も振る舞いも同じ他人が目の前にいたら、ぞっとしちゃう」
 ミルクはゆるくひろがって、マーブル模様に白濁を広げた。
 僕はそれを見ていると、いつの間にか、彼女は僕を見ていた。僕の、内側も見通すように。
 ミルクポットをテーブルに置いて、角砂糖の包装を解いた。
「けどさ、それって、一番怖いのは、その『変わってしまった人』じゃない?」
 彼女は角砂糖を二つ落とし、スプーンでかき混ぜた。ミルクと砂糖が混ざって、綺麗なミルクティー色に変化した。
「この紅茶みたいに、さ」
 彼女はスプーンをあげて、ソーサーの淵に置いた。
「砂糖って、溶けたら見えないでしょう? それでも、確実に甘くなって変化してる。それみたいにさ、透明な、目に見えない何かが入ってきて、それに自分が染められて、他人に、もしくは他人に限りなく近い何かに代わっていたら、気付けないんじゃないかな」
 じわりと、なにか冷たいものが胃に広がった気がした。それはするりと脳まで冷やし、思考を凍結させる。そして、想像したくないことを想像させる。
「その人がその人っていう確証が持てないならさ、自分が自分であるっていう保証も、ないんじゃない?」
 その言葉がとどめになった。僕は思ってしまった。自分もともとこういう自分だったのかどうか。
 視界が、暗くなる。
 考えるのが、嫌になった。

 気がついたら、自室にいた。あの後、どう帰ってきたのか覚えていない。手元には、何故かウサギのキーホルダーマスコットがあった。
 時計を見ずとも、もう夜になっていることが外の様子でわかった。あれから何時間が立ったのか。まるで、時間が消えたようだ。
 ふと携帯を見ると、彼女からメールが入っていた。見ると、僕が持っているぬいぐるみの色違いをもった彼女の写真が添付されている。
「ありがとう!お揃い嬉しいよ。大切にするね」
 こんなもの、送った覚えはない。買った覚えもない。
 それでも、事実として、彼女からのメールがある。
 手に力が入らない。マスコットが、落ちて床を少し跳ねた。拾おうとする気持ちもわかない。
 ミルクのような目に見える異質なものではなく、彼女の言う通り、砂糖のような透明なものに侵されていたとしたら。そして、砂糖が溶け切る前の紅茶が僕だとしたら。
 頭痛がする。まるで、頭を割ってなにかが出てこようとするかのように。そういえば、頭痛のあとは、いつも意識を失っている。もしかして、そのタイミングで、僕が誰かに変わっていたとしたら。そして、それに乗っ取られようとしているとしたら?
 くらり、目の前が暗くなる。体が後ろに引っ張られる。
 その時、なにかが僕の意識を後ろにおいやる、手のようなものを感じた。
 そして気付いたのだ。遅かったと。悔やむ暇すら、僕にはなかったのだと。


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