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kouさん

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フォールティア

12/07/25 コンテスト(テーマ):第十回 時空モノガタリ文学賞【 自転車 】 コメント:0件 kou 閲覧数:2577

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さあ、鐘が鳴る、鐘が鳴る。ツールドフランス第21ステージ、パリ・シャンゼリゼも残り一周」実況が興奮し、「笠原、笠原来い。抜け」と解説者が解説を放棄し私情を挟んだ。
「先頭集団に日本人の笠原!笠原が所属するチーム名は『フォールティア』ラテン語で勇気<Gース笠原はレース前、記者団から低迷するチームに秘策はありますか?と問われ、大丈夫ですよ。勇気って連鎖しますから。それに勇気っていい言葉ですよね≠ニ笑顔で答え、まさにその笑顔が最も美しい通りとされるパリ・シャンゼリゼで二倍に輝くのか。このまま笠原が先頭でゴールを切りますと、日本人初の総合優勝、歴史的快挙となります。どうですか二宮さん!」
 実況が解説に話を振るが、「そのまま、そのまま、笠原そのまま」と己の世界に没頭し、声がしゃがれていた。
「トンネルを抜ける、笠原の青と黒が交互にデザインされたロードバイクが見えたぁ、トンネルを抜けた先はリボリ通り、ジャンヌダルクの黄金像を見るのはこれが最後!おっとぉ!?ここで先頭集団にいたアメリカのランドルフがパンクッッッ、日本人の笠原と前回王者ドイツのガリッシュの一騎打ち!!!さあ、フラムルージュのアーチをくぐり残り1キロ!完全に両者並んだ。笠原、ガリッシュ、沿道から大歓声が沸き起こる。外からガリッシュ、内から笠原、最後のスプリント、笠原、ガリッシュ、どちらだ、どちらだ、どちらだ、そのまま行くのか、まさに大・激・戦のゴーーール!」

 午前中からひっきりなしに電話が鳴り、自転車専門店『ブルーブラック』の秋生は疲れていた。父の跡を継ぎ祖父から数えて三代目になるが、実はそこまでやる気はない。跡を継いだのも、単純に暇≠セと思ったからだ。こんな状態になるなら跡を継がなければよかった、と彼は後悔する。
 電話の応酬も一段落し、昼食を取ろうと居間に上がった。そこにはテレビを観ている父がいた。
「オヤジ!!!テレビ観てたなら、店の電話出てくれよな!」
 秋生は強めの口調で言った。
「今日は注文多いだろう、なにせ笠原が総合優勝したからな」
 父がテレビを指差した。
 そこには、『大激戦の末、日本人笠原ツールドフランス総合優勝!」とテロップが出ていた。秋生もそのレース大会なら聞いたことがある。ロードレーサー憧れの地フランスで、約三週間、三千キロを走る、最も過酷で歴史ある大会。
「オヤジ、笠原ってカッコいいな」
 画面越しに笠原の甘いマスクがアップで映し出された。さぞ、女性ファンが多いだろうと、秋生は思った。
「女性客からの電話が多かっただろう?」父が画面を見つめながら秋生に訊き、「たしかに」と答えた。
「まあ、あいつならやると思ったよ」
「なんでオヤジが笠原のことを知ってるような口調で、さらには上から目線なんだよ」
「お前は本当に何もわかってないな。小さい出来事が大きい結果を生むんだ」
 父は力強く断言した。
 ☆
 小学校三年の笠原は学校に行くのが嫌だった。ひ弱な身体、引っ込み思案な性格が災いしてかクラスの一部にいじめられた。ノートは隠され、ランドセルにはイタズラされた。次第にエスカレートしていき、ある日学校の帰り道にいじめっ子達に囲まれ、笠原は傷を負った。
 痛い、痛い、この声が誰かに届いて欲しいと願いながら笠原は声を振り絞った。
「お前ら、何してんだ」ドスの効いた声が辺りに響き、いじめっ子達が立ち去った。
「お前、大丈夫か!ケガしてんじゃねえか、なんでお前やり返さない」男が言った。
 笠原が何も言わないと、「まあ、やり返さない方が美徳でもあるがな。お前には勇気がある。まだその勇気がうまく周りに伝わってないようだな。大丈夫だよ。勇気は連鎖するから。いずれお前の勇気に誰もが惚れ込むよ」
 そう言って男は絆創膏らしきものを笠原の頬に貼付けた。「なにこれ?」笠原は頬に触れ、「パンク修理のパッチだ。絆創膏より効き目がいいぞ!」
 男が自転車に跨がった。それは今まで笠原が見たことのない自転車だった。青と黒の色合いが交互にデザインされ、カゴがなかった。
「その自転車!」笠原は男が跨がった自転車を指差し、「ああ、興味あるのか?競技用なんだが、何年後かに必ずブームが来るから早めに世間に広めてんだよ」と男は笑みをこぼした。
「しかしお前、目がいいな。将来何かやりそうな目だ。名前は?」男がぶっきらぼうに言い、「笠原、笠原勇気です」と返答した。
「ふっ!やはり勇気は連鎖するよな」
 そう言って男は颯爽と立ち去った。
☆ 
「笠原選手にそんな過去が」
 インタビュアーが唾を呑み込むのが笠原に伝わった。
「では、その男の人がいなかったら今の笠原さんはなかったと?」
「間違いないですね。勇気の大切さ、なにより勇気って連鎖しますから」
 笠原は力強く断言した。


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