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坂井Kさん

今年(2014年)は思い付きと勢いだけで書いてきましたが、来年(2015年)は、状況設定をもう少し固めてから書こうかな、と思っています。スティーヴン・キングによると、「状況設定をシッカリとすれば、プロットは無用の長物」らしいですから。

性別 男性
将来の夢 夢というより目標として、来年(2015年)こそ長編小説を書き上げたい。
座右の銘 明日はきっと、いい日になる。

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ころころころころころころ、どーん!

15/05/18 コンテスト(テーマ):第八十二回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 坂井K 閲覧数:968

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 日が陰る。身体を傾け空を見る。湿った強めの風が吹く。カイは思わず溜め息を吐く。「何なんよ? 真っ昼間から溜め息吐いて」幼馴染のウミちゃんが、カイに身体を軽くぶつける。「風が強なって来たからな、そろそろ大風の時季や思うて」「もうそんな季節なんやね……早いねぇ」ウミちゃんも身体を傾け空を見た。

 一年にある五季のうち、最も厳しい大風の時季。この星中の風景を全く違ったものにする風。カイたちは転がらないように固まって、風の季節をやり過ごす。幸いここは湿地帯。食糧となる苔は豊富だ。カイたちの何十世代も前の先祖は、大風に乗り転がって来て、ここに定住することにした。元々は東の方にいたらしい。

 辺り一面湿地帯。カイたちの一族以外の者もいる。東から、西から、北から、南から、転がって来た人たちだ。彼らの多くは春、夏、秋、冬、四つの季節ここに留まり、大風の季節になると転がって、行きたい方へと動き出す。まだまだ風は弱いけど、旅人たちは少しずつ風の力で動き始める。長い長い旅を始める練習だ。

 ころころころころころころ、どーん! 少し離れた場所にいた、まだ年若いカップルが、カイの背中にぶつかった。「ごめんなさい」小柄な身体の男性が、いかにも申し訳なさそうに、小さな声を絞り出す。「久し振りに転がったから、思い通りに行かなくて……」「ええよええよ、気にせんで、僕らの方が硬いんやから」

 カイたち「転がらない石族」は、彼ら「転がる石族」よりも、総じて身体が硬くて重い。強い風でも容易には動かないよう進化したのだ。「君らはどっちの方から来たん? ほんでどっちに行くつもり?」「僕らの生まれは西の方、そんで東に向かってる」「何で東に行きたいの?」傾けた身体を戻してウミちゃんが聞く。

「ここからもっと東に行くと、たくさんの水が溜まってる『海』とかいうのがあるんやろ? 僕はそいつを見てみたいんや」「『ウミ』やって?」「うん、そうやけど、どうかしたん?」「奇遇やねぇ、こいつの名前がウミなんや」カイはウミちゃんを軽く突っつく。「へぇ、そうなん。やっぱり海から名付けられたん?」

 ウミちゃんは身体を傾け下を向く。「そう。お祖母ちゃんから聞いたんやけど、ウチらの先祖が住んでいたのは東の果てで、海に面した土地やってんて。ウチら一族は代々な、先祖の住んでいた土地に関する名前を付けるんや。ちなみにこいつの名前はカイ。同じく海の意味がある」ウミちゃんもカイの身体を突っついた。

「僕はリウ。今年で二百歳になる。名前の由来は知らへんわ。名付けてくれたお祖父ちゃん、聞く前に亡くなってしもたから」リウは隣の一回り大きな女性の方を向く。「この子はユウ。同じく今年で二百歳。名前の由来は知ってるの?」「うん。けどな、大した意味は無いんやて。何となく、響きが良いからだけやって」

「君たちは、旅をしたくはならへんの?」リウが無邪気にカイに尋ねる。「僕らの先祖は長くて辛い旅をして、ここまで辿り着いたんや。この場所は生きて行くのに快適で、何の不満も無い場所や。ここから旅立つ理由は無い」「そうやろか?」リウが疑問を投げ掛ける。「旅の理由は快適な場所を探すためだけやろか?」

「他にどんな理由があって、旅をしようと思うんや?」「何やろう。上手くは言われへんけどな、違う場所、行ってみたくはならへんの?」「快適なこの場所捨てる気にはならへん」「旅したら、色んな人に会えるでぇ。色んな話が聞けるでぇ」「ここにおっても旅人が次から次にやって来て、色んな話を聞かせてくれる」

「お祖父ちゃんはよう言うてたで『見ると聞くでは全然ちゃう、出来るんやったら自分で見んと』って。君らは僕らより重いから動くの大変かも知れん。けど大風の季節には本当に強い風も吹く。そのときやったら、苦労せず転がることも出来るんちゃう? そうや今、転がる練習してみぃへん? 一緒に海を見に行こや」

「大きなお世話や。ほっといて」カイは思わず声を荒げた。「僕らには僕らの価値観がある。君らの価値観を押し付けんといて。先祖代々僕らはここで、風雨を耐え忍んで来た。ここら一帯の苔やって、僕らが世話して増えたんや。大風来ても踏ん張って、動かず同じ場所にいて、苔の世話して子孫を残す。それが僕らや」

「なあウミちゃん。そうやんなあ?」カイは同意を求めたが、傾けた身体を戻したウミちゃんは、カイの目を見てこう言った。「ウチは行きたい。海を見に」ウミちゃんの目は輝いていて、カイの目は、その眩しさを直視できない。声も出ない。「行きたかったら、行って来い」――10秒後、ようやくカイの口が動いた。

 ひと月後、西から強い風が吹き、リウ、ユウ、ウミの三人が、海を目指して動き出す。カイは彼らを見送らず、背中を向けて立っていた。


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