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タックさん

すべての人に、少しでも近づけるように。

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番える君たちに、この水を。

15/05/18 コンテスト(テーマ):第八十二回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:2件 タック 閲覧数:942

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 海に、黄金水を垂れ流した。
 
 太ももの付け根が柔らかく温まり、半身を冷やす水温との差異に、思わず母に抱かれたような、無抵抗の温もりを感じた。頬が、絶え間なく緩んだ。周囲が閑散としていることが、自然との多大なる調和を思わせ、精神を豊潤に、好ましくした。黄金水は海水パンツを経て、海へと還っていった。生命のスープに、また、新たな栄養素が加えられた。生態系保持への、一助となるやもしれない。餌の過少に泣く生命の助けと、この行動は、なるやもしれない。その発想が生まれた。そうなれば、嬉しい、と黄金水を垂れ流せば尿管も綺麗になり、体は健康を保つ。清潔で、あり続ける。誰かへの優しさは、自分にも必ず、帰ってくる。そうした好循環に他ならない僕の様態は清廉であると青空の中、清々しく考え、黄金水を流す自身は、紳士だった。夏の海は空に負けじと深く青く、滋味を抱き、己の体を四方から漏れなく、包み込んでいた。
 
 カモメが鳴き、入道雲が空を鮮やかに覆い、水平線はどこまでも遠く、世界の広大さを、同時に自らの生きる意味を、深く感じさせている。地球は、素晴らしく美しく、黄金水は、どこまでも温かく、俺はどこまでも、青く澄み切った気持ちでいた。我は、人、星に生き、体内濾過を成し、黄金を放出す、真なるヒト。世界は、ひどく自由だった。黄金水はどこまでも、止まらぬままだった。塩辛い海の味が、少しだけ身に染みる。人も魚も亀もアシカもプランクトンも、全てが懸命に生きている、イッツアビューティフルワールド、黄金水のように、憎らしいほど慈悲のある世界に私は生まれ、生を謳歌していた。黄金水のように、日の光に輝き、日々を過不足なく過ごしている、その感謝に、吾輩は黄金水を、一層と垂れ流すばかりだった。

 ふと、考えた。

 この黄金水は量こそ小なるものの確かに水分には違いなく、ならば海水との混淆も容易なことに違いなく、今、この瞬間から、小生の黄金水は海水となり、世界中の海へと流れていく。一部と化すのだ。

 で、あるならば、どこかの透明感溢れる海水浴場で欲情しているカップルにも。愛し合い、海水の冷たさを互いの体温で補おうと試みる、一組の男女にも、この黄金水は、届く可能性があるのだろうか。この黄金水が、愛の交感を果たす二人の体にいやらしく第三者として付着し、愛を後押しする、そんな可能性も、あるのだろうか。あるのだろうか。あるの、だろうか。あるの、だろうな。……きっと、そうに違いないのだろう。…………。

 
――地球よ、いつまでも、平和であれ。

――人類よ、いつまでも、幸福であれ。


 黄金水は枯渇の様子すらなく、海と半身をひたすらに温もらせる。
 浮遊する精神にも幸福感にも、果ては、見えることがないように思った。


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このストーリーに関するコメント

15/05/25 光石七

拝読しました。
海自体がいろんなものが混じった水ですからね。突き詰めすぎると海で泳げなくなると思います(苦笑)
主人公の妄想に若干嫉妬が混在していることを感じますが(笑)、ええ、平和と幸福が続きますように。
面白かったです。

15/06/01 タック

光石七さん、コメントありがとうございます。

確かに、よくよく考えてみると……てな感じの水ですよね、海って。ものすごい数のごみも流れ着きますし、当然、海中でもよおした人が……なんてこともあるでしょう。考えるときりがないですね。気にしても、しょうがないことですね。

「海の中でお○っこしたら気持ちいいのかな」と思い、作った作品でした。面白いと感じていただけたなら、恐悦至極にございます。ありがとうございます。また機会がありましたら、ご一読よろしくお願いします!

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