1. トップページ
  2. 相談屋ケイジロウ 新宿バッハ 3

メラさん

 主に純文学系を書いていますが、特にジャンルにこだわっているわけではありません。気ままに、マイペースに小説を書いてます。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 知足。悠々自適。日々新た

投稿済みの作品

1

相談屋ケイジロウ 新宿バッハ 3

15/05/18 コンテスト(テーマ):第五十六回 【 自由投稿スペース 】 コメント:2件 メラ 閲覧数:1025

この作品を評価する

 *全開までのあらすじは、どうぞ『メラ』のページからご覧ください。
 

 3

 それから数日後。サトウが死んだという噂が巷で飛び交った。サトウと昔から親しかったケイジロウに、何人からもサトウについて尋ねられた。
 元々裏の世界を生きてきたサトウ。本名すら知らないのだ。実際の彼の行方は分からなかった。概ねの多くの意見としては、爆発でバラバラになり、遺体も見つからないのだろうという事だった。
 それから数週間後、新宿の暴力団の勢力図が激変した。サトウの傘下に収まっていた暴力団は、それぞれまた独立し、小競り合いを繰り返した。テレビ・ニュースでも取り上げられるほど、新宿における騒動は大きくなった。発砲事件が三件もあり、内一件は一般人にも死傷者が出た。今までサトウが保ってきた均衡が崩れた証拠だ。新宿は常に武装した警官隊がうろつき、一時期は騒然となった。
 そして、当然のように様々な組が勢力争いをして体力を落とすと、そこを紅華会が少しずつ勢力を伸ばしていった。ケイジロウと懇意であった林のグループは、そのまま関西に腰をすえることになり、ケイジロウとは連絡が途絶えた。
 サトウは死んだ。間違いない。結果が物語っている。ビルを出てから数分も経っていない。あの爆破に巻き込まれたのだ。助かるはずもない。それにもし生きていたら、サトウはすかさず報復の反撃に出たはずだ。
 ケイジロウも、サトウの爆死にはかかわっている一人なのだが、紅華会はもちろん、他の新宿をシマにする暴力団、そして警察からも、何一つ何か責任や疑惑を問われることはなかった。ケイジロウ自身は、サトウがいなくなった今、完全に自分は堅気の人間になったのだと思った。
 相談屋という、探偵まがいの仕事を初めからやろうと考えていたわけではなかった。ただ、ケイジロウの若い頃の武勇伝を知る一部の若者から、ちょっとした頼まれ事を引き受け、それを解決し謝礼をもらううちに、それが本業になった。今では猫探しから、犬の散歩のような他愛もない仕事も引き受ける。昔と比べて街が平和になった証拠ともいえるのだが、助手の麦丘依子がなんでも仕事を引き受けてしまうせいで、ケイジロウの昔を知るものは少なく、今や街の便利屋と化していた。
 ケイジロウ自身も、ヤクザが絡むような面倒ごとや、まして血なまぐさい事件に巻き込まれることはここ数年皆無だった。しかし、歌舞伎町で事務所を構えている以上、その手の噂は自然と耳に入る。
 暴力団の勢力図に、ここ数ヶ月異変が起きている。まず、紅華会が大きく勢力を落としている。関西を拠点とする紅華会だが、関西で大きな動きがあったという。幹部が数名、ここ一年で変死を遂げ、組織が入れ替わったという話は聞いた。
 そして、その関西を拠点とする、新興組織「蒼天」が歌舞伎町に進出し、いささか強引なやり方で、シマを荒らしているという。そもそもこの「蒼天」が、関西で大きな勢力を手に入れ、紅華会が弱小かしつつあるのだ。
 ケイジロウは自分にはもはや関係の無いことだと、あまり情報を集めなかった。麦丘は警戒したほうがよいと忠告したが、犬の散歩までやらせる女が何を言うかと、ケイジロウはろくに話も聞かなかった。ただ、蒼天のやり口が、まるでサトウのようだと思った。やけに経済観念の発達した暴力団で、その資金は豊富だった。そして、蒼天は飲食店も多く経営していて、新宿にもそのレストランがある。いささか高級なレストランだが、ケイジロウは何も知らず、助手の麦丘依子と食事をしたことある。
 予約が必要な高級店だが、某政治家夫人の、ホストクラブでの恥辱写真の脅迫事件を解決した際の多額の謝礼の他に、このレストランのVIP券が手に入ったのだ。十万近くするディナーコースの食事券だった。
 そこではずっとクラシック音楽の生演奏が流れていた。そして、チェンバロやオルガンを使った、バッハの楽曲が多く、何より店の内装が、ケイジロウが店に足を踏み入れた際にはっとさせられるほど、最後にサトウと会ったときの、彼の店の内装と似通っていたのだ。

「で、もう一度今回の依頼人のことを詳しく教えてくれ」
 ケイジロウは車に戻り、麦丘に電話を掛けた。スーツに着いた汚れを手で払いながら。
「東京都副都知事『松平忠信』のお嬢さんよ。今年で十九歳。交際相手は今の所なし。なんせ父親の松平が、籠の中に入れて育てているようなものだから。
「松平忠信。戦国武将みてえな名前だが、ずいぶんきな臭いヤツなんだろ?」
「五年前までは参議院議員よ。贈賄疑惑で失職したニュースは知っているでしょ?」
「いや、知らん」
「もう、探偵なんだからちゃんとニュースくらい見てよ」
「まあいいから。んで、その松平の殿のもつ会社の一部上場のパーティー、だったんだよな?」
「ええ、そう。そして最近娘の身辺に男の臭いがあるっているから、その調査もかねて、パーティでは護衛よ。いわゆる、目に入れても痛くない一人娘に、変な虫が寄り付かないようにってね」
「んで、オレはパーティーに行く前、一張羅を着て出かけたってのに、暴漢に襲われた、ってわけだ。今回は忠告だってね」
「言ったでしょ?松平は現知事の『神岡潤一郎』を裏で操っている陰の支配者だって。そして、暴力団ともつながっているって。だから念のため護身用のスプレーとか持たせたのに」
「松平と、最近新宿を賑わせている蒼天とのつながりは?」
「さあ、調べたかぎりではなにも・・・」
「おっと、そろそろ時間だ。京王プラザに行く時間だ」
「調べておく。メールするわ」
 麦丘はそう言って電話を切ろうとした。
「ちょっと待て。蒼天なんだが、いったいどういう組織なんだ?」
「アナタもスマホ持ってんでしょ?調べてみてよ」
「いや、もっと裏の情報だよ」
「じゃあそれも探っておく。とにかく」麦丘は一旦間を置いた。「気をつけてね。新宿バッハ。なんか嫌な予感がする」
「おいおい、元占い師のお前に言われたらシャレにならねえよ」
 ケイジロウはおどけて言ったのだが、
「ええ、シャレじゃないわ。じゃあね」
 電話が切れる。

 ケイジロウは何度もショー・ウィンドゥでスーツの汚れを気にしながら、新宿西口までの道を歩いた。本当は中古レコードショップに寄ってからのんびり行く予定だったのだが、完全に予定がずれこんだ。
 歩いている間、さっそく麦丘からメールが入った。
『とりあえず今分かったこと。松平副知事のバックには紅華会が付いてる。そしてなんと『蒼天』の幹部と都知事の神岡潤一郎がひそかにコンタクトしているという情報があるわ。さあ、面白くなってきたわね。また分かったことがあったらメールするわ』
 さっきまで嫌な予感とか言っておいて、今度は面白くなってきたと言う。麦丘の性格にはほとほと付き合いきれない、ケイジロウはため息交じりでスマート・フォンをポケットにしまう。
 しかし、都知事の神岡潤一郎と副知事である松平忠信の対立、そして『紅華』と『蒼天』が裏で動いているのは分かった。今のところカードの多さでは『蒼天』の方に分があるようだ。紅華会は今力を失いつつある。
 ひょっとして、今回のボディーガード。ただの籠入り娘の護衛ってわけじゃなさそうだ。ケイジロウはそう思いながら、京王プラザのロビーに到着した。パーティまではあと二時間。これから松平の事務所の人間と打ち合わせだ。

 4

「本日はご足労いただいて、ありがとうございます。
 いきなり松平忠信本人が出迎えに来るとは思いもよらず、ケイジロウは驚いた。
 松平はにこやか顔で、恰幅のいい腹を揺らしながら笑う。しかし、若い頃から様々な悪党をこの目で見てきたケイジロウから見ても、松平は決して人の本心を見せるタイプではないし、平気で人を裏切ることができる人間だと確信した。
 もう一つ驚いたのは、自分の他にも二名のボディーガードが雇われていた。何も警戒ではない。松平は自身にもSPを二名、常時張り付かせている。恐らく、目に見えないだけで実際はもっと警護員がいるのかもしれない。
「では松平氏のご令嬢であらせます、松平響子の護衛について、詳細をお話します」
 松平の隣にいた、眼鏡を掛けた若い男が話し始めた。
「今日は護衛です。実は『蒼天』という暴力団組織から、松平氏に脅迫状が寄せられています。都政、そしてプライベートにかかわることなので詳しくは申せませんが、松平氏に『大切なものを失うことになる』と、脅迫しております。そして、家族想いの松平氏は、奥様、そして特にご令嬢の響子様の身を気遣っておられます」
「やつらは暴力団だ」松平が表情を変えて喋る。眉間に皺を寄せると、一気ににこやかな中年から、ヤクザの幹部のような迫力を見せる。「手口は知っている。卑劣なまねをする連中だ。まして響子はまだ十九だ。何が何でも守らねばならん」
 卑劣な手口。恐らくは松平自身がそうやってきたから良く分かるのだろう。そして、それは半分自業自得だと、ケイジロウは腹の中で思う。この世はどうやっても、やったことにはそれ相応のバックがある。悪意を施せば、悪意が盛られるものだ。ケイジロウが三十七年間生きてきて、身にしみて分かったことの一つだ。
 ケイジロウは、終始響子の傍らにいるという役となった。パーティーは表向きは明るく華やかな催しなので、一見優男で、見かけもスマートなケイジロウが選ばれたのだろう、と、ケイジロウ自身も思っていたのだが、打ち合わせの後、別個に松平から声を掛けられた。
「君が、新宿の相談屋、本間ケイジロウさんだね」
「はい。松平副知事には、私からも大事なお話があります。お話できて良かった」
 ケイジロウは、つい先ほど自分の身におきたことを正直に話した。
 松平は険しい顔つきで、目を閉じて話を聞き終えると、
「新宿、バッハ・・・。何者だ・・・」
 と呟いた。
「何か、心当たりは?」
 そう尋ねるが、
「いや、そんなふざけた名前。意味がわからん・・・」
 うそをついている顔ではないとケイジロウは思い、
「まあ、用心に越したことが無いことは、副知事もよく分かっておられると思います」
 と言った。
「ははは・・・」
 あいまいに笑うと、松平はまた目つきを変えて、耳元でささやくように話した。
「ところで君の事も調べさせてもらった。相当な腕っこきだそうだね。そして、過去には紅華会の幹部や、あの『新宿ロジック』の代表と親友だったとか?」
 新宿ロジックとは、かつてサトウが経営していた、一応の社名だ。もちろん、様々な会社があったので、サトウの代表的な会社の一つだが。
「今でも、そういったお付き合いがあるのかい?」
 松平は睨み付けるようにして、ケイジロウに訊いた。
「もう十分お調べになっていると思いますが、今はただの街の相談屋です。最近は犬の散歩から宝石探しまでやる便利屋です。そういった世界からはすっかり足を洗いました。それに、サトウももういませんし」
 ケイジロウがそう言うと、松平は少し考え込んだ。
「どうしました?」
「いや、サトウなんだが、本当に死んだのか?最後に彼に会ったのは君だが、遺体を見たのか?」
 よく調べ上げているなと、感心しながら答える。
「いえ、ビルにはいなかったので。直接確認はしていません。でも、あの派手な爆破の後では助からないでしょう?それにあの後、新宿ロジックはもちろん、サトウの運営していた企業は次々に倒産したり、買収されたり。今では名前を変えて外資の持ち物です。サトウが生きていたらそんな事はありえない」
「ふむ・・・」
 松平は何か言葉を飲み込むようにして、顎に手を当ててうなった。だがそこで
「副知事、お話よろしいでしょうか?」
 松平の秘書がパーティーの段取りについて話があるようだった。
「おお、そうだそうだ。じゃあ、相談屋さん。今日はボディー・ガードも含めて、色々注意して見て頂きたい。よろしく頼むよ」
「はい、全力を尽くします」
 やれやれ、とんだ大事になってきたぞと、松平が行った後、ケイジロウはため息をついた。
 今日の計画表を眺めながら、喫煙所でタバコを吸っていると、屈強そうな男に声を掛けられた。今日の警護役の一人だ。
「ご無沙汰してます」
 と、その男は言った。低い声で、首に大きな傷跡があった。
「申し訳ない。最近記憶力が鈍くて・・・。どちらでお会いしましたっけ?」
 本当に分からなかった。ケイジロウは人の顔は比較的すぐ覚える自信はあるのだが。
「いえ、もう十五、六年前の話です。チームで、『新宿バッド』で、ケイジロウさんには大変お世話になりました。まさか、こんなと所でお目にかかれるなんて・・・」
「ああ、あの頃の・・・」
 年に数回、未だにこういう事がある。だがケイジロウは昔の話はあくまでも昔の話として、あまり取り合わないのが常だった。
「まあ、今は堅気よ?オレ。便利屋だよ。そんなにかしこまらないで、まあ楽しく仕事しようや」
 そう言ったのだが、
「いえ。自分は、ケイジロウさんがいなければ、ここにいない人間なんです」
「え?」
 おいおい、ずいぶん深刻なヤツだな。
「ちょっと、自分の話をしていいっすか?」
 いいとも悪いとも言う前に、男は喋りだした。風貌に似合わず、お喋りな男なのか、ケイジロウに会えて興奮しているのか。
「あの頃、自分は荒んでました。高校を辞めて、薬にはまって、ぼろぼろでした。腕っ節は強いんで、暴れたら手が付けられなくて、次に問題を起こしたら、少年院に入る所でした。でも、ずっと一人ぼっちだったオレに、居場所を与えてくれたのが、新宿バッドの仲間達でした」
「おお、そうかそうか。あの頃のオレも人のお役に立ててたんだなぁ」
 そう言うと、
「自分だけじゃないっす。本当に、ケイジロウさんのおかげで、俺達はどんな形であれ、生きていこうって思えたんです。一度は牙を剥いたオレに、ケイジロウさんは『熱くなりてえんなら、オレに着いてこい』って言ってくれて。あの一言がなければ、自分はどこかであのまま野たれ死んでました」
 いやはや。ずいぶん格好つけたことを言ったもんだと、ケイジロウは思わず照れてしまった。
「あれ?ひょっとして君、渋谷のデカ・ピアスか?」
 ケイジロウはふと、目の前の屈強な男を見て思い出した。
「そうっす。渋谷の山田マサシです」
「おーおー、思い出した思い出した。いやー、全然違うもん、びっくりだよ。顔面ピアスだらけだったじゃん?」
「はい、あの頃は、なんだか意味も分からなくて」
 体がでかくてピアスだらけだったから、ケイジロウは彼をデカピアスとあだ名していた。
 確かに、一度ぶちのめした事ある。渋谷でチームの仲間が次々にこいつに暗がりで襲われて、入院するほどひどい目にあった。そこでケイジロウが渋谷に行き、見事返り討ちにしたのだ。
「まあ、今日はよろしく。こういう仕事は君の方が先輩だ。そもそも、何でオレがこんな依頼受けたのかよく分からんのだよ」
「いえ、ケイジロウさんなら、どんな仕事でも・・・」
 この強面であんまり慕われても居心地いいものではない、ケイジロウはもう一本タバコに火をつけ、書類に熱心に目を通すふりをした。
「では、自分の持ち場は会場入り口付近なんで・・・」
 そう言って山田マサシは頭を下げた。

           続く 


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/05/19 泡沫恋歌

メラさん、拝読しました。

綿密に描かれたキャラクターたちが魅力的です。

ラスボス? 「新宿バッハ」なる、謎の人物に近づきつつありますね。

楽しみに読ませて貰っています。

15/05/20 メラ

恋歌さん、コメントありがとうございます。
思いのほか長編になってしまい、自分でもびっくりです。ラスボス、早く出会いたい。

ログイン