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デーオさん

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O投手のこと

12/07/25 コンテスト(テーマ):第十一回 時空モノガタリ文学賞【 高校野球 】 コメント:4件 デーオ 閲覧数:1618

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その年、O投手の大きく曲り落ちるカーブを武器に無名に近い県立高が甲子園に登場した。私の通っている高校の隣町の高校だった。私の高校は県北大会どまりだったが、O投手を擁する県立H高校は、順調に星を重ね、ついに甲子園出場を決めたのだ。もちろん初出場だった。O投手に引っ張られるように、H高校打線も頑張ったのは他でもない。新聞に大きくとりあげられるO投手は堂々と大きく見えた。

甲子園での結果は、O投手が一人で県予選を投げ抜いた疲れか、自慢のカーブのコントロールが付かずに第一回戦で敗退した。しかし、その戦い振りは観ている者達に感動を与えて、全国紙のスポーツ欄にも無名校の割には大きく紹介された。

そして、その年の秋、プロ野球のドラフト会議でO投手は1位指名を受けた。地元の新聞の一面に載った記事に、いずれテレビで観ることができるだろうと県民は大きな希望を抱いた筈だ。数日後、指名球団社長の来校と、また新聞を賑わすことになった。

ある冬の日に、私は自転車で町で買い物をした帰りに、前方からランニングしている若者の姿を見て、あ、もしかしたらO投手ではないかと思った。次第に近付いてくる彼はやはりO投手だった。プロ野球入団が決まって、毎日走っているのだろう。しかし、私は彼がそれほど大きくないのに失望に近い思いを抱いてしまった。少し苦しげに走っている姿が余計にそう思わせたのかもしれない。

プロ野球の2軍情報は、なかなか伝わってこない。O投手のことは新聞に載ることはなかった。友だちがどこからか仕入れてきた情報は、O投手のあまりの基礎体力の無さのためにもっぱら身体を鍛えているということだった。あの日、私が感じたように彼は大きくもなく、がっしりした体格でもなかった。

     ◇      ◇      ◇

以下 転載記事
「高校二年が最高だった。スピードもあった。しかし、その年、ヒジをこわし、ねんざまでしたため、その冬はピッチングをまるでやらなかった。下半身が全然弱かった。プロにはいっても、それが大きくひびいた。技術的にも、精神的にも小学校へはいった気持ちだった。だから・・・」と、プロの水の苦さをつくづく味わったそうだ。しかし、下半身、腹筋、握力とすべてに肉体的な弱さを、毎日、深夜に及ぶサーキット・トレーニングできたえたという。そして、ピッチングも「ようやくわかってきた」という段階だ。「自分の選んだ道だけに、苦しいことは承知だ。とにかくマイペースでいくだけです。ただ必死です」とスカウトのいう「何年かきたえれば伸びる左投手だ。三年先を承知で」の三年先に向かって、地道な努力を続けている。

     ◇      ◇      ◇

それから数年経って、O投手が肩を壊して野球を断念したということを知った。

彼は高校3年の夏の充実したであろう毎日。全国的に知られた自分の名前に対する誇りと、プロでやっていけるのだろうかという不安のうちに過ごしたのだと思う入団までの日々を、今は思い出すことは無いのだろうか。


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このストーリーに関するコメント

12/07/27 ゆうか♪

仮にプロの世界に入ることが出来たとしても、そこで名を上げ本当の成功人の一人となる人は、本当に極僅かなのではないでしょうか?
これは野球の世界に限らず、何の世界でもそうなのでしょうが、そうした中で成功できなかった多くの人は、その後の人生で何を糧とし、何を励みとして生きるのか・・それは、全てその人の考え方ひとつなのでしょうね。努力した誰もが成功できないということは、残念なことですが、だからこそ、成功するということが素晴らしいことでもあるのでしょうね。そんなことを考えさせられました。

12/07/27 汐月夜空

この物語のように、プロの世界に足を踏み入れても表に出ることなく消えていく、という人はたくさんいると思います。
そういう人たちが、どのように生きているのか、ということについて自然と考えさせられるお話でした。
華々しい活躍をしている人は特別に思えるけれど、案外会ってみるとそうでもないということも言えるかもしれませんね。
何にしても、最初からO選手のことを知っている『私』だからこそ、最後まで情報を追えたのだろうな、と思うと、世間でのO選手の評価は寂しいものがあります。

12/07/27 デーオ

ゆうか♪さん

すばらしい。その通りだね。成功しても引退年齢が早いし、現場にコーチなどで残れるのもわずか。
本当は引退したその後の人生を書ければいいのだけれど、情報がないからねえ。創作しましょうか(^-^)

12/07/27 デーオ

汐月さん

そうですね。隣町で、高校時代から知っているだけに残念な結果でした。ましてドラフト1位。開き直って知名度を活かして営業職という人もいるみたいです。

昔は本当に情報不足でしたが、今は2軍選手の動向まですぐにわかる時代になりました。


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