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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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アンチゴッド、アンチヒーロー

15/05/17 コンテスト(テーマ):第八十三回 時空モノガタリ文学賞 【 時間ぎれ 】 コメント:1件 浅月庵 閲覧数:1000

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 バイト先に神さんって先輩がいて、その人に話の流れで過去のことを喋ったら苦笑。
「今さら悩むなよ少年!」
「この世に神もヒーローもいないんだって中学生ながらに悟りましたよ」
 神さんは煙草の煙を吐き出し、僕の目を見る。
「後悔してんのか」「えぇ、勿論」「もし過去に戻れたらどうする?」「あのクソ野郎たちに立ち向かいますよ!」
 神さんは灰皿に煙草を押し付け、一言。
「過去に行くぞ少年!」神さんが指をパチンと鳴らすと、一瞬で休憩室が屋外へ変わる。なにこれ、嘘だろ。
「神さん、これって!」「時間ないから早くしろよ少年」
 公園を取り囲むように植えられた木の陰から、懐かしい光景が飛び込む。
 僕は六年前、この公園で他校の中学生に絡まれ、土下座して、泣きながら婆ちゃんの退院祝いを買うための二千円を渡した。

「てかこれ、大人のまま過去に戻ってますよね」「ん?」「今の意識のまま、過去の自分に戻りたかったんですけど」「あー! そっち系? でもほら、もう時間ないから!」適当だなーなんて思いながら、僕は”過去の僕”を助けることに決める。そうだよ、ここで僕が、あの日の自分のヒーローになればいいんだ。そうすれば過去の僕は「ヒーローはいる! 困った時は神頼みだ!」なんて世界に希望が持てるだろう。
「ちょっと僕行ってきます!」
「少年、後悔すんなよ」神さんは僕の背中を押し出す。

 ーー後悔? いや、待てよ。果たしてこれが、本当に僕自身を救うことに繋がるんだろうか。過去の僕からしたら、そんな他力本願に意味はあるんだろうか。

「神さん、僕の考えてることを過去の僕に言葉なしで伝えられるようにしてください!」「あのさー、俺のこと便利人間だと思ってない?」「できないんですか」「まぁ、できると思うけど」そう言って神さんが指を鳴らすと、僕と過去の僕が繋がる。
「六年後の僕から過去の僕に告ぐ!」「ちょっと待って、今取り込み中!」「知ってる。だから来たんだよ」「早くお金渡さないと、こいつらに殴られちゃうよ」「立ち向かえ僕!」「無茶言うなよ〜。未来の僕かなんだか知らないけど、怖すぎて足ガクガクなんだって」「今ここで退いたら、今の僕になっちゃうぞ」「そう言われても」「六年経った今でも僕は、今日のことを引き摺ってるんだぞ! そんなの情けないと思わないか」「そうは言ったって、未来の僕も今の僕も根本的には同じ人間だろ」「だからだよ!」「え?」「だから変わってほしいんだ! 今この一瞬だけ、勇気を出してほしい」「過去の僕に言うなんて、ある種の他力本願だろ」「僕も変わる!」「......」「六年経っても後悔してるんだよ! 男としてのプライドを曲げたことも。婆ちゃんに退院祝い買えなかったことも、未だに後悔してるんだよ! だから過去の僕にも頑張ってほしい! 今の僕もきっと!」

「悪い、時間だ」そう言って神さんが手を叩くと公園が休憩室へと戻る。
 今時珍しい鳩時計が夜中の十二時を知らせる。

「ふー」僕はなんだか疲れてしまって、パイプ椅子に深く腰をかける。
「それで、どうだったんだ?」
「え? なにがですか」
「なにがって、お前、なんのために過去行ったんだよ。あの日のこと思い出せ」神さんが僕の背中を叩く。

 そうだ、僕は僕を変えるために過去に行ったんだ。なんだか洗いざらい自分の思いを吐き出して勝手に満足してた。
 僕は頭を抱えて、あのカツアゲされた日のことを振り返る。
 僕はテーブルにある手鏡を引き寄せ、前髪をかき分けて上瞼を見る。
 そこには今までなかった古傷が小さく残されていた。

「喧嘩には負けちゃいましたけど、無事婆ちゃんに退院祝い買えたみたいです」
「......そうか、良かったな少年」神さんは満面の笑みを浮かべる。
 良かった、本当に。僕の思いは過去の僕に届いたようだ。

「それにしても一体どうなってるんですか、その漫画みたいな力」
「一日限り天からプレゼントされたんだよ」
「一日限りって」
「でも、もう日付跨いだからおしまい。ほら、なにも起こんないだろ?」神さんが何度指を鳴らしても、もう景色は変わらない。
「じゃあ、僕に使った力が最後ってこと?」
「そういうこと。つーか、最初で最後?」「......えぇっ!? じゃあ、それ以外は一切使わなかったんですか?」「うん。そんな急に言われてもにわかには信じられんしな。まさかあんな簡単に過去行ったりテレパシー使えるとは思わんかったけど、あはは!」
「あははじゃないですよ! 僕のくだらない悩みに使うなんて......」
「今さらぐちぐち言ったって仕方ないだろ。俺は後悔してないぞ少年!」
 ......色々とすごい人だな、本当に。
 
 休憩を終え、手を振って背を向ける先輩は、僕からしたら紛れもない神で、ヒーローで......。


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このストーリーに関するコメント

15/05/20 つつい つつ

能力に全く振り回されず、後悔もしない先輩がかっこ良くて、おもしろかったです。

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