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夏日 純希さん

名前は「なつのひ じゅんき」と読みます。誰かに届くなら、それはとても嬉しいことだから、何かを書こうと思います。 イメージ画像は豆 千代様に描いていただきました(私自身より数億倍、さわやかで、かっこよく仕上げていただきました。感謝感激) Twitter(https://twitter.com/NatsunohiJunki) 豆 千代様 HP:MAME CAGE(http://mamechiyo555.tumblr.com/?pagill )

性別 男性
将来の夢 みんなが好きなことをできる優しい世界を作ること。 でもまずは、自分の周りの人を幸せにすること。
座右の銘 良くも悪くも、世界は僕に興味がない。(人の目を気にし過ぎてるなってときに唱えると、一歩踏み出せる不思議な言葉)

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シュノーケアンバランリング

15/05/10 コンテスト(テーマ):第八十二回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:4件 夏日 純希 閲覧数:1040

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 薬指のリングを引き抜くと「どわりゃぁぁわっしゃいーー」と叫びながら、水平線の向こう側を目指して投げ込んだ。愁いで染め上げたような茜色の空を通って、銀色のリングは……わりと小さな放物線で、想像よりかなり手前に着水した。
 ぽちゃり。
 …。
 ……。
 ………。
 ざぶん。
 着水地点から黒いボールみたいなものが浮かび上がったかと思うと、それはまたすぐに沈んで消えた。「何あれ?」その正体を見極めようと、私は船着き場から身を乗り出した。だけど、もう何も見えない。諦めきれない私はしゃがみこんで水面をのぞき込んだ。
 バン、バン!
 両手を私の足元に勢い良く叩きつけ、水しぶきとともにそれは突然姿を現した。私は思わず尻餅をつく。
「こんなもんを海に投げ込んだのはあんたか?」
 それは黒いダイビングスーツに身を包み、シュノーケルをつけた、一見地球外生命体のような男だった。男の手には私が投げ捨てたリングがあった……と思った。
「それ、リングはリングでも、イカリングですよね? 間違えちゃイカんよ」
 私はそれがタコリングであることに言った後で気がついた。
「っぽぉ! イカリングが指輪とかタコス!」
 男はシュノーケルの空気口を吐き出して言った。
「タコスはただの料理! イカスが、イカの酢漬け!」
 あれ? 私は一体何の解説をしているのだろう。カモメたちが何かを馬鹿にしたように鳴いている……なんて、被害妄想、被害妄想♪
「とにかく、このリング返すから」
 男は片膝をつき、片手をダイビングスーツの胸に当て、リングを私に差し出した。シーン的には、スーツ(ダイビング)でリング(タコ)を差し出す、ロマンチック(シュノーケル)な夕暮れの海。
「それは受け取れません。過去と決別するために海に捨てたんですから」
「え、このリングをですか?」
「いや、違うよ? おかしいよね? 酒のツマミ捨てて何かと決別できそうな人間に見えますか? たんたらおかしいわ!」
 非常におかしいということを伝えようとしたら、なんだかリズムよく伝える羽目になった。”ちゃんちゃら“おかしいわ! あれ、これはこれでリズムがいい。私はなんだか気分がのってきた。
「どうしてリング」「なんでそんな格好」
「……」「……」
「どうし」「なんで」
「……ふふ」「……はは」
「ど」「な」
「……ど」「……な」
 このままではドナドナでも歌い出しかねないので、私はどうぞと笑顔と身振りをつけて、質問する権利を譲った。
「どうしてリングを投げ捨てたんですか?」
「言ったよね?」
「ほえ?」
「『過去と決別するために』ってさっき言ったよね。人の話聞いてなかったの?」
「……。でっ……ですよねぇ。そう言ってましたもん
「ねぇ」」
 二人で顔を見合わせてにっこり。気持ち的には少しイラッと。
「なんでそんな格好してるんですか?」
「海に潜るからに決まってるよ
「……」ねぇ」
 私はそんなことを尋ねたわけではないので、あえて無視をした。タイミングがずれてしまっただけかと勘違いした男が「せーの、ねぇ」ともう一度言うのも当然無視をした。
 私は気づいてしまっていた。わざわざ、私がリングを投げ捨てるのを阻止しようとする人間は一人しかいない。昨日別れた直也に決まっている。後悔してこんな回りくどいことをするなんて、全くもって白々しい。
「馬鹿なこと言ってないで、早くそれを取りなさい、直也!」
 がばっと下から上へと突き上げると、シュノーケルとゴーグルは宙を舞って、男の後ろにべちゃりと落下した。男の顔が夕空の下、あらわになる。
「俺……直也じゃないけど」
 完・全・別・人。むしろ元彼の直也よりイケメンだ。シュノーケルをした状態の方が、まだ直也に近いかもしれない。
「で……でっ、ですよねぇ。
 すいません、間違えました。じゃあ……なんで、私にリングを届けようとしてくれたんですか?」
 私は潮風で乱れた横髪を撫でつけながら言った。
「海に潜ってたら、遠目にかわいい娘がいるなぁ、って思ってさ。それで……」
 ずきゅん。傷心した心に暖かい言葉が染みる。
 獅子座のあなたは、今日新しい出会い、そう、恋の予感!
「それで、声をかけてみたんだけど、天然お笑い芸人さんみたいだったので、ノリノリで話してみたけど、収拾つかなくなってきて、どうしよっかなぁって今は困っていたり」
「で……でっ、deathよねぇ」
 私が丁寧にお辞儀をして別れを告げると、男は腰に手を当てて気だるそうに陸の方へ去って行った。私は仕方がないので右手に残ったタコリングを口へと運んだ。
「あ、なんだ。そうだったんだ。おかしいと思ってたんだ」
 一人つぶやいた。
 やっぱりこれはイカリングだった。そもそもタコリングなんてものは世の中に存在しないし。
 海って不思議、そう思った。


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このストーリーに関するコメント

15/05/13 滝沢朱音

夏日さん、久しぶりの掌編、楽しませていただきました♪
不思議な世界観だなー、タイトルもすごく不思議!
何かから開放されたようなはっちゃけ感がすごく出てるなあと思いました笑
それにしても、海って不思議deathねえ…笑

15/05/16 夏日 純希

滝沢さん

お忙しいのに笑編に目を通していただきありがとうございます。
なんか不思議なタイミングの悪い感じの人を描きたくなりました。
だから、一言一句すべて計算済みなんです。
決してはっちゃけてなんてないんだから(震え声)

まぁあれです。不思議でありがとうございます。

15/05/23 光石七

拝読しました。
計算された笑いを随所に感じましたが……そうか、これは笑編だったのか(笑) コメント欄を読んで納得しました。
面白すぎ、不思議すぎです。
楽しませていただきました。

15/05/27 夏日 純希

光石七さん

>計算された笑いを随所に感じました
恐ろしいことに、書き始めるまで何も計算しておりませんでした(*_*)
何も考えないと、なんて馬鹿なことを書くのだろうと自分でも恐ろしくなりました……。
でも、なんかはっちゃけたかったので、そのままいってしまいました(笑)

光石七さんのツボにはまれば、それだけで幸せな奴(作品)です。
有り難うございました。

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