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夏川さん

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無茶苦茶ダイエット

15/05/09 コンテスト(テーマ):第八十三回 時空モノガタリ文学賞 【 時間ぎれ 】 コメント:2件 夏川 閲覧数:1006

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 小林直美28歳。
 彼女は今とても浮かれていた。彼氏のケンジから大事な話があるとの連絡を受けたのだ。
 周りは次々と結婚し、両親にも急かされていた。そのタイミングで「大事な話」ともなれば期待するなという方が無理であろう。
 だから彼女は部屋を掃除し、クッキーとマフィンを焼きながらその帰りをまだかまだかと待っていた。

 しかし部屋に入ってきたケンジが口にしたのは、直美の期待に添うような言葉ではなかった。

「別れよう」

 直美は焼きたてクッキーをつまんだまま固まった。人間、突然予想もしないことを言われると物も言えなくなる。
 いつまでもなんのリアクションもない直美に痺れをきらしたのか、ケンジがその理由を語り始めた。

「ポッチャリしてるなとは思ってたけど、ここ最近の直美は酷すぎる。直美のことは好きだけどもう限界だ」

 そう、直美はやや、というかかなり恰幅の良い女性であった。
 もともと料理が好きであった彼女はケンジと付き合うようになってさらに料理の腕を磨き、その美味しすぎる食事のせいでどんどん体重を増やしてしまったのである。

「待って!」

 直美はクッキーを手に持ったままケンジにすがり付く。

「ごめんなさい、あなたの気持ちに気がつかなくて。痩せるから、お願い別れるなんて言わないで」

 ケンジはその言葉を待っていましたとでもいうように直美の手を取って微笑む。

「分かった。じゃあとりあえず1ヶ月で5キロ痩せてくれ」
「ご、ごきろ?」
「その言葉が本当なら、やってくれるよね?」

 直美は顔を引きつらせながら頷くしかなかった。




 それから27日後。

「なっ、なんでよ!」

 直美は体重計の前で絶望していた。まったく体重が減っていないのだ。

「ちゃんとバナナダイエットもウォーキングも、グラタンダイエットだってしたのに!」

 直美は毎朝バナナを一房平らげ、飽きるとヨーグルトをかけたりチョコレートをかけるなどの工夫をしながら必死にダイエットに取り組んでいた。
 そして毎日コンビニまでウォーキングを行い、わざわざコンビニで重いジュースを買い込んで更なる負荷を自らに与えてダイエットに励んでいた。
 グラタンダイエットに関してはよく分からないが、とにかく真剣に取り組んでいた。

 なのに体重は前と変わらない。神様はなんと非情なのだろう。
 残された時間はわずか3日。どんな手を使ってでも5キロ痩せてやる。直美はそう強く誓った。

 まず一日目。直美が行ったのは献血。
 血を抜くことで物理的に体重を減らす。なんて斬新なダイエット法だろう。
 しかし体への負担も考え、直美は待合室にあるお菓子を頬張ってジュースでそれを流し込んだ。
 そこまでしたにも関わらず、体重は減らなかった。

 二日目。直美が行ったのは銭湯。
 暑いのが苦手な直美だが、愛する人のため意を決してサウナへ足を踏み入れる。そしてものの五分で脱衣場へ出てきた。慣れないことをするからである。
 しかし直美は諦めない。
 脱衣場の冷蔵庫に入っているフルーツ牛乳で体力を回復し、再び灼熱の戦場へと赴く。
 直美はサウナと脱衣場を何往復もし、たっぷりと汗を流した。直美が帰る頃には冷蔵庫が空になっていたという。
 しかしここまでやっても、やはり体重は減らない。

 三日目。
 直美は飲まず喰わず外を走った。
 彼女は運動がなにより嫌いだが、もうこれ以外にやれることはない。29日間でほとんど痩せることができなかった直美が1日で5キロもの体重を落とすことができるのか。直美も絶望していたが、なにもせず諦めることはできなかった。
 体についた肉を揺らしながら一心不乱に走る直美に人々は好奇の視線を向けた。膝がその体を支えきれず何度も転ぶが、その度に直美は立ち上がる。大量の汗をかき、酷い飢えと乾きを感じようとも、決して水や食べ物を口にしようとはしない。
 彼女は朦朧とする意識の中で、ただケンジのことだけを考えていた。






「……え?」

 直美の目に飛び込んできたのは無機質な白い天井と、ケンジの泣き顔。

「直美ッ」

 ケンジはその泣き顔を直美に押し付けるようにして抱きついた。
 直美はここがどこだかも分からないままケンジを撫でる。そしてこの時ようやく自分の腕に刺さっている針に気が付いた。点滴だ。

「5キロ痩せなくちゃいけないのに、こんなもの」
「もう良いんだよ」

 針を抜こうとする直美を押さえ、ケンジはゆっくり首を振った。

「直美は倒れて病院に運ばれてきたんだ。無茶させてゴメン。良いんだ、直美はそのままで」
「ケンジ……」



 退院後、直美の部屋へ行ったケンジは大量のお菓子やジュースのゴミを発見して破局の危機に陥ったが、結局結婚し、幸せな家庭を築いたという。


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このストーリーに関するコメント

15/06/02 光石七

拝読しました。
タイトルの通りですね(笑)
ラストの一文は結構内容濃いと思うのですが、あっさり書かれているのが面白く、我知らずクスリとしました。
面白かったです。

15/06/03 夏川

コメントありがとうございます!

世の中には無茶苦茶なダイエットする人って結構いますよね。
グラタンダイエットは妹が何年か前に考案したダイエット法なのですが、未だにどういうメカニズムで痩せられるのかは解明されていません・・・

面白いと言っていただけてよかったです。
読んで下さりありがとうございました!

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