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春沢 紡生さん

妄想族の春沢です。 変なヤツですが仲良くしてください。

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夢を積むひと

15/04/26 コンテスト(テーマ):第八十一回 時空モノガタリ文学賞 【 三匹の子豚 】 コメント:1件 春沢 紡生 閲覧数:1007

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 ユキが積み重ねていたのは、いったい何だったんだろう。
藁でも、木でも、ブロックでもないもっとずっと儚くて弱い……積み木の家。
波に消されてしまった砂のお城みたいに、けれどそこには沢山の夢が詰まっていた。
ありがとう、ユキ……わたし、ずっとユキのこと忘れないから。

 子供の頃から友達作りが苦手で、ずっと一人ぼっちだった。教室には居場所がなくて、逃げ込んだ図書館で本に出逢って、それから本はたった1つの友人代わりみたいな感じで。大人になったら必ず本屋を作ろうって決めたんだ。だから、本当に嬉しかったんだよ。中野の街に「星空書店」をオープンさせられた日は。赤レンガ造りのオシャレな外観で、中はそんなに大きくはないんだけどね。だから、ユキが働かせてって言ってきた日はほんとビックリした。ずっと1人でやってくつもりだったから。でも嬉しかった……だって、初めて出逢ったんだもん。私を、心から必要としてくれている人に。

 おおげさですよ、店長。そう言って笑ったユキはもういない。辞表とクッキーセットを机の上に残して、ユキはいなくなってしまった。
「てんちょー、泣いてるの?」
「しゅうくん……来てたんだ。」
散切り頭のはなたれ小僧。5歳のしゅうくんは、若いお母さんと二人暮らしの優しい男の子だ。
毎週土曜日、ユキが手作りの紙芝居で読み聞かせをしてやっていた。
「3びきのこぶた、ユキねえがいちばんすきだったの。……さっぽろ?にあるおうちににてるんだって。」
差し出された「3匹の子豚」の紙芝居には、大きなナナカマドの木のある野原に木とワラでできた家が描かれていた。
 札幌。大きなナナカマドの木のある野原。そこへ行けば……ユキに会えるだろうか?
ユキがいなくなって3か月。ひとりぼっちになった店で、2人で店の前で撮った写真を見つめた。初めてできた、20歳年下の親友はいま、何を思っているのだろう。会いたい。たまらなく、会いたい。
 そして、気づけば雲の流れる空の上に私はいた。写真と、紙芝居と、携帯電話を握りしめて。札幌の町中を抜け、郊外へ出るバスに乗った。途中、小さな私鉄の駅で途中下車した。どこが目的地なのか、その名前すらわからない。
「すみません、」
切符を切っていた駅員さんに声をかけた。
「この女性に見覚えありませんか?ちょっと前の写真な」
「幸野……この子、沢木幸野さん、じゃないですか?」
若い男性が振り返って私を見た。
「幸野、元気にやってますか?あいつ昔、すごい大変な目に遭ってたから……。」
「大変な、目?」
「あぁ、小学時代同級生だったんですけど、あいつ母さんと姉さん、立て続けに病気で亡くして、それからずっと学校でも一人で……。」
「……そうだったの。」
「家族内で遺伝する病気だから、私もいつかって……でも前に、東京に行ってみたいなってよく言ってました。」
「その、昔の家の場所ってわかる?教えて?どうやって行くの?」

 それから、古い2両編成の電車に1時間ほど揺られたところに、ユキの家はあった。
「ほんとうに……よく似てる。」
確かに、そこにはワラの屋根のある家と、木製の家が二軒並んで建っていた。うっすら雪を被ったナナカマドの木には、赤い実がなっていた。
「ユキ!ユキ!」
木の家の扉を叩くと、髪をお下げに結んだユキが丸い目をもっと丸くして出てきた。
「城崎店長……なんで……。」
「しゅうくんが紙芝居持ってきてくれて、札幌に行けば会えるって教えてくれたの。」
「そっか……しゅうくんが。」
弱弱しく笑った彼女の口元には、変わらず小さなえくぼができた。
 「母も姉も、私が幼いときに亡くなりました……向こうのワラの家の方には、父が住んでるんです。弱っていく私たちを見たくないからって……出て行っちゃいました。……母にも、姉にも夢があったんです。母は……私の、成人式に出たい。姉は、結婚して子供を抱きたいでした……。普通の人から見たら、ほんとにささやかな夢。でも、どっちも叶わないまま。狼さんに吹き飛ばされちゃった家みたいに。脆い希望を積み重ねては吹き飛ばされ、また重ねては飛ばされて。だから私は、頑丈なところにいようと思ったの。赤レンガ造りの……うんと立派な本屋さんに。そうすれば、狼も私をあきらめるかもって。……でも、やっぱり無理でした。病気は私をあきらめてはくれなかったみたい。……私の夢は、2人のなんかよりずっとささやかだったのに。」

 店長と、ずっとあの店で働きたい。それが彼女の夢だった。でも結局、あの赤レンガ造りの本屋で働いていたユキも病気からは逃げられなかった。私が彼女を訪ねた3日後、ユキは静かに息を引き取った。店に帰って、レジカウンターにユキの写真を飾った。
 いつまでも、ユキと一緒に働く。その夢だけは、吹き飛ばされてしまわないように。


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