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つつい つつさん

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完璧な一日

15/04/24 コンテスト(テーマ):第八十二回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:7件 つつい つつ 閲覧数:1052

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 ラインからお弁当箱がどんどん流れてくる。わたしはあたふたしながら、お漬け物を箱の中に詰めていく。お昼休みまで、もうすぐだ。それまで、あとちょっと頑張らなきゃ。
 休憩室でお茶を飲んでいたら、山口主任が入ってきた。わたしは、びくっとして下を向く。今日はミスしてないはずだから怒られないと思ったけど、足音はゆっくりとわたしに近づいてきた。
「坂下さん、二つ、入れ忘れてたよ。今日みたいな日にちゃんと出来なかったら、これから忙しくなるのにどうすんの」
 下を向いたまま、何回も頭を下げる。なんでこんな簡単な仕事が出来ないんだろう。他の人もたまに失敗するけど、一週間に一回くらいだ。それなのに、わたしは毎日のように失敗してる。
 南田さんが、「まあまあ」って、主任に謝ってくれている。南田さんは、七〇近いおばあちゃんなのに、仕事は完璧で、わたしが失敗しても、ぱぱっとわたしの担当のおかずをつまんで入れてくれる。それに、怒られてたらかばってくれるし、いつも優しくしてくれる。南田さんのおかげで今日までやってこれたようなものだ。わたしは鈍臭くて不器用で人の助けなんて出来ないけど、いつか南田さんみたいになりたいって秘かに思っている。
「とにかく、昨日今日来た新人さんでも、これぐらいの仕事出来るんだから、いい加減ちゃんとしてよ」
 主任は部屋を出ていくまで、ぐちぐちと言っていた。南田さんは、「あんなひどいこと言わなくてもいいのにね」って言ってくれるけど、わたしはその通りだと思う。わたしより後に入った人はたくさんいるけど、わたしより出来ない人なんていなかった。やる気がなくて、わざと失敗するような人もいたけど、真面目に働いて失敗するのはわたしくらいだ。だから怒られて当然だった。
 仕事が終わって、アパートに帰る。電気を点けて、ひとり工場で貰ってきた弁当を食べる。わたしはこの時間が好きだ。今日もなんとか終わったんだって、ほっとする。
 今の工場でパートとして働きだして五年になる。ほんとは正社員とかなれたらいいんだけど、わたしみたいなのをちゃんと雇ってくれる会社なんてないんだってわかってる。毎日、主任にも、他のパートさんにも、いっぱい怒られるけど、ここは今まで働いてきたなかで一番いいところだ。南田さんだっているし、それにここは、わたしが一番よく言われた、そして、一番言われたくないことを言わない。
「もう、こなくていいよ」
 何十回も言われた。働いて一ヶ月後に言われるなら、ましなほうで、働いて二時間もたってないのに、「もう帰っていいよ」って何回も言われた。そのたびに思った。わたしはいらないんだ、わたしはなんの役にもたたないんだって。そんなこと、自分でわかってる。でも、わかったからって、どうしようもなかった。
 だけど、いまの工場は、いらないとは言わない。こんなことも出来ないのか、早くしろ、ぐずぐずするなって、いっぱい言われるけど、それは全部ここにいていいってことだ。これからもいていいってことだ。わたしみたいなのを雇ってくれるんだから、こんな優しい職場はない。
 お弁当を食べ終わると、時間はたくさんあるのに、やることがなかった。携帯を見ても着信なんてあるはずないし、メールをくれる相手もいない。テレビでもあればいいんだけど、まだ買ってないし、ずっと無音だと、かえって音が気になるからラジオを聞く。でも、ラジオを聞く時間は、わたしも騒がしい人の輪の中にいるような気がして、好きだった。
 二、三時間も聞いてると、お腹が減ってくるけど、わたしは我慢する。いつも夜はお弁当一個しか食べない。それなのに、なんでこんなに中途半端に太ってるんだろう。ただ、ぶよぶよって、みっともなく太ってる。頭もバカだから、体もバカになってしまうのかな。あなたはバカでのろまだから、それがお似合いよっていう顔と体になっちゃっうのかな。でも、そうかもしれない。外を歩いてる人見ても、出来る人は、やっぱり、きりっとして素敵だ。だとしたら、わたしはこのままかな。無理して体だけ痩せても、気持ち悪いだけかも。バカなこと考えてないで、明日はがんばろう。明日は、パーフェクトデーにしよう。一日働いて、なにもミスしない、そんな一日にしよう。
 寝る時間になるといつも、ベットの脇に置いた小さな箱から、貝殻を取り出し耳に当てる。
 ああ、波の音がする。
 小学校のとき、修学旅行で行った海で拾った大事な貝殻。楽しかったなあ。みんなでバスに乗って、いろんなところ周って、美味しいもの食べて、大きいお風呂に浸かって。あんなこと、もうないのかなぁ。夜中までひそひそおしゃべりして、写真なんかも取って。
 写真、貰えばよかったなあ。携帯もパソコンも持ってなかったけど、一枚くらい貰えばよかった。また行きたいなぁ。
 
 お金貯めなきゃ……。


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このストーリーに関するコメント

15/04/26 水鴨 莢

読ませていただきました。
これは何もない、何でもない話だと思いました。物語として何も特別なことがありません。
何もない話というのは、たとえばどっかの山奥でヤ○ザ同士が殺し合って結果全員が死亡
しました、みたいなのも私にとってはその枠に入ります。そんなことが起きてたって一般
社会にはべつに大して関係も影響もないしというところで。

でも私はなんだか、派手な仕掛けがある話も好きなんですが、こうした話もなんだか妙に
ツボです。特に御作はフォローも何もなく、こういう人は、こういう人です、ってままで
終わる。べつにそれに対して同情も共感もする必要もなく、でもただ、こういう人は確実
にいるだろうなって思うだけで。優しい人や賢い人は何かをもっと考えるんでしょうけど、
私はべつに、まあ、と。何かしらの物語に出たら絶対脇役なんだろうなって人を、なんの
ドラマも感じさせてくれないような人を、見れる、その心情を覗けるってこと自体に若干
興奮してしまうほどです。ドラマのある人の話なんて世の中に出回りまくっているのです
から、こういうのもあってくれよ、って思ってしまうんです。

15/04/26 つつい つつ

水鴨 莢 様、感想ありがとうございます。
何でもない話に長くコメントいただき、すごく嬉しいです。
今回はあまりストーリーを作らないことを意識して、自分に近い設定で書いたので、その感覚が伝わって良かったです。

15/04/29 汐月夜空

拝読しました。
「もうこなくていいよ」の破壊力はすごいですよね。
私もそういう存在を否定されるような言葉は大嫌いです。
思考の移ろい方にリアリティがある話だなあと思いました。
>明日はがんばろう。明日は、パーフェクトデーにしよう。
よく考えることですが、完璧な一日ってなかなかやってこないですよね。それでもなんとかやっていけるのは、不完全な日々にも何らかの救いを得るからだと思います。坂下さんもお金が貯まって何か救いがあればいいなあと思うばかりです。

15/05/05 つつい つつ

汐月夜空 様 感想ありがとうございます。
存在を否定されるのは本当につらいですが、それを意識して使う人もいて、それが仕事関係だと避けるわけにもいかず、難しいです。
今回の話はなかなか救いを見つけられないですが、それでも続く日常みたいなものを書いてみました。

15/05/20 梨子田 歩未

読ませて頂きました。
最後の貝殻を耳に当てるシーンがじんわりと心に染みました。貝殻から聞こえる海の音は、心を落ち着かせてくれますよね。
わたしも、明日一日がんばろうという気持ちになりました。

15/05/20 光石七

拝読しました。
大きな出来事が起こるわけでも主人公に劇的な変化があるわけでもないけれど、妙に親近感を覚えて惹きつけられるお話でした。
主人公は頑張ってると思います。
「もう、こなくていいよ」のように、存在を否定されるような言葉はきついですよね。たとえたくさん怒られても、それを言われないことに感謝し優しい職場だと考える主人公にも気付かされるものがありました。
今の主人公にとっては、海に行くことが自分へのご褒美になるのでしょうか。
主人公の頑張りが報われますように。

15/05/23 つつい つつ

risakot 様 感想ありがとうございます。
海はすごく好きなのですが、あまり近くにないので憧れの気持ちで貝殻のシーンを書きました。貝殻ひとつで海はいろんなことを思い出させてくれるのですごいなと思います。

光石七 様 感想ありがとうございます。
僕も報われなくても前向きな気持ちになれたらなと思います。
報われないことをテーマに書いたので海に行けるかどうかわからないですが、この主人公なら例えひとりで海に行っても、また何か見つけそうな気もしました。

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