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高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

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テーブルの上

15/04/20 コンテスト(テーマ):第八十回 時空モノガタリ文学賞 【 テーブルの上 】 コメント:1件 高橋螢参郎 閲覧数:861

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 小さい頃から、あたしはテーブルに昇るのがたまらなく好きだった。
 何度注意されたかわからないけれど、それでも椅子を足場にしてはしつこく昇り続けた。テーブルの上から見下ろす世界はチビのあたしにはあまりに新鮮で、居心地がよかった。一度クセになると注意されてもなかなかやめられなかった。
 そしたらそんなに高いところが好きなのかと、テーブルの上にもう二度と昇らない事を条件に、じいさんが東京タワーへ連れてってくれると言った。あたしは興奮して家中を転がりまくり、終いにはタンスに頭をぶつけて古いマンガみたく鼻血をブーと出した。テーブルの上でもああなのに、もし東京タワーからの景色なんか見たらどうなっちゃうのかしら。女にしかついてない部分で何かを強く感じたのは、多分この時が生まれて初めてだったと思う。
 でも、実際はそうじゃなかった。せっかくの日本一高いタワーも、あたしにとってはあまりよくはなかったのだ。長さや太さだとか何やかんや言ってもこういうのは相性が一番大事なのだと、幸か不幸かたった三歳にして気付いてしまった。
 あたしは約束を破ってまたテーブルの上に昇るようになった。あまりに言う事を聞かないので父親にぶたれた時、「どうしてテーブルの上に昇る事がいけないのか」と聞いたらもう二発余計にぶたれた。本当に大切な事は説明がつかないものだって知ってるくせに認めようとしない。でも、とりあえず子どもはぶっておく。理不尽だ。あたしだってテーブルの上がどうして落ち着くのかなんて、本当のところは自分でもよくわからないのだから。ただ、身体がそう言っているだけで。
 結局じいさんはあたしのその辺りを理解する前に死んだ。五歳の孫娘は涙を一滴も流さなかったけれど、今になって思えばそれは正しい事だった。その後のあたしの罰当たり人生を目の当たりにしなくて済んだのだから。
 それからというものの、あたしはあたしの身体の言う事だけを聞くようになった。九九の七の段がいつまで経っても怪しいような頭を使うよりかはその方がずっとマシだと思ったし、結果的にも悪い事にはならないような気がしたからだ。じいさんはタバコの喫い過ぎで肺ガンになって、まだ髪の毛もさほど抜けないうちに死んだ。健康食品が好きで嫌煙家だったばあさんはそこから十年間生きたうちの実に七年間を無数の管に繋がれたまま病院で過ごした。あたしはこう見えてもおじいちゃんっ子だったわけだ。
 あたしの身体は日々ふくらみ続けるおっぱいの大きさに比例するように、どんどん声が大きくなっていった。あれしろ、これしろという彼女の提案をあたしはいいね! と、どんどん積極的に取り入れていった。初めて身体の外から他のものを取り入れてみたのは中学二年の夏だった。正直こんなもんか、としか思わなかったけど。せっかくなので小さい頃からお世話になっていたテーブルの上にていたしたのは家族の誰にもバレてないはず。
 でもどうしてだろうか。自分の声を素直に聞けば聞くほど、人の声はあたしの事を悪く言う。そしてアホな男はそれを聞いてあたしを守りたがる。全部バカバカしい。身体を本当に繋げるなんて、どう考えても絶対に無理なのに。あたしの身体の声を一度も聞いた事ないくせに。
 何でそれでも知った風な口を聞いてあたしを評価したがるの?
 何でそれでもあたしの事をわかってるようなフリをしたがるの?
 あたしは、あたしだ。あたしは身体にまつわる全部の管を引きちぎってどこか遠くへ行く事にした。

 そして今、あたしはテーブルの上にいる。
 テーブルの上にハダカで寝っ転がるあたしに、周りを囲むおじさんたちは特に何も言わない。ただ手に持った箸でハゲタカの嘴のように身体をつん、つんとついばんでいく。
 その間中あたしは天井の一点を見つめていた。大好きだったテーブルの上にこうして堂々と乗っているのに、あたしの身体はうんともすんとも言わない。きっと今度は、あの叱られるかもしれない、という背徳感が足りていないのだろう。高さでもなく、テーブルの上という場所でもなかった。まだまだあたしもあたしの事をわかっていない。
 今はただ「醤油はつけんなよ、痒いから」とだけ身体はつぶやいていた。


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