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リアルコバさん

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そんな人ちがい

12/07/22 コンテスト(テーマ):第十回 時空モノガタリ文学賞【 自転車 】 コメント:0件 リアルコバ 閲覧数:1466

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(そうか、赤い自転車に乗っていたのは郵便屋だったんだ・・・)
 実家の古いソファーに身を沈めて今更気が付いた事を呟いている自分が可笑しかった。ターンテーブルの蓋を開けてA面の終わったLPレコードを《かぐや姫さあど》と云う色褪せたジャケットに仕舞った。《そんな人ちがい》この曲は中学3年の文化祭で俺と栄一と敏ちゃん3人でバンドで歌った曲だった。
3人が3人とも《夏海》と云う名の女の子に惚れていた頃だ。



『久しぶり元気?』
『あぁ、そっちも少し太ったか?』
『失礼ね、逆に痩せたんですけど』
 屈託のない笑顔が懐かしく安心感を与えてくれたのは10年ほど前だっただろうか。

『結婚は?しないの?』
『しないんじゃなくて出来ないんだよ』
『不器用だもんねぇそっち方面は』
『失礼なモテキもあったぞ、そっちは?』
『私は離婚しちゃった・・・まぁなんとかやっていくわ』
 笑いながら彼女がそんな風に言った。

『そうか、じゃ俺が帰ってきたら一緒に店でもやるか』
『そうね、期待しないで待ってるわ』
 あったであろう左手の薬指の指輪の跡に気付かなかった俺は、やはりそっちの方は不器用な部類なのだろう。

『覚えてる?私にくれたラブレター、あまりにもくだらなくて返事も出せなかったわ』
『あぁ高1か、俺は返事を待って毎日何度もポストを見に行ったよ』
 偶然に会った夏海は相変わらず綺麗で、赤い自転車に乗っていたあの頃のショートヘアーのままだった。

『さて、どうする飯でも食おうか』
『いいよ』
 日除けの帆を張出した喫茶店の窓に夕日が差し込み始めたが、二人は立ちあがる必要もなかった。10年振りに会った二人に、ほんのひと時、魔が差したような時間が訪れたのだと思う。


 あれから更に10年、この街で暮らすためには長年の不義理を解消せねばなるまいと、確実に実家の理容室を継いでいるであろう栄一の処へ髪を切りに行った。白髪が混じり長年の習慣で七三に別れた髪を思い切り短く刈ってしまおう。

「千葉ちゃん・・・」
栄一が気付いたのは椅子に座り鏡越しに目を合わせた時だった。
「久しぶり どうしたの?」
禿げあがった額まで満面の笑みで迎えてくれた。
「戻ってきたからよろしく」
あえて中学生のように軽く答えた。
「うそ?いつ?会社は?」
「辞めたよ、親父達も歳だし東京にも飽きたし人生折り返しって事でさ」
「帰って来て何すんだよ」
「さぁまだ決めてないよ」
「こっちは仕事なんかないよ」
「なんとかなるだろ」
「何言ってんだよ、駅前見た?」
「ん?」
「溜り場だった日曜館もトシんとこの中華屋もみんなシャッター閉まってんだぜ」
「そうか・・・」
懐かしい話は取り留めも無く続き俺の頭は中学生の時の様な短髪になった。
「夏海ちゃんは?」
一瞬戸惑った栄一は、もしかして10年前の事を夏海から聞いたのだろうか。
「さぁ実際田舎でもさ、そんなに交流なんてないんだよ・・・」
栄一も夏海に惚れていた事は間違いないが、何だか少し優越感に浸った。
「じゃ懐かしい街でも見てくるわ」
「あぁ今夜飲む?」
「いいね」
「じゃトシにも連絡しとくよ」
旧友の温かさに俺のテンションは上がっていた。


 千葉を見送った栄一は散らばった髪を掃きながら、とめどなく流れる涙を拭えないでいた。末期の病に痩せこけた夏海を最後に見舞った時の約束を思い出している。
(駄目だ、夏海ちゃん、俺耐えられそうにないよ)


 栄一は閉めたと言っていたが、俺は敏ちゃんの店に向かっている。
(千葉ちゃん遅いよ もう遅いんだよ)
 
 駅前商店街だと云うのに3割程の店のシャッターが閉まっていた。
(なんでもっと早く夏海ちゃん迎えに来なかったんだよ)
 
 敏ちゃんの実家の中華屋もメニュー看板だけが虚しく消えかけていた。
(『栄ちゃん、ほらずいぶん前に千葉君に逢ったって言ったでしょ、そん時ね、いつか戻って来るって、そしたら一緒に店でもやろうだって、ハハハ相変わらず馬鹿だよねぇ・・・それまで私もつかなぁ』あいつ待ってたんだぞお前の事)
 
 ショートヘアーで赤い自転車が走る。「夏海・・・」人違いにしても若すぎる。
(『栄ちゃん、お願があるの。私が死んじゃっても暫くは千葉ちゃんに黙ってて。あいつきっと私を探すから・・・それを少し見ていたいから』夏海お前の云った通りだよ)
 
 本当に栄一も夏海を知らないのだろうか?もしかして今頃夏海に連絡してサプライズ同窓会か・・・そんな想いで駅の反対側に抜けた。
(『栄ちゃん、ゴメンね、ホントはずっと私千葉君が・・・好きだった』そんな事は解かってたよ)
 
 夏海の実家だ。でも訪ねるのも変だよな・・・手紙でも出すか・・・そして赤い自転車をまた待つのもいいなと、俺は本気で思っていたんだ。



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