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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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なぜ、その子はテーブルの上で息絶えていたのだろうか?

15/04/20 コンテスト(テーマ):第八十回 時空モノガタリ文学賞 【 テーブルの上 】 コメント:15件 草愛やし美 閲覧数:2295

時空モノガタリからの選評

テーブルの上というテーマをとてもよく生かした作品だと感心しました。「きっと母が叱りにやってくると信じ」テーブルの上に登ろうとした娘の姿、動機が切ないです。本来家族の暖かさの象徴であるはずのテーブルの上で、息絶えねばならなかった娘の姿がいじらしく、胸を締め付けられる思いがしました。

時空モノガタリK

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 五月三日、世間がゴールデンウイークで賑やかなその日、幼い姉弟の遺体が発見された。
 なぜか、姉はテーブルの上で絶命しており、弟は姉が乗ったテーブルの足元で蹲るようにして息絶えていた。腐敗が進み悪臭が漂ってきたことから同じアパートの住人が通報し、やってきた警官によって発見された。警官はその凄惨な姿に顔を背けた。

 空っぽに近い冷蔵庫の扉は開けっ放しのままで、床には調味料の瓶や容器が散乱していた。腐ったゴミと子供が垂れ流した糞尿の臭いで部屋中饐えた臭いが漂う。電気が止められた室内は昼間でもカーテンが閉まっていて薄暗い。夜は漆黒の闇だったに違いない。
「トイレの水を飲んでいたのだろう」と鑑識が呟く。便器の横に子供用のプラスチックマグが転がっているのがそれを物語っていた。マグカップは姉のものだろう、ピンク色で可愛い猫のイラストが笑っている。アパート近くの人の話によると、始めは両親と姉弟の四人家族だったが一年ほど前から父親の姿を全く見かけなくなった。母親が姉弟を連れて出かける姿が数回見かけられたようだが、二か月前、滞納された家賃の催促に不動産屋が訪れた時は留守だったという。
 部屋の中には三歳の姉と一歳半の弟の二人がいたはずだが、誰にも気づかれなかったのは、老朽化したアパートで住人が少なかったことに加え、扉にガムテープが目張りされていたからだろう。ドアノブには執拗なまでにガムテープがグルグル巻きにされ、内側から開けることは大人でさえ不可能と思われた。姉の体には蛆がわいていたが、顔は輪郭を留めており、痩せ衰えた口元は心なしか微笑んでいるようにさえ見えた。だが、このような悲惨な状態にあったこの子がなぜ笑みを浮かべているのかは誰にもわからなかった。
 
 十九歳の母親の恵(めぐ)は新宿で遊んでいるところを逮捕された。友達と遊びたかっただけと言い訳する恵の顔は幼く、今時の服装を着ている姿はとても子供がいるようには見えない。父親が失踪したのは一年前、その後、数か月はひとりでも子育てしていたが、友達に遊びに誘われ出かけたのだと信じられないような供述内容を口にした。

「子供が可愛くなかったのか?」
「可愛いよ、あたしの子。公園とか行くとみんなめちゃ可愛いねって言ってくれるもん」
「ガムテープでドアに目張りして出て行ったのは死んでもいいと思ったからか」
「だってぇ部屋から出ちゃったら危ないでしょ、あそこの前の道、あれで結構車通るんだよ、刑事さんあたし交通事故とか心配したんだよ」
「なら、どうして帰ってやらなかった、お前が帰らないと子供は死ぬしかないじゃないか、わからなかったのか」
「でもさ、死んだってゲームみたいに呪文で生きかえるとかもありでしょ」
 刑事は溜息をついた。言っていることが全くチグハグで話にならない。
 
 真帆という子がテーブルの上で息絶えていたことを恵に伝えると、頬を膨らませて一気にまくしたてた。
「やっぱりテーブルの上に乗ってたんだ、あれ程言ったのに。あの子いくら危ないって言ったって聞かないんだ、あたしが怒るのを面白がっているに違わなくない」
  
 ◇

「真帆、どうしてテーブルにあがるのよ! いけないって言ったでしょ、もう何度言ったらわかるのよ」
「かあたん、ターブゥ?」
「ダメなの、テーブルから落ちるって言ってるの、言うこと聞かないで落ちたって、あたし知らないからね。ほんと、子供ってどうしてこうわけわかんないんだろう。父親のくせに健介の奴、いなくなっちゃったしどうしたらいいんのよ、あたし一人じゃ面倒見きれないじゃんか」
「ターブゥ、ターブゥ」
「コラー、真帆、またそこに上ってる、落ちるって言ってるでしょ! ああ、もうあたしの言いことわからないの、ダメここは痛いの、テーブルね、上に上がるとドスーンだよ、イタタタってわかる真帆?」
「ターブゥイタタ? かあたん、かあたん」

 ◇

 真帆は恵の姿を捜し続けていた。きっと母が叱りにやってくると信じ何度も何度も繰り返しテーブルに上がった。四月八日、弟の健太はすでに冷たくなっていた、真帆はその体を揺すってみる。十日は晴天だった。カーテンが閉じられた部屋だったが、カーテンの隙間から差し込む光がキッチンに届いた。その光を認めた真帆は力を振り絞って椅子をよじ登りテーブルに上った。
 母の声が聞こえたように感じた真帆は、テーブルの上で両手を差し出して抱っこをせがもうとしたが、力尽きテーブルに横たわった。だけど、真帆の目には確かな母の姿が浮かんでいた。
「かあた……」

 右手をもがく様に空をまさぐると自分の頭上から、懐かしい母の叱る声が響いてきた。真帆は僅かに口角を上げふっと笑みを浮かべ呼吸を止めた。
 その子の右手がだらりとテーブルから下がると、やがて静寂のみが部屋を支配していった。


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このストーリーに関するコメント

15/04/20 たま

草藍さま、拝読しました。

書き手も読み手も、とても辛いお話です。できれば書きたくない、読みたくないという心理が働きます。でも、草藍さんは書くことを選択したのです。
それはまさしく、「フルチンで肉を食え! 残さずに食え! それが作家だ!」ということですね。OHIMEさんのお言葉です。
では、何故、フルチンで肉を食うのか? ということです。
作家がどうしても受けなければいけない批判のひとつに、「君たちは他人の不幸を小説にするのか!」というのがあります。
この批判に真っ向から対峙するために、作家は、フルチンで肉を食わなければいけないということです。フルチンすなわち、己を曝け出すということです。
今回、このお作を書くために、草藍さんはフルチンで書いたはずです。でなければ、書けなかったはずです。まず、その勇気に拍手を送ります。素晴らしいことです。
それで、曝け出すというのは、アートの世界の鉄則です。作家だけではありません。己を曝け出さなければ表現者にはなれないのです。詩人も同じことです。
優しさと正反対の場所にいて、詩を書くのが詩人です。でなければ、優しさを表現することはできないのです。
「あなたの優しさはニセモノだ!」という、批判に対峙するためにです。
そこには、プロも、アマもありません。
ある人が言ってます。@寄り添うこと。A想像すること。このふたつをフルチンにプラスしてください。そして、B与え続けること。それが表現者の使命です。
OHIMEさんのお言葉はとても愉快ですね。やる気になります。そこで、もうひとつ、「残さずに食え!」これがいちばん難しいのです。
草藍さんもそれを感じたと思います。この先、ますます道は険しくなります。ご健闘を祈ります。互いに精進しましょう♪

15/04/20 鮎風 遊

最もの罪で、最も辛い話しですね。
こういう事件が起こると、なぜ母親は誰かに助けを求めなかったのか。
子供が不幸で、なんとも言い難いですね。
閉じられた一室の中での地獄、それが伝わってきました。

15/04/21 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

こうした事件が現実におこっているということに、あらためて心が痛みます。
テーブルの上で、最期、真帆ちゃんが安らかであったということはせめてもの救いのような気がします。
こういう結果になる前に、なんとかしてほしいと強く思いました。

15/04/21 草愛やし美

>たまさん、お読みいただき大変嬉しいです。コメントいっぱい感激しております。
OHIMEさんの「フルチンで肉を食え」は考えさせられました。創作は自分をさらけ出すこと、確かに作りだした子供(創作)は私そのものだと思います。特に、先日のテーマ嫉妬でその思いを強く持ちました。世間体も気になりました。でも書き続けないと書けなくなってしまいそうで怖いのも事実です。
脳が衰退していくのは日々わかります。言葉や人名が出てこないのはしょっちゅうです。書ける間は書きたいとの思いを持ち、何らかのものを僅かでも残していくためにはフルチンでも何でもありになってきます。思いついた題材が過酷なものでも何とか形にできればと思います。64歳、来年は年金年齢になりました、たまさんを含め、創作仲間の方々には私がいつまで書いていられるか見届けていただけたらと願っています。わがままな押し付けですが、書ける限界の日が、死ぬ日と合致していないかもしれませんが、なるべく長くなりふり構わずのフリチンで肉を食い頑張りたいです。ありがとうございました。

>鮎風游さん、このお話はつい数年前実際に起こった事件をもとにフィクションで書いてみました。あの事件は衝撃でした、母親をサポートできていればと報道は書き立てましたが、実際はどうなのでしょう、難しいことがいっぱいありそうです。言うは易し行うは難しでしょうか、公的な援助などまだまだ成すべきことありそうに思います。かといって私には何もできません、唯一できることは、書くことにより少しでも知っていただくことかと思います。コメントをありがとうございました。

>そらの珊瑚さん、テーブルの上でみんなが幸せな食卓を囲める──そんな時代を望みます。さまざまな立場や環境によって、それこそテーブルもないような生活を強いられている人がいるのも事実でしょう。書くことで知っていただけたらときつい内容に挑戦しました。お読みいただけ嬉しいです、コメントありがとうございました。

15/04/22 泡沫恋歌

草藍 様、拝読しました。

これとよく似た事件が過去にありましたね。

私たち、母親である者はあの事件には強い衝撃を受けました。
実際、私もあの事件をテーマに掌編を書いた記憶があります。

こういうテーマは難しい。
どう巧く描いても読後感が悪いし、ドーンと落ち込むので書き手もツライでしょう?

よく頑張って書かれたと、その勇気と意欲に拍手喝采です!

15/04/22 光石七

拝読しました。
とても辛いお話、でも目を背けてはならない現実でもあると思います。
子供は親を選べないし、特に母親は幼い子にとっては一番そばにいてほしい、大好きな存在でしょう。たとえそれが自分を叱ってばかりの母だとしても。悲しすぎる最期に涙が止まりません。
極端な言い方かもしれませんが、「親としての自覚・責任感が希薄なまま、勘違いしたまま、親になるな!」と言いたい。
もちろん子育ては大変だし、日々不安や疲労もあるでしょう。言うこと聞かない時は腹立たしく思うでしょうし、たまには息抜きもしたくなるでしょう。でも、やっぱりわが子って一番大事じゃないですか? そう思わないのですか?
……すみません、興奮してしまって。誰に言ってるんだって感じですが(苦笑)、それだけ強いメッセージ性があって心を揺さぶられたのです。
素晴らしいお話でした!

15/04/26 滝沢朱音

あの事件は、ほんとうにつらかったですね…
たとえどんな親であろうと、子どもにとってはかけがえのない存在で、その愛を欲しいといつも願ってる。
たとえ叱られるという手段でも、その関心を自分に向けてほしいと願ってる。
このお話のように、あの子どもたちも最期まで母親を思っていたでしょう…
むごさに目をそらしたくなるけれど、忘れてはならないと思いました。

15/05/03 クナリ

この作品が精神に訴えている部分は皆様のコメントのとおりなのですが、自分めはその他に、冒頭での謎めいた導入で読み手を引き込み、小説として表現すべく文章を仕上げていらっしゃる点に感銘を受けました。
印象的な出来事をただ述べるだけでなく、ミステリアスな死の状況や表情の理由が徐々に明らかになっていく展開が作品に迫力を与えていますね。
途中で会話文が連続するくだりを挟むことで転調もあり、最後まで引き付けられて読みました。
読者に伝えるために、できる限りのことをする。書き手様の、そんな意識を感じました。

15/05/04 草愛やし美

>泡沫恋歌さん、私には忘れられない事件でしたので、いつか作品に書いてみたいと思っていました。テーブルの上のテーマを見た時にすぐにこの事件を思い出しました。機会をいただいたように感じ、思い切って書きました。
読後は悪いと覚悟しました、悲惨なことでしたが、せめて、あの死んだ子が死を前にして少しだけでも良いことがあればとの願いから、フィクションで書きました。コメントありがとうございました。

>光石七さん、あの事件は衝撃でした。親になることがどうして途中で曲がってしまったのかと悔やまれました。誰も助けてあげられなかったのはどうしてなのか? 何かできることがあったのかと世間の誰もが考えました。でも、実際のところ忘れさられ、今も次々と虐待が起こり、幼い子が亡くなっている事実は消えません。何とも苛立つことだと私も光石さんに同感です。何か方法がありそうに思うのですが……、問題はまだ解決していないと思います。コメントありがとうございました。

>滝沢朱音さん、子供の頼るものは最後まで親しかいないはずです。親から切り離すしかない環境にあっても子は親を慕うと思います。虐待を受けている子がいくら聞いても親を庇うという事実もあります。幼い子に責任はないのですから、大人、しいては社会が問題を捉え考えなければと強く思います。ですが、私にはどうすれば良いのかとわからないままで情けないことです。せめて、書くことだけでもと思い形にしてみました。コメントありがとうございました。

>志水孝敏さん、お読みくださって感謝しています。書き手として未熟な文ですが何かを伝えられればと思い書いてみました。
テーブルの上では温かい家庭が最善でしょうが、不幸な事実を見たテーブルもあったはずだと思います。できることならば、全てのテーブルたちが幸せな家庭に鎮座することを心から願っています。コメントをありがとうございました。

>クナリさん、未熟な文をお褒めいただきありがたいと感謝しています。コメントは書き手にとって励みになります。
この事件が起こった時の衝撃は口ではいえないものがありました。いろいろ考えましたが何もできなない私です、それでも、何か形に残せればとの思いで書きました。拙作に温かいコメントほんとうにありがとうございました。

15/05/11 kotonoha

完全な子育てをなされずに大人になった人間がまともな子育てが出来る筈がありませんね。
可哀想にこの子達は親を恨むことも知らずに死んで行ったのでしょうね。
ああ、なんて悲しいことでしょう。

15/05/25 滝沢朱音

草藍さーん!
最近は投稿をお休みしてて、ご無沙汰しています。
このたびはパピルス掲載おめでとうございます!
表彰式、今回は関西だといいなあ〜♪

いつもあたたかく励ましてくださったこと、
いくらお礼を言っても足りない気持ちです。
パピルス発売、楽しみにしてますね。

15/06/01 草愛やし美

KOTONOHAさん、お忙しいなかを訪問してくださり読んでいただき嬉しいです。
実際になった事件をもとに創作しました。子育ては難しいです、時にこういう事件も起こることもあります。知らないことも罪になるかと思います。ほんの僅かな助けがあれば何とかなったのではないかと悔やまれます。

15/06/01 草愛やし美

滝沢朱音さん、ありがとうございます。

暗い内容ですが、社会的にとても衝撃を受けた事件を自分なりに考察して創作しました。読んでいただけることは書き手にとって大変な励みになります。時空モノガタリさまのお蔭でより多くの方に読んでいただく機会をいただけること作者としてとても幸せに思います。

15/06/01 草愛やし美

時空モノガタリKさまはじめ運営の皆様方へ

選評大変嬉しいです、ありがとうございます。

時空モノガタリに投稿してはや3年、継続して書いてきて良かったというのが一番の思いです。語彙数も乏しく表現力や構成力も未熟な私ですが、これからも創作に精進していきたいと思います、ありがとうございました。 

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