浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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15/04/19 コンテスト(テーマ):第八十回 時空モノガタリ文学賞 【 テーブルの上 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:1087

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 重苦しい雰囲気の夫婦喧嘩はなかなか終息へと向かわず、俺は晩ご飯を自室で食べる日々が続いていた。

 父が、家族のために頑張って仕事をしてくれて本当に感謝してるけど、帰り時間のメールくらい送れないのかな。
 母も、感情的に怒るだけでなく、残業続きの父を労る言葉を投げかけて、その上で自分の意見を言えないのかな。
 俺からしたら、父と母どちらも同じように悪い。

 ーー学校からの帰り道。
 俺の悩みを黙って聞いていたサクラが顔を上げる。
「ハル。一個提案なんだけど」
「なに?」サクラは俺の手を掴み、早足になる。「なんだよ」
「いいから行くよ!」

 急かされて向かった先は、なんの変哲もない文具店だ。
「......あ、これ良いかも」サクラは目を輝かせ、一つの商品を手に取る。
「変わった形してるな。桃をぶった切ったみたいな」
「ほんと、ハルはロマンチストじゃないんだから」サクラは頬を膨らませてレジへと向かう。
 小汚い定食屋で告白した時も、そんなこと言われたな。

 その後に俺たちが立ち寄るのはファーストフード店。
「で、提案ってなに?」席に着くなり俺は、すぐに疑問を解消したくて仕方ない。
「これよ」サクラはテーブルの上にさっき文具店で買った商品を乗せる。
「ん? この半ケツがどうした」サクラが俺の頭を筆箱で叩くのに数秒もかからなかった。
「ほんと、デリカシーないんだから」眉間に皺を寄せたサクラが、俺の目の前にペンを差し出す。
 
 それからサクラの言う通りに、サクラの提案を、二人で形にしていく。

 ......それにしても誰かとご飯食べるの久しぶりだな。学校でもここ最近、やけになっていた俺は、昼休みになると屋上へ逃げ込んで、ずっとぼっち飯をしていた。
 最初、サクラは俺に声をかけてくれたけど、俺の態度があまりにも素っ気なく、しばらく口を利いていなかった。って、俺の両親の夫婦喧嘩と同じだ。

「サクラ、そういえば俺、謝ってなかった」
「うん? なにが」
「サクラは俺のこと気にかけてくれたのに、乱暴な態度とっちゃって。ごめん」
 俺が頭を下げると、サクラは一旦手を止める。
「あれがいつものハルじゃないってことは、私が一番わかってる」サクラは笑い、私の方こそしつこくなにがあったか聞いちゃってごめんね、と謝罪する。

 俺はサクラに甘え過ぎだな。俺もサクラが優しいことを充分なほどわかってしまっている。

 一つ、心のつかえが取れて帰宅した俺は、サクラの考えてくれた作戦を実行する。
 テーブルに母が事務的に用意した、父用の食事。その横に俺は、サクラと作った片割れをそっと置く。どうかこれがきっかけになりますように。

 次の日の朝ーー。
 父が仕事に出かけた後、すぐにもう一つの片割れをテーブルの上へと仕掛ける。一体俺はなにをやってるんだ。一日経ってみて、自分がこんなことをするキャラじゃないことに改めて気がつく。

 ......だけど、効果覿面だったみたいで、俺が部活から帰る頃には、父がもう帰宅していた。
「あれ、早い。てか、二人とも」父と母はテーブルについて俺の帰りを待っていたようだ。

「おかえり、ハル」父が口を開いた。
「これ、ハルでしょ?」母は俺たちの作ったメモを手に持っている。「いや、正確にはサクラちゃんかな」

「ちょっ、なんで全部お見通しなんだよ」俺は一気に肩の力が抜ける。
 サクラが俺の母になりきって謝罪のメモを書く。俺はそれを父の方へ気づかれないように渡す。父の分は俺が書いて母へ、そうやって水面下で動いて二人の仲を取り持つ作戦だったのに、関係修復の引き金になればと思ったのに、たった一日で見透かされるなんて。

「母さんの字にしては可愛すぎるなって思ったんだよ」父が失礼なことを言うと「お父さんがこんな繊細なことするわけないし、でもハルもお父さん似だから、一人でこんなこと思いつくわけないなって」と母が毒舌を吐く。余計なお世話だよ。

「......さぁ、ご飯食べようか。本当、悪かったな」と父が謝る。
「お母さんもごめんね。ずっと意固地になって」と母も続く。
 俺たち家族は、二週間ぶりに三人で食卓を囲んだ。 

 ーー俺を俺たらしめる半分は父からの血で、半分は母の血なんだ。俺は二人のことをわかってるに決まってるし、二人も俺のことをわかってる。つもりでも、わからなくなることも当然ある。
 その半分半分が常にお互い完璧なわけじゃない。夫婦喧嘩だって時にはする。当たり前だ。

 俺はふと「ハルってロマンチストじゃないよね」と怒るサクラの顔を思い出す。
 サクラが俺のもう半分を埋めてくれる子で、ずっといてくれたらいいのにな、と思う。
 
 テーブルの上では、俺たち二人の書いた薄桜色のメモが寄り添い、ハートの形を表していた。


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