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つつい つつさん

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僕には妹がいる

15/04/09 コンテスト(テーマ):第八十一回 時空モノガタリ文学賞 【 三匹の子豚 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:1130

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 僕には妹がいる。でも、幼い頃両親が離婚して、僕は父親に妹は母親に育てられたから、兄妹といっても他人みたいなものだ。むしろ、他人のほうが気楽かもしれない。血のつながりはあるけれど、同じ時間を過ごしていない僕たちは会えばよそよそしくなるのが当たり前なのに、それに罪悪感を感じてしまう。
 去年父親を亡くし葬儀で久々に再会した妹は三十歳を過ぎ、ひとりで暮らしている僕を不憫に思ったのか、それ以来電話をくれるようになった。だけど、父親が家にいないことが多く、ひとりでいることが当たり前だった僕には、そうやって気を使われるのが正直うっとうしかった。 僕は元々人付き合いが苦手で、誰かと話すのは得意ではない。だからといって寂しいなんて思ったこともなく、ひとりでいることも、なるべく人に干渉しないで生きていくことも自分にとっては当然のことだった。みんな恋人が欲しい、子供が欲しい、家族が欲しいなんていうけれど、世の中には、ひとりのほうが幸せで、人と関わるとかえって不幸になる人もいる。僕もそのひとりだ。だから妹がなぜ無理に僕に関わろうとするのか、あまり理解できなかった。 
 妹は結婚して五歳になる娘もいて幸せに暮らしている。だから、僕のことなんか忘れても困らないし、僕と会わなくても今までの人生となんら変わりはないと思うのに、ただ兄だという理由だけで僕を大切にしようとする。だけど、僕は妹のことをほとんど覚えていなかった。去年会って、妹だと認識しただけだ。話をしていても、まるで兄妹の実感がなかった。小学校のときの学芸会のように、あなたは兄です、彼女が妹です、と役を決められたから役割をこなしているだけのような気がしていた。妹には悪いけど、そろそろ電話するのもやめるよう頼もうかと悩んでいた。 
 僕のアパートに娘を連れてやってきた妹は、なにもない殺風景な部屋に少しとまどっているみたいだった。
「お兄ちゃん、これ娘の桜。ほら、桜、挨拶しなさい」
 桜ちゃんは少し恥じらいながら、「こんにちは」と元気な声で挨拶してくれた。妹に似て明るくて可愛い子だ。
 遊びに来てくれたのはいいけれど、共通の話題もない僕たちはすぐに会話が無くなり手持ちぶたさな時間が流れていた。TVも置いてないこの部屋はひとりでいるときはその静けさが心地よく感じるのに、今はその静けさが僕たちを押しつぶそうとしていた。
 桜ちゃんも最初のうちは物珍しいのか、きょろきょろと周りを見回していたけど、すぐに飽きて退屈そうに足をばたばたさせている。妹も少し困った顔をして「ケーキ買ってきたから、紅茶でも入れてくるね」と、キッチンのほうへ歩いていった。
 暇そうにしていた桜ちゃんは動物の柄のトートバックから一冊の絵本を取り出した。
「三匹の子豚かぁ。懐かしいな」
「おじちゃん、この本知ってるの?」
「うん。小さい頃、僕も好きだったよ」
 桜ちゃんにせがまれて、僕は絵本を読んであげた。慣れないことに緊張して声がうわずってしまったけど、桜ちゃんは嬉しそうに聞いていた。そのうち、妹もケーキと紅茶を持って部屋に戻ってきた。
「いいなぁ、桜。お兄ちゃんに読んでもらってるんだ」

 そのとき、突然思い出した。

 まだ幼い僕と妹がリビングのソファに座っていた。たぶん父親は仕事で、母親も外出しているのか見あたらず、ふたりだけだった。
 僕はこのとき、離婚ということをちゃんとわかっていたのかは覚えてないけど、母親と妹が出て行くことだけはわかっていたと思う。
「お兄ちゃんは明日一緒におでかけしないの?」
「うん、お兄ちゃんはお父さんと暮らすんだから、一緒じゃないよ」
「ふーん。じゃあ、ちゃんとお留守番しててね」
「えっ?」
 戸惑う僕を気にせず、妹がいつものように絵本を差し出した。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、これ読んで」
「うん、いいよ」
 妹がにこにこしながらお話が始まるのを待っている。

 思わず妹のほうへ振り返ると、目に涙を浮かべながら僕を見ていた。
「そういえば、お兄ちゃん、よく読んでくれたよね」
 急に妹の顔が目に飛び込んできた。小さかった頃の妹と今の妹が僕の中で重なった。嬉しかった。やっと妹に会えたんだ。もう会えないって自分に言い聞かせて必死に忘れようとした妹に、また会えたんだ。
 それから僕たちは兄妹に戻り、かけがえのない時間を過ごした。

 妹と桜ちゃんが帰ったあとの部屋はやけに暗く、寂しかった。なにもない部屋がこんなに自分を不安にさせるなんて考えもしなかった。もしかしたら僕は、弱くなったのかもしれない。なにも求めず、なにも期待しないほうが幸せなのかもしれない。つながりなんてあやふやなものは人を不幸にさせるだけなのかもしれない。だけど、僕はひとりなりたいなんて思わなかった。
 だって、僕には妹がいる。
 


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