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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
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豚に涙

15/04/07 コンテスト(テーマ):第八十一回 時空モノガタリ文学賞 【 三匹の子豚 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:979

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「おい、沢木、ちょっと話があるから休憩室に行こう」
諸橋課長に呼ばれ、俺は胃がグ〜と痛くなった。きっと仕事でミスばかりしている俺を、お得意のチクチクと説教するつもりだろう。
俺は諸橋課長の背中をうつむき加減で見つめながら後をついていった。
休憩室の喫煙コーナーで諸橋課長はタバコに火をつけて吸った。
「どうした? 顔色が悪いぞ」
「いえ、大丈夫です。俺もタバコを吸ってもいいですか?」
「おう、お構いなく吸えよ」
スーツのポケットからマイルドセブンを取り出し、一本抜き取って火をつけた。
「ちょっと沢木にお願いしたいことがあるんだ」
俺は目を固くつぶって身構えた。
「三匹の子豚を預かってくれないか?」
「はっ? 三匹の子豚ですか?」
「実は3か月前から、マンションで子豚を3匹飼い始めたんだ。豚と言っても、食肉用の大きな豚ではなくて、ポットベリーという品種のミニブタなんだ。沢木も知ってると思うが、私は社長命令で来月からアメリカの本社に一年間出向することになった。豚をアメリカに連れて行くことはできないし、頼める人間は沢木ぐらいなんだ。頼む、一年間だけ預かってくれ!」
諸橋課長に頭を下げることはあっても、課長から頭を下げられたことがなかった沢木は、優越感を感じ二言返事で了承した。

季節が春を迎え、明日アメリカに出向する諸橋課長は、前日の今日、俺のアパートに子豚を3匹連れてやって来た。
「この鼻に黒い斑点があるのがパープルで、おでこに三日月模様があるのがピンク、そして鼻の穴が他の2匹よりも大きいこの子豚がグリーンって言う名前だ。簡単に見分けがつくだろう」
「はあ。パープルにピンク、それにグリーンですか……」
課長の頼みを受け入れたのは自分自身ではあったが、実際に三匹の豚を見ると、世話をするのが面倒くさく感じて、やっぱりお断りしますと口から出かかったのを必死に堪えた。
「一年後、日本本社に帰社したら、私を部長にしてやると社長から言われている。そのあかつきには沢木を係長に推薦してやるよ」
沢木は笑みがこぼれるのを堪えるため歯に力を入れ「ありがとうございます。大切に3匹の子豚のお世話をしたいと思います」言った。
諸橋課長がいなくなると、3匹の子豚との共同生活が始まった。
課長の話では、あまり臭いがしないと言ったが、すぐに六畳ワンルームの部屋は豚の臭いで充満した。
窓を半分開け立ったまま、豚を見つめてさあどうしようかと思案した。
一年間だけ豚との共同生活を辛抱しようと覚悟を決めた。夕方、夕食の支度をしようと冷蔵庫を開け豚バラ肉を取り出して、ハッとした。俺は豚を飼っているのに豚の前で豚を食うつもりか? でも大好物の豚バラ肉の生姜焼きが食べたい。散々自分に問いかけ続け、結局、冷蔵庫の豚バラ肉をもったいないが生ごみ入れに捨てた。
「ブーブー」と三匹は鼻を鳴らしながら、俺に鼻を押し当ててきた。課長の話では、鼻を強く押し当ててくる時は、エサを求めている時らしい。
俺は課長が持参してきた専用フードを子豚に与えた。月々の子豚の飼育代として課長から一年分のお金を受け取っている。これからはエサがなくなったらペットショップに買いにいかなくてはいけない。なんだかこれからの一年間が思いやられる感じで、子豚達は食用旺盛だが、沢木は食欲が失せた。

3匹の子豚を諸橋課長から預かって半年が過ぎた。子豚はもう子豚とは言えないくらい大きく成長していた。体重計に乗せたら50キロを優に超えている。
パープルがペットフードを食べているすぐ横で、ピンクがフンをしている。グリーンは相変わらず寝ている。
豚との共同生活も半年を過ぎると、豚に対して愛着が湧くから不思議だ。会社に出社中は豚のことが気になり、もともと仕事に集中できない性分だったのになおさらだ。
女性に飲みに付き合ってと誘われても、「豚が待っていますから」と断るようになった。
あっという間に季節は一周して、春を迎えた。アメリカ本社に出向していた諸橋課長が部長となって明日、日本に帰ってくる。
子豚から大人の豚に成長した3匹にエサを与えながら、最後のお別れ会をひっそりと沢木は開いていた。
缶ビールをグビグビと音を立てて飲みながら、自然と涙が頬を流れた。
「パープル、君の食欲旺盛な食べっぷりが好きだったよ。ピンク、君はメスなのにフンばかりしている君が可愛らしかったよ。そしてグリーン、君はいつも寝てばかりいたね。君の寝顔をみていると、俺まで睡魔が襲ってきたよ。君たち、本当に1年間楽しかった。どうもありがとう」
翌日、諸橋部長が3匹を引き取りに来た。
「沢木、こんなに大きくなった子豚達の面倒をみてくれてどうもありがとう。約束どおり、社長に君を係長にするように推薦しておくよ」
去っていく3匹の後ろ姿を見ながら涙がこぼれた。


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