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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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冬の通学路

15/04/06 コンテスト(テーマ):第七十九回時空モノガタリ文学賞 【 通学路 】 コメント:7件 そらの珊瑚 閲覧数:958

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 髪の毛は本体から切り離された瞬間に、なぜか禍々しいものとなる。

 私は、美容院の磨かれた鏡をみつめる。今しがた切ったばかりの私の黒い髪を、美容師見習いの女がホウキで集め、手早く片付けていく。
 
 私は幸せになりたかっただけなのに。
 愛は幸せを約束してくれるものじゃなかった。
 あの人は突然出ていった。

 愛も、本体から切り離された瞬間に、とても禍々しいものになる。
 膨れたこの腹を見てよ。堕ろすことも、もう出来ない。

「何ヵ月ですか?」
「9ヶ月です」
「まぁ! もうすぐですね。楽しみでしょう」
「ええ、とても」
 鏡に映るのは、幸せな女のふりをして笑っている妊婦。
 あたしの嘘つき! 今日、世界が終わればいいと思っているくせに。

 美容院からの帰り道。陽の当たらない道は踏むとザクザクと霜柱がつぶれる音がした。

 ザクザクと。

 冬の空は低く、あっけなく青く澄んでいる。

 私はやけっぱちのように、霜柱を踏み倒して歩いた。

 1ヶ月後、私はひとりで子供を産み落とした。電気ストーブをよすがにした、小さな小さな夜に。

 ◇

寒くなれ
痛いほど寒くなれ
凍れば凍るほど
僕は強くなる
霜柱

一晩かかって
地面を持ち上げる
どうしてそんなことをするのかって?
そんなこと聞かれても
実際のところ
わからない
自分が誰だなんて
実際のところ
みんなわかってないだろう

僕は霜柱だ
気づいたら霜柱だった
だからってなんだっていう話だし
誰も誉めてはくれないけれど
僕は
霜柱としてこの冬を生きていくしかない

そのうち
ランドセルを背負った
純粋であるがゆえ
おそろしく無邪気な破壊者たちが
僕を踏みつけていく

ザクザクと

今朝も遊んでくれてありがとう、と
いうべきか
ちくしょう、僕の仕事を台無しにしやがって、と
呪うべきか

けれども唯一
僕を踏まない優しい子がいた
小さな夜に産み落とされた子
小夜子ちゃんだ
誰かからのお下がりの袖の短くなった青いセーター
ヒダがすっかり無くなって、よれたスカート
垢のつまった伸びた爪
何日も洗ってない油にまみれたベトベトの髪
そんな小夜子ちゃんのことを
クサイ、クサイとはやしたてながら
通り過ぎていく子どもたち
小夜子ちゃんと一緒に歩く友達はいない
孤独な道
それでも
小夜子ちゃんは
毎日ここを通うのをやめない
この先にそんなに大切なことがあるのだろうか
僕にはわからない
だって
僕はただの
霜柱

小夜子ちゃんは
僕のことを
かわいそう、という
僕から言わせれば
小夜子ちゃんのほうが
かわいそうだ

お父さんの顔を知らない
小夜子ちゃんが生まれる前に
逃げてしまったから
水商売をしているお母さんは
明け方帰ってきて
朝はまだ夢の中
客の枕代を
化繊のドレスの汗臭い胸に押し込んだまま

小夜子ちゃんは
今朝も一人で菓子パンの袋を破る
クリスマスはクリームパン
正月はメロンパン
今朝は何パンかなと
胸躍らせる小夜子ちゃん

誰も聞いてはいなけど
「いただきます」とつぶやくんだ
誰も見てはいないけど
そっと掌を合わせるんだ
今日はアンパンだ
パンの端を少しだけ残して
ポケットにしのばせる

手袋を持っていない
しもやけで赤黒くなった小さな手で
パンの端を僕の上にまいていく

しばらくすると
雀がやってきて
おしゃべりしながら
それをついばんでいく
ちゅん、ちゅん、ちゅん……
あいつらの言葉は正直わからないけど
そばで誰かが楽しそうにしているのはいいものだ

小夜子ちゃんは
知っている
僕の孤独を知っている
雀の空腹を知っている
たったひとかけらのパンくずが
孤独と空腹を同時に癒すことを知っている
自分がどうしてこんな自分であるのかを
悲しんでみたって仕様のないことを知っている

午後になればおひさまが当たり
僕はぬかるんでぐちゃぐちゃの
それは見事な泥になったけれど
心はほのかに温かい

僕はそうやって帰り道になり
小夜子ちゃんを待っている







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このストーリーに関するコメント

15/04/06 メラ

珊瑚さん、拝読しました。
見事な切り替えしですね。まさか霜柱の視点で物語が進むとは。その発想に驚きです。
可哀想なお話ですね。リアルな描写に、なんだか胸が締め付けられました。

15/04/06 南野モリコ

そらの珊瑚さん、拝読致しました。

いつもの珊瑚さんらしいフレーズが刺さりますね。

髪の毛は本体から切り離された瞬間に、禍々しいものとなる。
愛も同じ。

しびれました。

15/04/06 海見みみみ

そらの珊瑚さん、拝読させていただきました。
前半の話からどうなるのかと思いきや、霜柱の視点のお話に変わるとは驚きです。
霜柱が語る小夜子ちゃんの健気さ。
それだけに読んでいて悲しい気持ちにもなります。
小夜子ちゃんに幸せになって欲しいな、そう思いながら作品を読了しました。

15/04/09 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

可哀想な出生の女の子のことを、なんと霜柱に語らせるという、
実にユニークな設定に驚きました。

大人の事情で、満足な生活ができない小夜子ちゃん・・・
いつか幸せになるように祈るばかりです。

15/04/12 鮎風 遊

霜柱、思い出しました。
小学生の頃、そればっかり踏み付けて歩いてました。

霜柱に気持ちがあるなんて…、今気付かせてもらいました。
勝手な親に産まれた小夜子、それが運命だと言ってしまえばおしまいだけど、
優しい子で良かったし、これからも挫けないようにと願いたいです。


15/04/21 そらの珊瑚

画像は「写真素材 足成」さまよりお借りしました。

15/04/21 そらの珊瑚

メラさん、ありがとうございます。
実はこの作品は後半部分、散文詩として書いたものを小説化してみたものです。
子供には何の罪もないのですが、これに似たことは世の中に現実としてあるのだと思います。

ミナミノモリコさん、ありがとうございます。
わぁ、しびれていただいて光栄です♪
美容院でたくさんの切った髪の毛を見ると、なぜかどきっとします。
そのあたりの体験を思い出したものです。

海見みみみさん、ありがとうございます。
哀しいかな、子供は親を選べません。
小夜子ちゃんの優しい心根が失われないよう、いつか幸せになって欲しい、私もそう願います。

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
小夜子ちゃんには友達がいないので、出会った霜柱さえ友達にしてしまいたいくなるのでしょう。
いつか人間の友達ができたらいいなあと思います。

鮎風 遊さん、ありがとうございます。
まだ誰も踏んでいない霜柱を踏む快感、私も忘れられません(笑い)
冬の寒い朝、いい運動になってあたたまりました。
願っていただいて感謝します。

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