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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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オオカミさんへのオマージュ

15/04/06 コンテスト(テーマ):第八十一回 時空モノガタリ文学賞 【 三匹の子豚 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:953

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 娘の美奈が、ちょっと部屋にきてと、私を呼んだ。
 私はすぐに、あれかなと推測した。
 はたして、私が部屋に入ると、娘は机上のパソコンを前にして、
「お父さん、三匹の子豚ときいて、なにを思い浮かべる?」
 と、たずねてきた。
「またあれかい、時空何とかという―――?」
「そう、その時空モノガタリの、今回のテーマなの」 
 美奈がそのサイトに、自分の作品を投稿しているのは、私も知っていた。
 これまでにも、案に詰まると、妻や私になにかヒントになるものはないかと、何度となくたずねてきたことがあった。
 書くことがとにかくなにより好きで、若いときから創作をつづけていて、公募ときくと片端から応募しないではいられない投稿マニアだった。会社勤めで、毎日きちんと帰宅して、日課としている創作にうちこむ娘に、力になってやろうとするのが親心というものだろう。
「それはやっぱり、ブーフーウーだな」
「なにそれ、ブーブーって?」
「ブー、ブーじゃない。ブーフーウーだ。僕がまだずっと小さかったころ、テレビで毎週やっていた、こどもむけの番組さ」
「ブタの話なの?」
「もとは外国のおとぎ話だ。ほら、三匹の子豚がたてた、藁と木とレンガの家を、狼がぶっつぶしにかかる話、美奈も知っているだろ」
「もちろん。だけどそれをそのまま書いたって、面白くもなんともない。二次創作は、タブーなのよ」
「じゃ、ブーフーウーにちなんだことでも書いたらどうだ」
「どんなブタたちだった?」
「いまでいうユルキャラだな。ずんぐりむっくりして、愛嬌があった」
「こんなのかしら、ブー」
「はあ………?」
 そのブーという声がいやにリアルにきこえて、私はおもわず美奈の顔に目をやった。
 するとそこには、まんまるの顔に、鼻がつきでた、子豚の顔があった。
「み、美奈………どうしたというんだ」
「私、ブーフーウーの、ブーよ」
「なにをいっている。親をからかうもんじゃない。―――わかった、僕にいっぱいくわせるつもりだったんだな。そのブタキャラも、最初から用意していたんだろ」
 と、そのとき廊下から、妻の美穂の声がきこえた。
「大きな声で、なにしゃべっているのよ、ブー」
 またしてもそのいやに生々しいブーの声に、私は嫌な予感をおぼえて、部屋に入ってきた妻をみた。
 案の定、妻もまた豚に姿を変えていた。
「あたし、ブーフーウーの、フーーよ」
 たしかにそのソンブレロをかぶった子豚の姿は、わたしの記憶のなかにある、テレビの『ブーフーウー』に登場していた、まさにフーにほかならなかった。
 子豚と同じ帽子をかぶり、大きな作業ズボンをはいて、ことし還暦をむかえる妻が、これはまたなんという変わりよう!
「なるほど、わかった。これはすべて、美奈の演出だろう。私の驚く様子を書いて、投稿するつもりだな。あまい。そんな内容じゃ、きっと評価は低いぞ。どころか創作性に欠けると判断されて、削除にもなりかねない!」
 玄関があいて、息子の健太が会社から帰宅した。
 廊下を歩く、そのどこか陽気にはずんだ足音を耳にした私は、まだ見ぬかれの姿が容易に思い描けた。
「ぼくは、ウーだ」
 まさに私の想像どおりの姿で、部屋に健太が入ってきた。
 ブーフーウーの三匹の子豚がいま、私の眼前にたちはだかっていた。
 さすがに、もうこうなると私には、なにがなんだかわからなくなってきた。
 いくら創作のためとはいえ、ここまでおおがかりなことまでする必要がどこにあるというのか。
 もしかしたらこれは、日常に突然ぽっかりあいた、時空間のひずみからかいまみえる、異次元の世界ではないのか。
 私は、この異常事態に浮き足立つ自分を、なんとかおちつかせようとやっきになった。 テレビでブーフーウーが放映していた当時には、美奈はまだこの地上に影も形も存在していなかった。これが本当にリアルタイムに番組をみたこともない彼女の企てだとするなら、どこかに食い違いがあるにちがいなかった。
 私はけん命にあらさがしをはじめた。そしてすぐに、みつけた。
「ブーフーウーには、レギュラー出演していた、オオカミさんがいなくちゃならない。さすがにそこまでは、気がつかなかったとみえる。美奈、残念だったね。当時のことを知っている、私の眼までは、ごまかせないよ」
「あら、お父さん、そこの鏡をみて」
「えっ」
 娘にうながされた私は胸騒ぎをおぼえて、壁に立てかけられた、等身大の鏡をふりかえった。
 鏡のなかからポンチョ姿にとんがり帽子をかぶり、開いた口からキバをむきだす、どこかとぼけた様子の一匹の狼がこちらを見返した。
 これは、私じゃないと、声をあげようとした私の口からでたのは、
「ビスケット!」
 の言葉だった。
 知っている人なら知っている、オオカミさんの、それは大好物だったのだ。



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このストーリーに関するコメント

15/04/06 海見みみみ

W・アーム・スープレックスさん、拝読させていただきました。
とても愉快なお話ですね。
世界がどんどん「ブーフーウー」に飲み込まれていく。
そして最後は主人公であるお父さんまでも……。
ある意味とてつもなくシュールなお話です。

15/04/06 W・アーム・スープレックス

海見みみみさん、コメントありがとうございました。

常識からどんどん逸脱していく内容であるにもかかわらず、自分では、いたって常識を描いているつもりでいます。
こういうのを、シュールというのかもしれませんね。

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