浅月庵さん

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皮肉

15/04/02 コンテスト(テーマ):第七十九回時空モノガタリ文学賞 【 通学路 】 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:984

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“子どもたちに豊かな想像力を育んでもらおう”なんて考える大人は、時空小学校の近隣に住む人々を説得し、通学路に芸術作品の展示を試みる。

 時空小学校OBの俺は、十年ぶりにこの地へ戻り、過去を懐かしもうと考えていたのに、台無しだ。かつての通学路は、まだ世に名前も知れ渡っていない若手クリエイターの作品で埋め尽くされている。

 生け垣の途中にガラス張りの箱が設置されていて、その中に精巧な女性の人形が入っている。作品タイトルのプレートには「ヒトカタとウタカタ」と書かれており、意味深なタイトルも芸術だろ?という作者の魂胆が煤けて見え、俺は鼻で笑う。
 説明欄には「話しかけてみてください」と書いてあるので、ドラマなどでよく見る、面会用の小さな孔みたいな部分から声をかける。

 すると、体を丸めてじっとしていた女性が目を開き、こちらを見つめる。
 これ動くの? 人形じゃなくてロボット? こんなの夜道で見かけたら腰抜かすよ。

 なんだか気味が悪くなった俺はその場を離れ、他の作品を見ることにする。
 少し歩くと、民家の塀に絵が飾られている。

 タイトルは「淘汰される退廃」
 日本の絶滅動物、トキやニホンオオカミを油絵で表現し、それを敢えてランダムに破いてから再度繋ぎ合わせて復元させた作品。
 純粋な画力じゃ勝負できないからって一度クラッシュするとは......。破壊→再生をその“製造行程”自体に含ませ、付加価値で作品の深みを出そうとする発想の貧困さ。笑っちゃうよ。

 電灯の根元に設置されたオブジェ。
 タイトルは「赤と緑」
 様々な色で塗りたくられた、腰を下ろそうにもお尻が痛くなりそうな刺々しい形のオブジェ。意味不明。
 説明欄に「赤緑色盲の方には本質が見えるはずです」と書かれており、俺がこれを単なる“ゴミ”としか見れないということは、多分色覚に異常は無いのだろう。なんだこれ、検査キットのサンプルか?

「無意味だと思いませんか」
 背後から声が聞こえたので、俺は後ろを振り返る。ん? 誰もいない。
「下ですよ、下」と言われ俺は目線を下ろすと、そこには一人の男子小学生が立っている。あれ、おかしいな。まだ学校は授業中のはずだけど。

「きみ、名前は?」俺はその子の目線に合うよう屈む。
「浅月庵と申します」
「庵くんね。さっきの言葉はどういう意味かな?」小学校低学年にしか見えないのに、随分利口そうな子どもだな。
「子どもたちは、こんな大人のエゴで制作されたものに興奮も感動もしませんよ。皆が皆、他者に評価されたいという欲望が全面に出て、子どもに楽しんでもらおうといった気概が感じられない」
 
 ......お前さんも子どもだろ。

「ほほー、バッサリだね。でも確かに、おじさんもそう思うよ。子どもがこんなん見たってチンプンカンプンだよな」
「それにですね、子どもにとって通学中の道草というものは、こういった類いに頼らなくても想像力を養う良い時間だと思うんです」
「想像力......ね」
「歩道の白線は、白いところしか歩いちゃ駄目。足を踏み外せば落ちて死んじゃうぞ!とか、道ばたに落ちている木の枝を剣に見立てて勇者になりきってみたり、少しの段差でも、ここから降りたら下は海だ。鮫に食われるぞ!なんて遊び、お兄さんも昔やりませんでしたか?」
「うん、やってたな!」
 俺は自分が小学生の頃を思い出す。そうだ、俺はカッツンやケンちゃんとのそういう思い出を振り返るためにここへ来た。それなのに......。

「子どもたちの想像力を育もうと考えられたこの企画は、反対に子どもならではのイマジネーションを著しく削いでしまう可能性が高いと僕は考えています」

 俺はその庵くんの言葉を聞いて、改めて自分の中にある違和感に気づく。「そうだよな、やっぱりこんなの俺が毎朝歩いてた通学路じゃないよ! こんなの馬鹿げてる!!」

 俺が庵くんとの共感を噛み締めていると、小走りでこちらへ駆け寄ってくる一人の若者が見える。「おいおい、またかよ」
 その若者を見て庵くんが一言。「あ、元凶」
 
 元凶ってなんだよ。この若者は庵くんの保護者か?

「ご迷惑おかけしてすみません。こいつ失礼なこと言ってないですか?」若者は俺の顔色を伺う。
「いえ、大丈夫ですよ」
「それは良かったです。こいつ、すぐ抜け出すんですよね」若者がそう言うと、庵くんのTシャツを捲りあげて背中をさする。
 すると、庵くんは力を失ったようにガクッとうなだれる。
 
 ーーえ? どうしたんだ、一体。

「あ、あの、この子は」
「え? あぁ、これ“僕の”なんです」
 そう言って若者が指差した先には空っぽのガラスケースが見える。え、嘘だろう。まさか......。

 そのケースのタイトルプレートには“皮肉”の文字が並んでいた。


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このストーリーに関するコメント

15/04/02 海見みみみ

浅月庵さん、拝読させていただきました。
大人のエゴに塗れた作品。
それが子供独特の感性を奪ってしまうことはとても残念なことですね。
しかし作中の浅月庵くんのタイトルは皮肉。
どちらにも取れるテーマ性がとてもおもしろい作品だと思いました。

15/04/08 光石七

拝読しました。
作中の芸術作品のタイトルに「ん? 見覚えがあるぞ」と思っていたら、やはりそうでしたか。
自虐的皮肉のように書かれていらっしゃいますが、創作に真摯に取り組んでいらっしゃることも感じます。
面白かったです。

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