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ポテトチップスさん

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漂流者

15/03/31 コンテスト(テーマ):第八十回 時空モノガタリ文学賞 【 テーブルの上 】 コメント:2件 ポテトチップス 閲覧数:1081

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遅い昼飯を牛丼店で済まし街路地に出た修一は、薄っぺらい財布を尻ポケットにしまい空を見上げた。約束の時間までは、まだ30分早かったが集合場所に着いた修一は、立ったままタバコを一本咥えて火をつけた。タバコの煙を何度か吐き出していると、若い青年が黒いリュックサックを背負って近づいてきた。
「すいません、治験の方ですか?」
「そうだよ。君も治験やる人?」
黒いリュックサックを背負った、まだ二十歳前後に見える青年は、白い歯を覗かせ笑顔で「はい、そうです。渡辺光希と言います。治験のアルバイトは初めてなんで、どうぞよろしくお願いします」言った。
「君、ずいぶん若いように見えるけど年はいくつ?」
「21歳です」
なぜこの仕事を選んだのだろうかと、渡辺光希よりも23歳年上の修一は内心で思った。この仕事を選ぶ人間は、自分と似たような社会のはみ出し者が多いのだが、渡辺には自分達に似た匂いが感じられなかった。
「もっと別のいい仕事、探せばあるんじゃないの?」
「実は妹が今月末に急きょ結婚することになりまして、どうしても今月中にご祝儀代として10万円を用立てたかったんです。治験のアルバイトの求人欄に3泊4日の勤務で15万円の給料が支給されると記載されていたので、それで即応募した訳なんです」
「この仕事は今回限りにしとくことを、アドバイスしとくよ」
「なぜですか?」
「これは流れ着いた人がやる、最後に残された仕事だよ」
渡辺は「ふーん」と頷いたあと「今回はどんな治験なんですか?」と聞いてきた。
「知らない。行ってみてからじゃないと、どんな治験をするのか教えてもらえない」
黒いハイエース車が2人の前で止まった。修一と渡辺は後部座席に座り、治験現場まで修一は眠りについた。

白衣にメガネをかけた研究員らしき担当者が、白いパジャマを着せられた修一と渡辺に向かって、簡単な治験内容を説明していた。
「今回は、治験にご参加くださいまして誠にありがとうございます。お二人にはこれから防音の部屋にそれぞれ別々に入って頂きまして、テーブルの上にある赤いボールをずっと見続けて頂きます。就寝時間と食事・トイレ以外は、とにかくずっと赤いボールを見ていてください。やって頂く治験の説明は以上です」
渡辺が質問した。「この治験結果は何に応用されるんですか?」
「それにはお答えできません」
説明が終わり2人は別々に分かれ個室に入った。
6畳くらいの部屋は真っ白で、その中央に白いテーブルと椅子が設置されていて、テーブルの中央に赤いボールが置かれていた。
修一は椅子に座りそのボールに視線を向けた。防音の部屋であることと、赤いボール以外は真っ白で統一された部屋だけに異空間にいるように感じ、すぐに軽い眩暈と吐き気がした。
ただただ赤いボールだけを見続け、いま何時なのか体内時計すらマヒした。

3回睡眠をとったから3日が経過したことはなんとか理解できたが、はたして後何日この地獄部屋にいなくてはいけないのか修一は分からなくなっていた。
初めてこの部屋に入った時には、テーブルの上には赤いボールが置いてあったが、いま修一が見つめているのは切断され血で赤く染まった男の頭部だった。
その切断された男の頭部は、渡辺光希だった。渡辺は首が切断されているのに目玉をクルクル回しながら、口を動かし何かを伝えようとしていた。
『イ・モ・ウ・ト・ケ・ツ・コ・ン』
笑顔を浮かべた頭部だけの渡辺があまりにも不気味で、修一は頭を掻き毟ってテーブルをひっくり返した。
「アー! アー! 誰か俺を助けてくれ! ここから出してくれ!」狂乱した修一は白い壁を拳で何度も殴った。拳の皮が剥け血で壁が染まった。
突然、鍵のかかっているドアが開き、白衣を着た3人が修一の体を羽交い絞めにして、一人が乱れ狂う修一の腕に注射を打った。

目を覚ますと、別の部屋のベッドの上で寝かされていたようだ。
隣に顔を向けると、頭部が切断されていない渡辺がまだ眠っていた。
修一は渡辺を揺すって起こした。
「ヒッ!」と顔を向けた渡辺が発した。そのあとすぐに「よかった、胴体もついてる」と安堵したように言った。
「治験は終わったらしい」
「終わってよかった。実は治験中、テーブルの上の赤いボールがある時から、切断された修一さんの血で染まった頭部に変わったんです。それが僕に何かを話しかけようと口を動かしていたから怖かったです」
「俺も赤いボールが君の切断された頭部になっていた」
「いったいこれは何の治験だったのでしょうか?」
「おそらく、精神異常に効く新薬の実証実験だろうな」
「もう僕、この仕事はぜったいにしたくありません」
「俺も今まで何十回も治験を受けているけど、今回ので嫌気がさしたよ」
「もう家に帰れるんですよね」
「ああ、たぶんな。さあ、起きて給料受け取って帰ろう」


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このストーリーに関するコメント

15/03/31 海見みみみ

ポテトチップスさん、拝読させていただきました。
治験のバイトに前から興味があったのですが、まさかこのような仕事内容だとは……。
このお話はどの程度がフィクションなのでしょうか?
リアリティがあるだけに実に気になります。
この短い文字数でホラーとして十分に恐ろしい作品でした。

15/04/01 ポテトチップス

海見みみみ様、感想ありがとうございます。

以前、私は友人に治験のアルバイトをしないかと誘われたことがありました。
その時は、断ったのですが、その友人は治験のアルバイトで生計を立てていました。

この作品は想像で書いたフィクションで、私も治験のバイトがどんなものなのかは知りません。

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