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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 図書館にある子どもの本を全て読むこと。 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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罪と罰

15/03/24 コンテスト(テーマ):第八十回 時空モノガタリ文学賞 【 テーブルの上 】 コメント:4件 ちほ 閲覧数:1176

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 大陸一広大な大教会は、外界から切り離されている。周囲を海で囲まれ、一つきりの石橋の果てに教会への扉も一つだけ。祈りを必要とする者がくぐり、そして……
「なんだよ! 尻を蹴飛ばすんじゃねぇ!」
 おれみたいな罪人が大教会に落とされる。罪人と呼ばれるのに年齢は関係なく、実際、おれは子どもの部類に入る。
 大扉が、振り返ったおれの目の前でガタンと閉まった。もう戻れない。一か月後にはまた大扉は開くけど、それまでおれの身がたぶんもたない。だって、ここはゾッとするほど美しくて、罪に汚れた者には生きた心地がしない清らかなところだ。
 大教会の敷地内をあてもなく歩いた。教会群までを結ぶ長くて白い道と水を吹き上げる白い大きな噴水と何十本もの塔も含めた白い教会群。どれもが光に照らされて、余計にキラキラしている。まぶしさにうんざりして目を細めた時、どこからともなく細くて澄んだ歌声がきこえてきた。でも、すぐに切れてしまうような弱い声ではなくて、優しくて強い。
 思わず足が止まった。そう、気がついたら歌に導かれて、取り残されたような小聖堂の前まで来てしまっていた。小聖堂の中では、ステンドグラスの様々な光に包まれた一人の神父が、歌いながら腰ほどの高さの水盤に手をかざしていた。水底に沈んだ六つのガラス玉を転がしていた。勝手に転がっているようにも見える。少し動かしたら、左手の小さな帳面に何かを書きつけていく。そんなことを五回も繰り返した後に、首をめぐらせおれを見た。驚いた顔をしてから、おっとりと微笑んだ。まだ二十を少し過ぎたくらいの若い神父で、優しそうだなと思った。が、おれの罪を知ったら、その顔がどれだけ軽蔑したものに変わるかと思うとなんだか恐ろしくなった。
 他の神父に寝るところと食べるところを案内してもらったら、不思議とあの小聖堂に毎日足を運ぶこととなった。おれのことを大切なお客様のように扱わず、余計なことも一切言わない小聖堂のクラウス神父。彼は、歌以外の声を封じられていた。
 出会った日、彼の指先がおれの額に軽く触れてきて、心の声で伝えてきた。名はクラウスで、未来を視る力を才能がある故に無理やり習得させられた結果、声を奪われた……と。詳しいことはわからないけど、彼が大教会を憎んでいることはその口調で感じ取れた。視えた未来を小さな帳面に綴っていくことは、教会の利益になることらしい。それとは別に、教会に宿をとっている人人生に迷っている人)を、クラウスはその力で慰めていた。
「なんで明るい未来ばかり教えるんだ? 悪い未来の方が圧倒的に多いはずなのに!」
 こんなのは嫌だった。まるで誤魔化しているみたいで。
心が明るくなれば、前向きに生きられる)
 彼の指先が語る。
「前向きって……そんなっ……おれには無理! ……それは、おれに許されてないっ!」
 どうして今さら動揺しているのだろう? 神からの救いがないことがそんなに怖いのか? そう……怖い。とても怖い。
(『神のテーブルの上』から落ちないで!)
 クラウスの声がして、手を引かれた。引かれた勢いで、おれの身体は真っ白な僧服のクラウスに抱きしめられていた。その腕から逃げようともがいたが、彼は動かない。さらにもがいた。だって、おれに触れるとこの人も汚れてしまう。必死になっていると、
(もう君はそれほどまでに苦しまなくていい)
 心が見抜かれた!
(ごめん。手で触れた方が、心の小さな想いまで視えるんだ。君が罪の重さに耐えきれず、『神のテーブルの上』から落ちそうなのが視えた)
 世界は『神のテーブルの上』にある。愛を失えば滑り落ちて地獄へ。愛に満ちた魂は天上へと向かう。
「おれなんか死んだら地獄へ落ちてお終いだと思っていた」
(君はいい子だよ)
「本当に? チビを救うために、じいさん殺しちまったよ?」
(君はいい子だ)
 おれは泣きそうになった。クラウスは、罪の重さと罰の重さを秤にかけた。神の意思など無視しておれを抱きしめた。
(君は、この大教会に放り込まれた意味がわかるかい?)
「……罪を償えということ?」
 クラウスは優しい目をして頷いた。まだ見捨てられたわけではなかったのだ。
 自分を大教会に放り込んだ人々に対して、感謝の言葉が自然に出た。
「……ありがとう」
 


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このストーリーに関するコメント

15/03/24 海見みみみ

ちほさん、拝読させていただきました。
大教会に放り込まれた本当の意味。
それがわかった時素直に感動しました。
罪を犯しても人は罰を受けて償えばまた赦される。
主人公にはぜひ罪を償ってまっすぐ生きて欲しいですね。
とてもよい作品でした。

15/03/25 ちほ

海見みみみ様
コメントをありがとうございます。
いつか書いてみたいと思っていたお話です。
罪は償ってこそ赦されるものですが、殺人は果たしてどうだろう?と
自分に問いかけてきました。
でもチャンスは与えたいと思い、自分の希望を書きました。
海見みみみ様に感動していただき、とても嬉しいです。
ありがとうございました。

15/04/20 光石七

拝読しました。
『神のテーブルの上』の世界、なるほどと思いました。
でも、「地獄に落ちろ」なんて神様は言わないのでは? 自分で「俺は落ちるべき人間だ」と思い込んでるだけで。
赦しと償いについて考えさせられるお話でした。

15/04/20 ちほ

光石七 様
コメントをありがとうございました。
主人公は、自分を責め続けています。
自分は地獄へと落ちるべき人間だと。
罪を犯しているとはいえ、この潔癖さに私自身も書いていて息苦しいものを感じました。
クラウスの愛が主人公に通じ、天への道を赦されました。
愛がなければ救われない魂でした。
光石七様にお読みいただけて大変嬉しく思っています。
ありがとうございました。


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