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甘美な復讐の香り

15/03/23 コンテスト(テーマ):リレー小説 【 相談屋ケイジロウ 〜新宿編 @】 コメント:4件 るうね 閲覧数:1169

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「あなたが……ケイジロウさん?」
 新宿の裏路地。亜加梨は現れた人物を見て、眉根を寄せた。セーラー服を着た少女だった。
 ふふ、と少女が笑う。
「なにが可笑しいの」
 馬鹿にされたような気になって、亜加梨は声を尖らせた。
「いえ」
 と、少女は笑みを崩さぬまま。
「わたしを初めて見た人は、必ずそういう反応を示すので」
 当然だろう。
 亜加梨は思う。
 相談屋ケイジロウ。ケイジロウという名前からは、どうやったって男性しか連想できない。
「正確には、わたしはケイジロウじゃありません。ケイです」
「ケイ……つまり、ジロウさんという人が他にいるということ?」
「そういうことです」
 少女――ケイはうなずき、
「それで、ご相談の内容は?」
 その問いに、亜加梨は逡巡した。このような少女に自分の悩みを打ち明けていいものだろうか。
「信用できない、というなら別に構いません。わたしも暇な身ではないので」
 そう言って、去りかけるケイ。
「待って!」
 亜加梨は呼び止めた。
 よく考えれば、こうした少女の方が都合がいいかもしれない。あの人への復讐には。
 足を止めたケイに、亜加梨は、
「ある人に復讐したいの」
「ある人?」
 全てを見通すような笑みを浮かべたまま、ケイが尋ねてくる。促してくる。
 促されるまま、亜加梨は言葉を続けた。
「私を捨てた男に、よ」


 彼――高浜雄二はある会社の部長で、亜加梨はそこのOLだった。
 高浜と肉体関係を持ったのは、いつ頃からだっただろう。当時、別の男性と別れたばかりで傷心していた亜加梨は、高浜に誘われるまま何度か一緒に食事をした。高浜の優しい言葉にほだされ、いつしか肉体関係を持つようになった。
 彼は、こう約束してくれた。
 数年以内に、妻とは離婚する。そうしたら結婚しよう、と。
 そんな言葉を信じた亜加梨が馬鹿だったと言えばそれまでだが、当時の亜加梨は無垢にその言葉を信じた。騙されたと知ったのは、つい先日のこと。やはり、あの話はなかったことにしてくれ、と高浜が言い出したのだ。
 もちろん亜加梨は怒った。泣き叫んだ。浮気の証拠を社内にばらまく、とまで言った。
 それでも高浜は頑なだった。ばらまきたければ、ばらまけばいい、と言ってきた。
 結局、亜加梨は泣き寝入りするしかなかった。浮気の証拠をばらまけば、高浜だけでなく自分もダメージを被ることになる。そこまでの決心はつかなかった。
 むろん、高浜に対する恨みが消えたわけではない。いや、むしろ抑え込んだ分だけ、その恨みは根深いものになっていた。
 そんな折、ある噂を耳にしたのだ。どんな厄介事の相談にも乗ってくれる相談屋≠フ噂を。


「なるほど、それでわたしたちに」
 ケイはうなずいた。顔には、相変わらず薄く笑みが張りついている。
「だから、高浜に復讐をしてほしいの」
「お話は分かりました。ですが、それはわたしたち相談屋≠フ仕事ではありません」
「そんな!」
 思わず亜加梨は声を上げる。
「聞くだけ聞いておいて!」
「勘違いなさらないでください。わたしたちが直接手を下すことはできない、ということです。わたしたちはあくまで相談屋≠ナすから」
 それに、と。
 ケイは微笑んだまま、
「やはり復讐は自分の手で為し遂げた方が、すっきりするでしょう?」
「そうできれば、そうしているわよ!」
 先ほど言った通り、高浜に復讐しようとすれば、亜加梨の方もダメージを受ける。それに、いま亜加梨が近づこうとしても、高浜は警戒して寄せつけないだろう。
 亜加梨がそう言うと、ケイはこともなげに、
「なら別人になればいいんですよ」
 と言った。
 そして、ぱちんと指を弾き、
「ジロウ」
 その呼びかけに応えて、路地裏の闇の中から一人の男が姿を現した。痩身長躯で、鼻筋の通ったきれいな顔立ちをしていた。右手にだけ黒い皮手袋をしている。
 その右手を、男――ジロウはゆっくりと亜加梨の顔に伸ばしてきた。
 思わず、亜加梨の喉からひっと悲鳴が漏れる。
「大丈夫ですよ」
 ケイの声。
 その声に気を取られている間に、亜加梨の顔はジロウの手のひらにすっぽりと覆われていた。


 気がつくと、ジロウは姿を消していた。ケイが相変わらずの笑みを口元に浮かべたまま、こちらを見ている。
 震え声で、亜加梨は問うた。
「私に、何をしたの」
「はい」
 ケイが何かを差し出してきた。
 手鏡。
 それをのぞきこんだ亜加梨は息を飲んだ。
 そこには全く見知らぬ女性の顔があった。
「これで、あなたがその男に復讐するのに何の障害もなくなりましたね」
 ケイの声が、悪魔の囁きのように亜加梨の耳を毒で侵す。
「さあ、楽しんでください。復讐を」


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このストーリーに関するコメント

15/03/23 海見みみみ

るうねさん、拝読させていただきました。
こちらではケイとジロウが主役なのですね。
予想外のオチも見事でしたし、とても面白かったです。
このあと亜加梨はどう復讐を果たすのか。
それを考えると実に恐ろしいです。
まさにケイとジロウは悪魔のような二人組ですね。

15/03/23 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

亜加梨はどう復讐を果たすのか。
実は、全く先の展開は考えてなかったりします(笑)。
後の人に丸投げ。まあ、リレー小説ということなので。
こういう思わせぶりなことを書くのは得意です。
お読みいただき、ありがとうございました。

15/04/10 光石七

拝読しました。
“ケイジロウ”を“ケイ”と“ジロウ”に分けるとは、ユニークな発想ですね。
ジロウの能力には驚きました。
これからどのような復讐になるのか、見守るケイとジロウは何を思うのか。
これからお話が盛り上がりそうですね。

15/04/12 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

とりあえず、意外性が大事かな、と思いまして。
この場合、意外性のある展開というのはどういうものだろう、と脳内で会議した結果、じゃあ、ケイジロウ≠女の子にしてしまおう、というものでした。
そのままだと説得力がないんで、ケイ≠ニジロウ≠ノ分けてみたのですが、展開が盛り上がりそうと言っていただけて恐悦至極です。
お読みいただき、ありがとうございました。

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