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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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赤い雫に溶けたもの

15/03/22 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:12件 光石七 閲覧数:1439

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 一一〇番の声は弱々しかった。
「夫を殺してしまいました……」
現場のマンションで警官を迎えたのは美しい女だった。乱れた髪、血で赤く染まった服。青白い頬にも血が付着している。
 奥の部屋に男が倒れていた。目を開けたまま苦悶の表情を浮かべているが、本来は美男子だろう。腹部からの出血がひどく、床に大きな血だまりができている。傍らにボイスレコーダーと血のついた包丁が転がっていた。
 被害者は曽根亨、三十歳、IT会社役員。被疑者は妻の美鈴、二十五歳、専業主婦。夫婦に子供はいない。
 美鈴は取り調べに素直に応じた。

 ――はい、私が……刺しました。でも、殺すつもりじゃ……。亨さんが「殺してやる」って包丁持って迫ってきて、逃げようとしたけど捕まって、私、必死に抵抗して、揉み合ううちに……。慌てて包丁を抜いたんですけど、亨さんは倒れて動かなくなって……。それまでの恐怖もあったし、私、どうしたらいいのか混乱して……。
 ……夫は嫉妬深い人でした。付き合ってる時から「そういう肌が見える服は着るな」とか、「俺以外の男と口きくなよ」とか。でも、私はそれだけ愛されてるんだと思ってました。それに私、父の再婚相手と折り合いが悪くて、早く実家を出たかったんです。母は他界してますし。プロポーズを二つ返事でOKして、夫の望みどおり仕事を辞めて家庭に入りました。
 「経済的に不自由はさせない」という夫の言葉に嘘はありませんでした。でも、夫の嫉妬深さはエスカレートして。家に来た業者さんに挨拶しただけで「色目を使うな」って罵るんです。私が外出する時は、誰と一緒でどこに行くのか細かく聞いて、相手が女性じゃないと行かせてくれない。許可しても「何時までに帰って来い」って命令して。出先にも連絡してくるし、私の帰りが一分でも遅れたら怒鳴り散らして。さすがに一緒に暮らすのが辛くなりました。
 けれど、素直に離婚を認めてくれるような夫じゃないし、実家にも帰れない。思い余って、こっそり法律事務所を訪ねました。弁護士さんは「モラハラに相当するけれど、証拠があったほうがいい」と、日記や暴言の録音などをアドバイスしてくれました。証拠を確保したら家を出て、あとの対応や交渉は弁護士さんを通す形にするつもりでした。
 でも、隠してたボイスレコーダーをみつけられて、問い詰められて……。恐る恐る「別れたい」と言ったら引っ叩かれて、包丁まで持ち出されて、「別れるくらいなら殺してやる」って……。私、怖くて、夢中で――

 美鈴の供述に矛盾は無かった。現場には確かに争った形跡があったし、美鈴の友人は亨からの頻繁の連絡に美鈴が困っていたと証言した。美鈴が弁護士に相談していたのも事実だった。ボイスレコーダーには亨の罵声が録音されており、美鈴の日記も確認された。
「優しい亨がモラハラなんて信じられない」
そんな声もあったが、外面と家庭での顔が異なる人間は少なくない。
「美鈴は気が強いし、夫の束縛に黙ってるようなタイプじゃない」
そう話す者もいたが、社会的な人物評価がそのまま夫婦関係に当てはまるとも限らない。亨のモラハラの証拠は揃っている。
 美鈴の行為は正当防衛とみなされ、不起訴処分となった。

 新しい住居で美鈴は一人ワインを開ける。
「モラハラ逆ギレ夫。なかなかのネーミングだわ」
ワインをグラスに注ぐ。
「事実無根だって、あの世で怒ってるかしら?」
美鈴はグラスを持った。
「亨さんが悪いのよ。あんな写真を……」
美鈴は幼い頃から自分の容姿に自信を持っていた。自分より美しい女など周りにはいなかった。美貌ゆえにハンサムで経済力のある亨とも結婚できた。ところが、一枚の写真に美鈴は衝撃を覚えた。
(私より美人……)
亨が大学祭で女装した時の写真だった。亨は風貌も体型も学生時代と変わりはない。
(私より美しい人間が隣にいる)
美鈴は亨を憎み始めた。亨の存在が許せなかった。別れたところでこの劣等感は消えない。だから殺したのだ。亨に汚名を着せ、自分は無罪放免となる方法で。
 外出中の電話やメールは美鈴が予め亨に頼んでいたものだ。「話の長い友人だから切り上げる口実が欲しい」と言って。友人や弁護士の前では夫の束縛に悩む妻を演じ、亨の言動で傷ついた旨の嘘の日記を綴り、演劇ごっこを装って亨に暴言台詞を喋らせ……。周到に準備したうえで美鈴は凶行に及んだ。何も知らない亨に「プレゼントがある」と目を瞑らせ、正面から刺したのだ。更に刺そうとする美鈴に、抵抗する亨。共に着衣や髪が乱れる。ほどなく亨は失血で死亡した。美鈴は後の警察での供述を考え、注意深く現場の状況を整えた。ボイスレコーダーには亨も演劇ごっこの際に触れている。そして美鈴はか細い声で警察に通報したのだ。
「私が一番美しいの……」
美鈴はゆっくりとワインを喉に流し込んだ。


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このストーリーに関するコメント

15/03/22 海見みみみ

光石七さん、拝読させていただきました。
まさかのどんでん返しに驚きです!
このオチは凄いですね。
何より美鈴の嫉妬心が恐ろしい!
自分より美しい存在が許せないということは、これからもそういった存在と出会う度に犯罪を繰り返していくのでしょうか。
まったく嫉妬の心ほど怖いものはないですね。

15/03/23 タック

光石七さん、拝読しました。

女装夫に嫉妬する妻……という構図が背徳的ですごく胸がゾワゾワしました。相手が男である、というのが女性に女性が嫉妬するよりも何か仄暗いものを感じさせますね。面白かったです。

15/03/25 滝沢朱音

わー、怖い!!!特に最後のセリフ!
最初から最後までノンストップで読んでしまいました。
ミステリーな掌編、とても面白かったです。

15/03/25 光石七

>海見みみみさん
コメントありがとうございます。
ええ、美鈴の嫉妬はとても深くて恐いです。そのつもりで書いてます(笑)
おそらく、今までどんな女性に出会っても「私のほうが美人よ」と見下していたのでしょう。初めて敗北感を味わった相手が男、しかも夫ということで、嫉妬が冷徹なねじれた暴走をしたのではないかと。
楽しんでいただけたようで、よかったです。

>タックさん
コメントありがとうございます。
女性に負けるよりも屈辱的で、心がねじれて歪むのではないかと、夫の女装姿への嫉妬という形にしました。
話の展開は強引ですし、「美鈴も亨も一体どんな容姿やねん!」と自分で突っ込みたくもなりますが(苦笑)
面白かったとのお言葉、うれしいです。

>志水孝敏さん
コメントありがとうございます。
かなり強引にまとめてしまいましたが、お褒めの言葉を頂き、恐縮です。
嫉妬する相手も普通はほぼありえないですよね。夫婦してどんだけ美男美女なんだよ、という……(苦笑) 写真を見るまでは美鈴が自分の美貌に絶対的な自信を持っていたのは確かだと思いますが。
楽しんでいただけたようで、うれしく思います。

>朱音さん
コメントありがとうございます。
怖かったですか。私も美鈴が怖いです(笑)
「最期の台詞でぞっとしていただければ……」と思っていたので、そこに触れてくださりうれしいです。
楽しんでいただけてよかったです。

15/03/27 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

前半、このままストレートにお話がすすむわけないだろうと思いましたが
まさか夫の美しさに嫉妬していたとは意外性があって驚きました。
白雪姫に出てくるお妃の上を行ってますね(笑い)

15/03/28 冬垣ひなた

光石七さま、拝読しました。

美しさは罪とは言いますが、後半の展開にゾクゾクしました。
亨もナルシストに思われますが、美鈴はその斜め上を行きますね。
無実の夫に汚名を着せるエゴイズムぶりが、ホラーチックでとてもいいと思います。

15/03/28 水鴨 莢

読ませていただきました。
これなら真相を明かすのは残り二、三行以内でもよかったんじゃないかとか思ってしまいました。
なんか、本当しっかり書かれている作品でしたので、余計に。
でもそれだと雰囲気が笑い話にも寄っていって、余韻の形も変わってしまい、それで終わるのをよしとする人としない人でも分かれそうな気もしますし、これはこれでいいのだなと思いました。
すいませんツッコミ気質なもので、どうしてもこういう感想になってしまうのですが。

とにかくここまで現代の現実感のある舞台を整えられる文章力は見習わねばと思いました。

15/03/29 光石七

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
ひねりが足りないかなあ、という不安もありましたが、驚いていただけてよかったです。
同性に嫉妬した分、白雪姫のお妃はまだ健全なのかもしれませんね(笑)

>冬垣ひなたさん
コメントありがとうございます。
ゾクゾクしていただけましたか。うれしいお言葉です。
たかが一枚の女装写真でここまでするか、という狂気じみたものを出したかったので、そこを汲み取ってくださり感謝です。

>リュウの助さん
コメントありがとうございます。
冷静になって読み返してみると、結構細かい穴や矛盾があってお恥ずかしい限りです……
実際はそう簡単に不起訴にはならないでしょうし、警察を欺けるほどの偽装工作は難しいと思います。
動機がメインということで(苦笑)楽しんでいただければ幸いです。

>水鴨 莢さん
コメントありがとうございます。
ツッコミ、大歓迎です。自分では気付かないことが多いので。
オチをもっとスマートにしたいという思いもあったのですが、現場の状況・供述と真相の対比も必要ではないかと思いまして。でも、中途半端な記述になってしまった感があります。
ある意味笑える動機だという自覚もありましたが、笑いと怖さ、どちらに比重を置くかも曖昧でしたね。
ご指摘は的を射ていると思います。
真摯なご意見、本当にありがとうございます。よろしければ、今後もよろしくお願いいたします。

15/04/01 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

ワワワー、こわ!! 美しさって美人さんほど固執するものなのでしょうね。ああ、でもでも、このオチ、ずっこけました。怖いけれど、笑えます。たぶん引き攣った笑いでしょうが……。面白かったです。

15/04/01 光石七

>草藍さん
コメントありがとうございます。
オチで笑えばいいのか、怖がればいいのか、中途半端な描写ですみません(苦笑)
少しでも楽しんでいただけたのでしたら、うれしいです。

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