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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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お隣はユートピア

15/03/15 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:6件 冬垣ひなた 閲覧数:1339

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小さい頃からお隣の借り物で暮らしていた。警察、消防署、学校、バスは一時間に一本、コンビニも病院もない。
そうそう、自然は豊富にある。山林の維持はボランティアだが、それもいつまで続くか。
役場で働く二十代は俺一人。
そして……村は、もうすぐ消える。

「今更、S市と合併とか言われてもなぁ」
広報室長は呟き、俺はワゴン車の中で反論した。
「でも村議は反対だし、村長もまだ判は押していない」
村を通る私営バスの本社はS市にある。ライフラインであるその路線が切られるという話が、今持ちあがっていた。
「うちの路線、観光客は多い。あり得ませんよ」
「痛い交渉カードを切られたな」
ワゴン車は今、S市内の駅前を走っている。パチンコ屋やCDショップを始め、便利な店がひしめき合い人の流れが出来て、まるで大河のようだが、俺の眼には何だか澱んで見えた。
S市は恩人だ、そう言われて育って来た。しかし大人になって見えたものは、貪欲なビジネスマンの群れだった。彼らは宅地開発に成功したA市を妬み、N村の財源である山を切り開こうと目論んでいる、そんな状況だ。
この街は整備され、活気づき、人々は豊かに暮らしているように見えた。彼らはこれ以上、何が欲しいというのだろう?

ワゴン車が辿り着いたのは、S市民ホールだった。たなびく横断幕には、『S市民祭り〜ご当地キャラ大集合!』の文字が輝いている。
「臼井、しゃきっとしろ」
支度を終えた俺は、臼井ではない。みもっちだ。村の宝・深本山をモチーフにした、低予算でとてもダサ……いや、兎に角、俺の演技力を持ってしても如何ともしがたい着ぐるみだ。
ホール内は屋台が立ち並び、家族連れで溢れかえっていた。みもっちは歩きづらいので、その中を室長が先導する。しかしこのホール、空調に金かかってるな。
一時間ほどの挨拶をこなし、休憩タイムを挟んで、また子供たちに囲まれる。村の分校は今や一学年二桁を切っている。いずれ村がなくなるのは明らかだ。この子供達が村に来てくれれば……。
ああ、ハーメルンの笛吹き男になりたい。そう思った時だ。

急に場内の電気が消え、スポットライトが輝き、俺はただ、その中で目が点になった。
「皆さんに素敵なお知らせがありまーす。S市はN村と一つになります。嬉しいですねー」
え?
「みもっちがみんなのお友達になるんですよー」

何、それ……。
俺は頭が一気に真っ白になった。室長はそんな俺を置いて、主催者席に駆けていく。
俺の前にもう一つのスポットライトが当たり、S市のスーみんが大きな花束を手に持ち、スキップで歩いてくる。
反響する拍手喝采が耳にこだましたが、俺は聞いちゃいなかった。
……本当は、エレベーターが欲しかった。
老人が、役場の二階に上がるのにいつも難儀していた。「わしらが、もっとしっかりしておったら」、背が曲がるまで働いて、村を支え続けてくれた老人がそう呟く日常に。
生まれながらに享受した富で郷土愛を謳い、当たり前のように文句を言って、ぬくぬく暮らしている奴らに何が分かる?困った時に助け合うのが友達だよな?
だったら、今すぐ寄越せ、その夢にまで見たアメニティーを!
俺は一歩前に出て、場内が一瞬にして静まり返った。

大乱闘の始まりだった。
花束は、床に叩き伏せられ、ぐちゃぐちゃに散らばった。
そして、俺はスーみんに掴みかかろうとしたが、悔しいかな手が届かない。俺のポカポカと殴るジェスチャーに、Y市のやっくんが止めにかかった。そこに何故かH町のはなまるが体当たりする。
「いけー、そこだっ!」
予定の演出と思われたのだろう、熱い歓声が飛び交う。
後で聞いた話によると、彼らにも殺伐とした相関図があったらしい。彼らの手足はどれも短く、乱闘の真似事しか出来ないのは不幸中の幸いだった。
俺はスーみんを追いかける。
逃げるスーみんは主催者席に飛び込んで身を潜めようとしたが、大きすぎて意味がない。しかし俺はと言えば、そのずっと手前で転んで、起きあがれずにもがいていた。
無様な幕切れだ。
室長には大目玉を食らったが、そもそも合併決定の話は誤報で、俺はそれ以上罪を問われず、騒ぎはうやむやに終わった。

しかしこの騒ぎは、村の在りように一石を投じた。
現在、村長はコミュニティバスを検討していると言うが勿論はったりで、丁々発止の交渉はまだ続いている。
「若いの、投了はまだじゃよ」
役場の階段を上がる老人にそう声をかけられ、俺は深く頭を下げた。
山の色づく頃、二人きりの広報室は総力を挙げてS市の駅前でマス釣りキャンペーンを行った。やっかんでいる場合じゃない、大攻勢だ。春一番に高鳴る心の笛は、俺自身を虜にする。
何もないかもしれないけれど、本当にいい所なんだ。
遠慮しなくても、こんなに近くにあるんだよ。
S市も羨む桜の季節は、もうすぐだ。


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このストーリーに関するコメント

15/03/15 海見みみみ

冬垣ひなたさん、拝読させていただきました。
素晴らしいお話ですね!
今回のコンテストの中でもキラリと輝く作品だと思います。
過疎化で消滅寸前の村。
その村を背負って立つご当地キャラみもっち。
ご当地キャラの大乱闘シーンは笑いと共に切なさがありました。
嫉妬というお題でここまで爽やかなお話が書けるのか。
読了後とても良い気分になりました。

15/03/17 冬垣ひなた

海見みみみさま

コメントありがとうございます。
お褒め頂き恐縮です。写真は奈良の吉野山ですね、N村は大阪にモデルはありますがフィクションです。
棚田や水仙畑もあっていい村です。残って欲しいなぁという個人的な想いを含めて書きました。
今まで読者は身内知人だけだったので、オンラインをこの方向性でいいのか不安でしたが、自信が付きました。感謝します。

15/03/25 滝沢朱音

笑った、途中から笑いました…!
みもっち、スーみん、やっくん、はなまる。
ゆるキャラたちによる、大人の事情の代理戦争?!
「遠慮しなくても、こんなに近くにあるんだよ」の一言が深いですね。


15/03/27 冬垣ひなた

滝沢朱音さま

コメントありがとうございます。

ゆるキャラにも恋人同士とか大人の事情満載の裏設定があったりします。そういうのを険悪化したらどうなるんだろう……とか思いまして。
でも結局、どこまでいってもゆるくほのぼの(笑)、笑ってもらえて良かったです。
近くて遠い理想郷、心の垣根がなくなればいいですね。

15/03/28 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

都市部への人口流出、過疎化の進んだ村はいずれ廃村になるという
現代日本のどこかにありそうなお話を描いていて現実感が感じられました。
自然しかないような村でも、いえ、もしかしたら、そんな村だからこそ、
まだまだやれることはあるという前向きな最後に
みもっちがんばれ♪ と応援したい気持ちになりました。

15/03/31 冬垣ひなた

コメントありがとうございます。

N村のひとたちが目指すのは、同じ理想卿でも管理的なユートピアではなく、自然豊かなアルカディアなのだろうなと思います。
その言葉が出てこず、書いている間はうんうん唸ってましたが……(苦笑)。
こうして頂くコメントで勉強させていただいていることに、改めて感謝します。
臼井に後継者が出来る位、みもっちには頑張って欲しいものですね。

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