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密家 圭さん

読んで下さる皆様ありがとうございます。 耽美派の綺麗な文体で幻想的なファンタジーを書けるようになりたいです。 ツイッターをやっているのですが友達が増えず放置気味なので、皆様どうぞ適当な気持ちで遊びに来てください。

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いつか、星空をこえて

12/07/16 コンテスト(テーマ):第十回 時空モノガタリ文学賞【 自転車 】 コメント:2件 密家 圭 閲覧数:1634

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ーー自転車にのれなくたって、困らないよ……!
 寝返りをうつと、青あざが痛んだ。たくさん転んだのに、自転車に乗れるようにはならなかった。
もう練習なんかしたくないなぁ……
 暗くて見えないけれど、窓の外にある自転車へ目を向ける。すると、自転車のある辺りに、ぼんやりとした影のようなものがあった。
誰かいる……!
ベッドから飛び起きて見ていると、影がひらりと手まねきした。ふしぎと怖くはなかったので、両親が気づかないように窓からそっと抜け出した。

 青白い影は、同じ歳くらいの男の子だった。
「これに乗りたいんだけど、僕じゃあ乗れないんだ」
影の子は自転車を指さして言った。
「ぼくだって乗れないよ」
「乗れるよ。僕が手伝うから、乗せておくれ」
 いいなんて言ってないのに、影の子は後ろの荷台に横座りした。
「転んでもしらないよ。おこらないでね」                      
「怒るもんか」 
 おかしそうに笑われながら、自転車に乗った。たおれるのがまだ怖くて、ギュッと目をつむりながらペダルをふむ。
「もう目を開けてごらんよ」
  ゆっくり目をあけると、自転車は空を目ざして進んでいた。
「ぼくたち浮いてるの?」
「うん。僕は星空の向こうに行きたいんだ」
 影の子は楽しそうに言った。
  
 どんどんこいでいくと、まわりにある星の数が、1こ2ことふえていった。空のてっぺんまでくると、金色や銀色の星でできた川があった。
「いつもここからが駄目なんだ。星屑に足をとられて、全然進めなかった」
 影の子がぽつりと言った。
「ここまで何回も来てるの?」
 いつもという言葉が気になって、影の子に聞いた。
「今日が100回目さ。駄目だったらまた来るよ」
「今日は大丈夫だよ。ぼくがぜったい渡ってみせる」 
 影の子は99回も、暗い夜にたった1人で挑戦したんだ。今日はちゃんとこえてほしい。ぼくはペダルを思いっきりふんで、川べりにタイヤをすすめた。
「うわ……!」
 水面をすべるみたいに、すうっと自転車がすすんでいく。星たちがおどるようにはねて、たまに頬やうでにあたった。あたった星は、炭酸水みたいにはじけて、金ぴかの星くずになった。
 金や銀、ときどき水色、黄色の星が横ぎった。その星たちを見ていたら、野原みたいに広がっていた川も、あっという間にわたっていた。
「ほら、ぼくたちちゃんとあの川をこえたよ」
「そうだね」
 影の子はすとんと荷台をおりて、ぼくの横にきた。青白かった彼は、いつのまにか金色に光っていた。彼は、少し寂しそうに笑った。
「ありがとう。……ここでお別れだ」
 目が飛び出るくらい、びっくりして彼を見る。
「なんで? ぼくまだつかれてないよ」
 まだまだこげると言っても、彼はだまって首をふった。
「月の梯子が消えてしまう。そうしたら君は帰れなくなるんだよ」
 まんまるの月を指さして、彼はきびしく言った。一番の友達がすごく遠くへ転校するみたいで、ぼくは寂しくなった。
「もう会えないの?」
 ぽろぽろと涙が出て、とまらない。しゃくりあげるぼくの頭に、彼はそっと手をおいた。
「いつか自分の力でこの星空を越えておいで。そうすれば会える」
「ほんとう?」
「本当さ。……さあ、もう行きな」
彼が右手をあげると、ぼくの自転車がふわりと浮き上がった。月の方へくるりと自転車が向きを変える。後ろを振り向くと、彼はこっちを見ることなく、どこかをめざして歩いていた。
ばいばい、また会う日まで。ぼくの大事な友だち
彼に心のなかで声をかけ、ぼくは月に向かってペダルをこいだ。
 月までいくと、光がはしごみたいに地上へのびていた。光のすじにそってすすむと、ゆったりした坂道みたいに自転車がすべっていった。ぼくの家は米つぶくらいから、豆つぶくらいの大きさになった。自転車のタイヤが地面にふれたとき、豆つぶくらいにしか見えなかったぼくの家は、いつもどおりの大きさで、ぼくのとなりにあった。ぼくは帰ってきたんだ。自転車をおりたとたん、まぶたがとても重くなった。

 朝になると、ぼくはいつもどおりベッドで寝ていた。夢だったのかな、なんて思いながら、窓の外を見た。自転車は、昨日見た星のように、ぴかぴかと光っていた。ご飯を食べたら、また練習に行こう。いつかまた、あの星空をこえるために。


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このストーリーに関するコメント

13/01/25 ねじばな

haruさん

拝読しました。
星空を自転車で駆け抜ける、その不思議な光景を想像すると少年のペダルを懸命に漕いでいる姿や優しい気持ちを感じてなんだかあたたかな気持ちになりました。お別れは、いつも寂しいですが、また二人が出会えたことを信じています。

13/03/04 密家 圭

あたたかいコメントをありがとうございます。
これからも精進して参りますのでどうぞよろしくお願いします!

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