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15/03/10 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:1件 佐屋 閲覧数:926

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時計の針は午後2時をまわり、清廉、貞淑を謳うこの学園に、深い鐘の音が響く。私はひとり、彼女の教室へと向かった。

事前に調べていた通り、そこには誰もいない。締めきられたクリーム色のカーテンを透してさしこむ陽光が、室内をやわらかくそめている。隣の教室から、黒板になにか書くような音がちいさくこぼれるばかりで、天井からはらはら落ちてくるほこりも、光をあびて氷の結晶のようにひそやかにひかった。まるで神聖な儀式を待つかのように、教室はしんとしずまりかえっていた。

彼女の席は窓側から2番目の列、制服が机の上にていねいにたたまれ、置かれていた。

私は迷いなくそこに向かう。そしてそっと、その制服を手に取った。ひらひらと、リボンが落ちる。スカートは、かろやかな手触りがした。ひとつひとつのひだを、しわひとつつけないように指でやさしく扱いながら、私はそれを持ち上げて陽に透かす。風もないのに、かすかにゆれている。

そうして、しばらく眺めた後、わたしはスカートのポケットに手を差し入れた。そこには、目的の、プラスチックの無機質な感触があった。安堵したような、緊張したような、ひどく妙な気持ちがする。一瞬息をついて、それをポケットから取り出した。

それは、緑のロゴが入った、どこにでも売っているような、リップクリームである。指先でつまんでみると、彼女の手にはちょうどいいが、私にはすこしちいさい。ロゴが若干はげている。ふたをとって、くるくるまわすと、はっかのにおいがした。それは確かに、なんの代わり映えもない、ごく普通のリップクリームなのである。ただひとつ、それが彼女の持ち主であることをのぞいては。

            

リップクリームを自分のジャケットのポケットにおさめ、もとあった通りにていねいに制服を戻し、私はしずかに教室を出る。

廊下を歩きながら、彼女の唇が、かわいて、血を流す様子を想像する。彼女のかわいたそこに、彼女のものであるそれを、なに食わぬ顔で、まるで親切のようにぬりこめた時、果たしてどんな気持ちがするだろう。このあまりにささやかな報復は、しかし私にはくらくら酔ったような感覚がして、ゆるやかに一日がおわりに近づく午後、すべてのものはきよらかに私をつつむ。


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このストーリーに関するコメント

15/03/10 海見みみみ

拝読させていただきました。
なんとささやかで、恐ろしい報復なのでしょう。
この耽美な雰囲気さえ感じさせる報復。
目的を果たして主人公はどのような気持ちになるのか。
嫉妬というものにはこのような艶やかなものもあるのですね。
独特の空気に短い作品ながら酔うことができました。

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