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となさん

性別 女性
将来の夢 毎日ハッピーに過ごすこと
座右の銘 Day by day in everyway,Im getting better and better. 毎日毎日、あらゆる面で、僕はどんどん良くなっている。 12番目の天使という小説から。 落ち込んだ時、辛い時、この言葉を思い出して頑張っています。

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エンゲージリングを貴女に

15/03/09 コンテスト(テーマ):第七十七回 時空モノガタリ文学賞 【 渋谷 】 コメント:2件 とな 閲覧数:832

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アンティーク調のドアを開けると、掛けられたベルがカランと鳴った。
渋谷と原宿の間に位置するこのカフェは、半年ほど前から私たちのお気に入りだ。
ぐるりと店内を見渡すと、待ち合わせの人物は窓際の席でメニューをじっと見つめていた。
――あれは、悩み事をしている時の表情だ。
里香は悩み事をしている時、右の眉がほんの少しだけ下がる。
遠くからでも表情が読み取れてしまう自分に半ば呆れながら、近寄って声をかける。
「お待たせ。何を悩んでいるの?」
ぱっと顔を上げた里香は「そんなに待ってないよ。」と言ってメニューを差し出した。
「キッシュとパスタ、どっちにしようかなぁ。日替わりキッシュはサーモンとクリームチーズだって。でも菜の花のパスタも美味しそうじゃない?」
言いながら唇を尖らせる。これも里香が悩んでいる時の癖だ。
「私はパスタ頼むから、里香はキッシュにしなよ。半分こしよう。」
私がそう言うと、里香は嬉しそうに店員を呼びとめた。

***

「そういえば、あのニュース見た?」
オーダーを終えた里香が、メニューをテーブルの端に立てかけながら私に尋ねる。
「あのニュースって?」
「渋谷区が同性婚を認めるっていうニュースだよー。」
「あぁ、あれね。」
正式には“結婚に相当する関係と認める”だったか。
ネクタイを締めたコメンテーターが夜の情報番組で特集を組んで解説していたのをぼんやりと思いだした。
「ねぇ。私のこと、貰ってよ。」
ごくり、と水を嚥下した音がやけに大きく響いた。
綺麗にアイラインを引いた大きな瞳が、じっと私を見つめてくる。
里香の表情が真剣で、ひんやりとした汗が背を伝った。
何と答えればいいのか必死に考えたせいで、頭の奥がグラグラする。
「彼氏に振られて寂しいからって、私を頼りにしないでよね。」
「由紀ちゃん厳しいー!一世一代のプロポーズなのにー。」
拗ねたふりをして里香が笑ったので、私も笑った。
――良かった、正解だった。
カラカラの喉を潤すように水を飲み干すと、幾分か冷静さを取り戻せたような気がした。
笑う里香を見ながら、テーブルの下で中指の爪を親指の付け根に食い込ませる。
悲しむな、苦しむな、いつも通り笑え。
――私は、里香の親友でいると決めたのだから。

***

「お待たせいたしました。ランチのキッシュとパスタです。」
「わぁー!美味しそう!」
里香が運ばれてきた料理に歓声を上げる。
店員が「ありがとうございます。」と笑いながら、私と里香の前にお皿を並べた。
かごに入ったカトラリーを分けながら、こういう素直な反応好きだな、と思った。
きっと店員も、率直に褒められて嬉しいに決まっている。
「ねぇ。さっきの店員さん、イケメンじゃなかった?」
里香がカトラリーを受け取りながら、声をひそめていたずらっぽく私の耳元で囁いた。
――さっき、私に“貰って”と言ったのは誰だ。
そう心の中で毒づきながら、店員を盗み見る。
里香の言う通り、爽やかな好青年で黒のシンプルなエプロンが良く似合っていた。
「イケメンだけど、私はタイプじゃないな。もっと可愛い系が好き。」
「そう?由紀ちゃん、意外と年下好きだったりする?」
「年上か年下かって言ったら年下派かな。」
「えー。私、絶対年上がいい。甘えたいもん!」
ナイフでキッシュを切り分けながら、楽しそうに笑う。
「でも、由紀ちゃんが甘やかしてくれるなら、彼氏は要らないよ。」
何と答えればいいのか分からず、私は黙って付け合わせのサラダにフォークを刺した。

***

好きになったきっかけはもう思い出せない。
一時の気の迷いというには長すぎるほどの時間を、友情というには重すぎるほどの感情を、私はずっと持て余している。
――本当に貰ってほしければ、家族も友人も、全部捨てる覚悟で来い。
そうしたら、里香の薬指にぴったりのエンゲージリングを贈るから。


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このストーリーに関するコメント

15/03/09 海見みみみ

拝読させていただきました。
何とも切ないお話ですね。
一方通行の思い。
しかもそれが同性愛というのがまた切なさに拍車をかけていますね。
いつか二人が結ばれる日がくるのか。
想像が広がります。

15/03/11 とな

海見みみみ様
片思いで一番辛いのは「自分の気持ちを伝えられないこと」だと思います。
なので、あのニュースで少しでも勇気を出せた人がいたらいいなぁ。
そんな気持ちで書きました。切なさを感じ取っていただけて良かったです!
コメントありがとうございました!

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