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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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夜空をふるわす咆哮

15/03/09 コンテスト(テーマ):第七十九回時空モノガタリ文学賞 【 通学路 】 コメント:8件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1167

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 新説というより、珍説というべきだった。
 ただ、それをいったのが世界的古生物学の権威、山川博士だけに、だれも笑うものはなかった。
 四億年も栄えた恐竜が、ただ捕食と生殖のみに生きていたとはどうしても思えない、ではなにをしていたかというと、人間をはるかに超えた高度な進化をとげていたのだと博士は唱えたのだ。
「だけど、あなた」
 と妻の七海が、ほかのものならまずいえない質問を、夫になげかけた。日曜日の夜、居間で二人、お茶をのみながらくつろいでいるときのことだった。
「世界でみつかった化石をみるかぎりでは、恐竜ってみな、獲物を捕らえるために進化したとしか思えない獰猛な姿をしているようだけど………」
「それらの化石の数が、いったい当時繁栄した恐竜の何割にあたるか、きみは考えたことがあるのかい」
「微々たるものということはわかるわ」
「まあそりゃなかには、化石どおりの恐竜もいただろう。私がいうのは、それ以外の連中のことなんだ。―――これは見たことがあるだろう」
 と博士は、ついこの間日本の中国地方で発見された、岩場についた恐竜のものと思える無数の足跡の画像を、パソコン画面に映し出した。
「もちろん。こんなにたくさんの足跡なんて、そうあるものじゃないわ」
「足並みは、しごく整然としている。まるで列を組んで歩いているみたいじゃないか」
 七海はパソコン画面に顔をちかづけた。
「そういわれれば、どの足跡も、なにかに向って歩いているって感じね」
「どこに向ってると思う?」
「そんな何億年も昔のことが、私にわかるわけがないでしょう」
「学校だよ」
 七海は、ミルクティーを喉につめて咳こんだ。
「あの岩場は通学路というわけ」
「信じてないのか」
「恐竜が学校に行くなんて………」
「それじゃこれは、なんと説明する?」
 新たな画像を博士は映しだした。
 それは、なかば直立した姿のやはり恐竜の化石だった。背中に何かを担いでいるような恰好をしていて、肘をまげた腕の先にある角ばったもののうえに、頭をうなだれているような形で固まっている。
「これが、どうしたの?」
「このスタイルをみて、わからないかい。ほら、われわれが小学生だったころ、必ずといっていいほど学校にあった像をおぼえているだろ」
「………二宮金次郎のこと」
「そうそう。この恐竜は感心にも、歩きながら読書をしているときに、なんらかの事情で沼にでもおちて底の泥に埋没し、そのまま時をへて化石になったにちがいない。かれら恐竜たちは、我々人間になどはるかにおよばない高度な科学力を、四億年をかけて築きあげたのだ」
「あなた、それはいくらなんでも突拍子すぎるんじゃない。仮にそうだったとしても―――ああ、ばかばかしい―――恐竜たちは、地球に衝突した隕石のまえになすすべもなく滅びてしまった。いくら高度な科学力でも、なんの役にもたたなかったということね」
 妻の反論にも、博士は落ち着いたものだった。
「人間がだね、このまま戦争にも、天変地異にもみまわれずに無事、四億年生き延びたとしたら、科学はそれこそ想像もできないくらい飛躍的な大進歩をとげることだろ。恒星間飛行なんか朝飯まえだし、きっと時間旅行だって楽々やりとげているにちがいない」
 そこまできいて七海は、四十年にわたる結婚生活の勘というやつで、夫のいわんとしていることを先読みした。
「隕石が地球に激突するまえに、タイムマシンで未来の世界にジャンプしたというの。あんな姿でいったいどの時代に移動するの?」
「いうまでもなく、この世界にさ。四億年の進化は恐竜を、人間にちかい姿にすでに更新していた可能性がある。人体は、知的生命体のひとつの到達点だからね。そしてまだ突出した知能をもった生物のいない時代にきたかれらは、賢明にも、環境に順応するためすべてをリセットして、1から再出発をはかったものと思われる」
「もしかしてあなた、人類の起源は、隕石をのがれて時間移動した恐竜たちだといいたいんじゃない」
 さすがに七海はあきれかえった。ここまできてはもはやとても夫の話についていけなかった。
「ごめんなさい。ちょっとはずすわね」
 彼女は外の空気にふれるために、ベランダに出た。
 夜風が、彼女の髪をなびかせた。
 空に、巨大な月が浮かんでいる。彼女はいつものように、みせられたように月をあおいだ。
 するとふいに、全身をつらぬく強いパワーを感じて身をおののかせた彼女は、喉の奥からこみあげてくる衝動につきうごかされて、空気が筒の中をぬけるような、低くて太い声をあげていた。それは、はるか太古からきこえてくるような、野生の咆哮のようで、現存するどんな生き物のものともちがっていた。
 月をみると必ずといっていいほど起こるこのいわれのない愉悦の瞬間を、七海はまだ夫にも話したことはなかった。


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このストーリーに関するコメント

15/03/09 海見みみみ

拝読させていただきました。
まず通学路というテーマからここまで飛躍できる発想力に感嘆です!
恐竜が高度な文明を持っていた、ロマンあふれる設定ですね。
オチもお見事!
七海の正体を知ったら博士は驚くか、それとも喜ぶか。
どちらにせよ面白いことになるでしょう。
読んでいてとても面白かったです。

15/03/09 水鴨 莢

読ませていただきました。
個人的にオチはそれほどでもなかったのですが、でもそこにいたるまでがとにかく面白かったの
でもうこれどう終わってくれてもいいなーってなってました。
良い意味で、このおっさんアホだな、みたいな説を披露し始めちゃうストーリーって好きです。
どんな無茶な話でも創作であるかぎり、作中ではそれが本当になるかも知れませんし、そこらへ
んですごくワクワクしてしまいますから。

こういう、恐竜は実はこうだった、みたいな話って既存でもいくつかあると思うんですけど、でも
この作品は「学校」行ってたって言うところがもう、良いです。
なんかまず知能が発達してどーたらとか言い始めるより先に、「学校」行ってた、のこのインパクト。
いや面白かったです。

15/03/09 W・アーム・スープレックス

海見みみみさん、コメントありがとうございました。

荒唐無稽もはなはだしい内容を、ロマンあふれる・面白い、といっていただけて、なによりです。
恐竜がもし滅びずに進化をつづけたら、どんなふうになっていたか、それを考えだすといつも興味がつきません。

15/03/09 ナポレオン

W・アーム・スープレックス様
拝読いたしました。
二宮金次郎の下りで爆笑しました。オチも予想外でなかなか面白かったです。
ただちょっと通学路というテーマが薄いような気もしました^_^;

15/03/09 W・アーム・スープレックス

水鴨十一さん、コメントありがとうございました。

恐竜が学校なんか行くかといわれればそれまでですが、水鴨さんのようにインパクトとともに受け入れていただけると、本当にうれしい限りです。
「どんな無茶な話でも創作であるかぎり―――」おっしゃるとおり、創作であるかぎり、どんな無茶でもゆるされるのがこの世界のような気がします。
私ももっと、これから無茶な話を書くよう努力したいと思います。

15/03/09 W・アーム・スープレックス

ナポレオンさん、コメントありがとうございました。

たしかに、テーマの通学路からは、はるかに遠くかけ離れて、足跡だけになってしまいました。
爆笑していただいて、こちらも喜んでいます。

15/04/07 光石七

拝読しました。
すごい新説ですね(笑) 恐竜が学校に通ってて、二宮金次郎的な恐竜もいて、人間に近い姿でタイムスリップ。その発想に拍手です。
そして七海さん…… やはり博士の仮説は正しいのか?
面白かったです。

15/04/07 W・アーム・スープレックス

光石七さん、コメントありがとうございます。

実際、化石にのこっているのはほんのひとつまみで、まだまだ未知の恐竜がいっぱいいたという事実は、後世の我々の想像力を、いろいろとかきたててくれます。
なかには、二宮金次郎のような勉強家がいたのではないかと、そんなとことん好き勝手なことが書けるのも、はるか太古の昔に、かれら恐竜族が君臨していてくれたおかげだとおもいます。

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