1. トップページ
  2. 線香花火

汐月夜空さん

切ない話が好きな空想好きです。 なんでもない日常がなんでもある日常に変わる物語を読んだり書いたりするのが特に好きです。 ブログの方でも小説やエッセイ、ネタなどを書いておりますので、よければどうぞ。 twitterの方は私生活も含めて好き放題呟いてますので、汐月夜空のことが気になる方フォローお願いします。 ブログ:http://ameblo.jp/shiotsuki-yozora/ twitter:https://twitter.com/YozoraShiotsuki

性別 男性
将来の夢 物書き
座右の銘 日々前進

投稿済みの作品

0

線香花火

12/07/16 コンテスト(テーマ):【 花火大会(花火) 】 コメント:6件 汐月夜空 閲覧数:1643

この作品を評価する

 毎年お盆は、妻と私と8歳になる娘の幸の三人で家でのんびり過ごすことにしている。
 今年のお盆も13日の夕方に、庭先で取れた新鮮なキュウリで精霊馬を作って、乾燥した麻の茎で迎え火をすることから始まり、16日の今日まで家族団欒の日々を過ごした。
 毎年のことながら、今年のお盆も地味ながらも楽しい毎日だった。
 14日は真夏日で風もなくうだるような暑さの軒先で、お風呂で冷やした今年初めて庭で育てた小玉スイカを口いっぱいに頬張った。「美味しいね、お母さん」と言う幸の笑顔を見るのが幸せだった。
 15日は扇風機を回した居間で、幸が学校の宿題で書いた『お母さんへ』と言う題の作文を読み上げた。私と妻は涙が出るほど喜んだ。二人の愛の結晶が、その名前通りに成長していることを感じていた。
 今日は三人で比較的涼しい午前中の内に庭いじりをした。大洋の光を目いっぱい浴びてたくましく育った、トウモロコシやナス、キュウリなどの夏野菜を収穫した。すっかり黒くなった私の肌や、健康的に小麦色に染まった幸の肌に光る汗を、妻は笑いながら見ていた。帰りのウシ型のナスの精霊馬もこの時に作った。
 そんなお盆も今日で終わり。
 明日からは私も妻もお盆の前の生活に戻る。幸はまだ続く退屈な夏休みを宿題をしながら過ごすつもりらしい。なかなかかまってやれないのが残念だ。
「幸」
「……ん」
 居間で妻のお気に入りの座布団に顔を埋めるようにうたた寝をしていた幸に声をかける。幸はまだ眠気が覚めないのかゆっくりと体を起こして、短めのツインテールを軽く振り回してから目じりをごしごしとこすった。
「今年も母さんと一緒に花火大会をするよ。準備しよう」
「……うん」
 私の言葉を受け、少し顔の表情を崩し、それでもすぐに笑顔になって、幸は手際よく準備を整えていく。お盆に入る前に百円ショップで買っておいた線香花火に蝋燭、バケツと、そしてナスの精霊馬。
 軒先からサンダルで庭に出て、蝋燭に火を灯す。柔らかに揺れる光が辺りを照らした。近くに街灯もなく、部屋の電気も消えた今、蝋燭の明りと月明りだけが私たちを照らしている。
 風のない、静かな夜だった。暑さも落ち着いていて過ごしやすい。そんな中、三人で線香花火に火を灯す。
 ジィィィィ、パチパチパチ……。
「お父さん」
「なんだ?」
 火種を落とさないように気を付けながら、幸が私を呼んだ。
「今年はどれだけ出来るかな」
「さあな。天気も良いし、気を付ければ20本中10本はいけるんじゃないか?」
「そっか。幸、頑張るね」
「……ああ、父さんも頑張る」
 それだけ言葉を交わして、私と幸はまた線香花火に集中した。しかし、最初の一本は二人ともぽたりと落ちてしまった。そんな私たちを花柄のエプロンを来た妻が軒先から笑って見守っている。
「落ちちゃった」
「ああ、もう一度だ」
 次の線香花火を手に取って、私と幸はまた火を灯した。
 ジィィィィ、パチパチパチ……。
「お父さん」
「なんだ?」
「線香花火って素敵だよね」
「……」
「最初はパチパチ静かなのに、後からパンパン盛り上がって、最後は本当に小さい炎がなかなか消えないの。……死にたくないって叫ぶように」
「……」
「お母さんが好きだったのも……」
「幸」
「……ごめんなさい、お父さん」
「……良いんだ。集中してやろう」
「うん」
 ジィィィィ、パチパチパチ……ポトリ。
「……あ」
「……」
 幸の声とともに九本目がぽとりと落ちて、残りは最後の一本。無情なことにこれまで最後まで行き着いたものはなかった。私と幸は無言でそれを手にとって、火を灯す。
 ジィィィィ、パチパチパチ……。
「幸」
「ん」
「合体だ」
「うん」
 私は線香花火を幸の持つものとそっと合体させる。ぷくぅ、と大きくなったそれを二人で眺める。やがて、パン、パパンと盛り上がっていく。火花がちょっと熱いけど、手は離さない。ピークを過ぎてだんだんと小さくなるそれを見ながら、最後まで気を抜かないようにする。
 最後に線上の光がチラホラと見えるほど小さくなり、それからパチパチという音も聞こえないほど小さな光は、音もないままに消えていく。
 私はそれを見終えてから、長く息を吐いた。
「……今年も無事に送れてよかったな」
「……うん」
 毎年8月16日の送り火は家族全員の線香花火で送ってほしいの。そうすればきっと私のこと忘れないでしょう。活発な幸にはきっと最後まで落とさないのは難しいものね。
 妻の最期の言葉。今でも、あの日の強い妻の姿は忘れられない。妻は最後まで笑顔で幸の頭を撫でていた。
 ……ポタリ。
「……おかあ、さん」
 幸のかすれた声とともに、十一度目の線香花火が虚しく地面に落ちた。
 

 明日からはまた、2人だけの日々が始まる。――来年のお盆まで。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

12/07/18 デーオ

どこから3人が2人+1人になっているのかわかりにくかったが、線香花火と人生の切なさ、哀しさが感じられました。

「……」が多いので、半分くらいは心理描写・情景描写を入れるといいと思います。

12/07/18 汐月夜空

〉デーオさん
コメントありがとうございます。

あぅ…伝わりづらかったみたいですね。
最初から二人の物語なのです。妻、お母さんが居る描写があるのはあくまで二人の思いで、お盆中の二人の約束事のつもりでした。
幸が花火を終えてようやく泣けたのは、大好きなお母さんと一緒に居れるお盆が終わってしまったから、という感じです。
……も確かに多すぎましたね。ですが、心情描写は今回わざと減らしました。行間を読む箇所を作って情緒を出そうとしたのですが……こうやって説明している時点でこの作品は失敗でしたね。
ためになるご指摘ありがとうございました。次回に生かして精進していきたいと思います。

12/07/24 かめかめ

お母さんの写真を縁側に置いてあるのだと思って読みました。

最初は3人の幸せな夏休み、とおもっていましたが「明日からは私も妻もお盆の前の生活に戻る」のところで、おや?これは、死んでいる?と思い、その後の「花柄のエプロンを来た妻が」と言うところで、ああ、お母さんは遺影なのだな。と思いました。
幸福からさびしい気持ちへ、自然とシフトして、ほろりとしました。

12/07/24 汐月夜空

>かめかめさん
コメントありがとうございます。

しっかりと読み込んでくださったみたいで痛み入ります。
この作品はもう少し直しどころがあったなあ、と反省すべき作品でしたが、ちゃんと伝わるとやはり嬉しいものですね。
具体的には15日に幸の作文を聞いて、妻が泣いた描写があったのが分かりづらくなる原因だったかなと思ってます。
一応そこは、私の視点の願望で、という狙いがあったのですが、欲張るとだめですね。

12/07/28 そらの珊瑚

夜空さん
拝読しました。

きっと亡くなられてから
そんなに年数がたっていないのでしょう。
哀しいけれど、素敵な物語でした。

お盆の精霊馬、迎え火などの風習、とても懐かしかったです。
きゅうりの馬には、少しでも早く帰ってこれるように
なすの牛には、帰る時にはゆっくりと、そしておみやげもたくさん積めるように、そんな願いが込められているそうですね。
幸のお母さんも、きっとたくさんの愛を摘んで帰っていかれたことでしょう。

12/07/30 汐月夜空

そらの珊瑚さん
読んで下さり、コメントいただきましてありがとうございます。

哀しいけれど、素敵な物語ともったいない言葉ありがとうございます。
私が目指す作品の一つの形です。
精霊馬に関する知識はつい最近まで知らなかったのですが、羽海野チカさんの『3月のライオン』を読んで、この知識はいつか必ず作品に取り入れようと思ったものでした。
>たくさんの愛を摘んで帰って……
素晴らしい表現ですね。摘んで、という言葉は私には浮かんできませんでした。いっぱいの花束に包まれて帰るお母さん、綺麗ですね。

ログイン
アドセンス