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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

性別 男性
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アンチドリーマー

15/03/08 コンテスト(テーマ):第七十八回 時空モノガタリ文学賞 【 嫉妬 】 コメント:3件 浅月庵 閲覧数:1058

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 周りの奴らは皆、中学や高校の卒業文集に綴られた大きな夢、小さな夢を現実に叶えている。

 じゃあ、俺は?
 三十歳で未だにフリーター。十代の奴らに混じって俺は、コンビニでレジを打ってるよ。
 唯一の贅沢といえば、スーパーの総菜と缶ビール一本での晩酌。俺は頑張ってる、なんて無意味な慰めをビールと一緒に流し込む。クソみたいな日々だ。

 ーー高校の頃から俺は小説家になりたかった。当時、携帯小説が流行り始めた時期で、興味本位で書き始めたのがきっかけ。
 面白い、続き楽しみです、なんて顔の見えない奴らのド素人丸出しの感想が、俺に妙な自信を与えた。いっそのこと、つまんない、二度と文章書くんじゃねぇくらい叩かれてたらこうはならなかったのに。

 絶対、小説家になれる!なんて根拠のない自信が、俺から会社勤めの正社員という選択肢を省かせた。フリーターの方が小説を書くのに時間を割ける、自分自身を追い込めるだろうなんて、今となっては後悔でしかない方向性の間違ったストイックさは、己の首を締めあげた。

 文学賞やラノベ大賞、ミステリーに恋愛、童話のコンテストにまで手を出し、結果はどれもかすりさえしない。
 二十代後半辺りから“三十歳”になるまでに小説家の芽が出なかったら死んでやろうと思うようになった。

 そして、昨日俺は一人寂しくバースデーケーキの前で覚悟を決める。もう良いだろう、今さらまともな職にだってありつけやしない。同級生たちには何馬身差を付けられているだろう? 夢なんて持たなきゃ良かった。

 ーー俺は人生最後の日に山へ登る。頂上まで行って、下り途中のどこかでひっそり自らの生を終える、そう考えていた。

 平日の真っ昼間。山の頂上には誰もいない。腰を下ろし、つまらない風景をぼけっと眺める。俺のボロアパートはあそこら辺かな、高校を卒業して一人暮らしを始めてからずっとあそこだ。十二年ほど経った住めば都に、俺はもう戻らない。

 一時間ほど代わり映えのしない町の風景を眺めていると、一人の爺さんが登ってきた。
 悠々自適に年金暮らしで余生を楽しんでいるんだろう。羨ましい、俺もこういう普通の人生を歩めば良かった。

「先客がいましたとはね」と言いながら爺さんは首にかけた一眼レフに手をかける。「景色を撮ってもよろしいかな?」
「どうぞ。別にここ、俺の山じゃないし」
「どうも」爺さんはカメラを構えると、なんの変哲もない平凡な町に向けてシャッターを切り始める。

「......お爺さん、奥さんは一緒じゃないんですか?」初対面の人間に率直な疑問を投げかける失礼な俺。
「えぇ。もう亡くなってしまいました」
「そうでしたか」余計なこと聞いちゃったな。
「妻には苦労をかけました。私、四十過ぎにずっと勤めてた会社をクビになったんですよ。それでも妻はずっと支え続けてくれてね。定年を迎えてからは恩返しのつもりで、妻の好きなこの山へ毎週一緒に登るのが日課になって」

 ーー誰もそこまで聞いてないっての。話題を変えよう。

「カメラって楽しいですか?」
「撮ってみます?」と言われ、俺は結構ですと答える。「そうですか、私は楽しいですよ。夢もありますしね」
「夢?」七十近い爺さんが夢とは、なに言ってんだ。
「夢は妻の好きだったこの山からの風景で、写真のコンテストに入賞することです。それが私の、今の生き甲斐なんですよ」と純粋無垢に笑う爺さんの顔を見て......俺は心臓の強い鼓動を感じる。
 なんなんだ、この感じ。
 その瞳を見て、俺は......。

「ふふ、そうでしたか、頑張ってくださいね」
 俺はいても立ってもいられなくて、爺さんに背を向ける。

 ふふ、なにが写真のコンテストに入賞だよ、こんなクソみたいな町を撮ったところで評価されるわけないだろ。なにが夢だよ、なにが。

 気づくと俺は、山を転がり落ちるように走って下山を始めた。
 なんだよおい、なんなんだよクソ! このどこにでもあるクソみたいな山のクソみたいな場所で俺は死ぬんだろ? どうせ生きてたって小説家になれないんだから。

 なのにどうして、俺は走ってるんだ。どうして脳裏にボロアパートの一室と古びたノートパソコンがよぎるんだ。

 猛スピードに歯止めが聞かなくなり、自分の足と足が絡まり合って、俺は派手に転ぶ。ゴロゴロ転がり、道を外れ、大木にぶつかって俺はようやく止まる。

 畜生。不思議と痛みは感じない。この胸にあるのは猛烈な悔しさ。
 なんなんだよ、あの爺さん。俺より倍以上生きてるくせに、俺の方が断然若いっていうのに、少年みたいな目で夢を語りやがって、クソが。

 ふざけんな、畜生。せっかく死のうと思ってたのに、諦めがついたと思ってたのにーー。

 あの爺さんの真っ直ぐな目を見てたら、俺は.......。


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このストーリーに関するコメント

15/03/08 海見みみみ

拝読させていただきました。
後半の熱さがいいですね。
おじいさんの少年のような目。
それに嫉妬し、負けられないと燃え上がる主人公。
やはり嫉妬という感情は人間に必要なものですね。
いい勉強になりました。

15/03/09 ナポレオン

拝読致しました。
主人公の悔しさがよく伝わって来ました。後半の夢を諦められずとにかく前に進むしかなくなってしまった主人公の疾走感が素敵です。

15/03/25 光石七

拝読しました。
おじいさんにキラキラ瞳を輝かせながら夢を語られたら……奮起するしかないですよね。
嫉妬が主人公の心に火をつけた。こういう嫉妬の働きってあると思います。
三十歳なんて、若い若い。諦めるのはまだ早いはず。主人公に頑張れとエールを送ります。

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